はじめに

レイド紙laid paperとは、簾の目が入った紙のことです。今でこそ特殊な紙として扱われていますが、18世紀半ばになめらかなウーヴ紙wove paperが発明されるまで、ヨーロッパではレイド紙が一般に使用されていました。縦横に走る独特の模様は、手漉きの際に用いられる簾の跡です。今日レイド紙として流通している紙のほとんどは機械漉きですが、それらの場合、漉かしを入れるのと同じ機器で凹凸が付与されています。

機械漉きが一般化した現代において、あえてレイドラインを施すのは一種のアナクロニスムに他なりません。歴史的な教養を備えた人の目には、レイド紙は、あの輝かしきルネサンスの時代や、絶対王政が文芸を支えた17世紀、そして啓蒙の時代18世紀の少なくとも前半までを思い出させるのです。モンテーニュやラシーヌ、ヴォルテールの筆を受け止めたであろう紙と、同じでなくともよく似た紙を現代において使うことができるとすれば、何と素敵なことでしょうか。本稿では、そのような懐古趣味から生産されているレイド紙の便箋および封筒を3種類ご紹介します。

1. G.ラロ – ヴェルジェ・ド・フランス

Vergé de France A5 Ivory
ヴェルジェ・ド・フランス A5レターセット アイボリー

以前紹介したG.ラロのヴェルジェ・ド・フランスも、レイド紙の魅力を存分に味わえるものです。このレターペーパーは、同ブランドが最も古くから販売している商品です。「ヴェルジェvergé」は英語の「レイドlaid」に相当し、ここでは形容詞の名詞化によりレイド紙を意味します。

Vergé de France - close look
鮮明なレイドラインが入っており、筆記時には凸凹がはっきりと感じられます。もっとも、よほど筆圧が弱くないかぎりは畝が筆記の妨げになることはないでしょう。滑らかな書き心地を楽しみたい方には勧められませんが、あえてレイド紙を選ぶのであれば、これくらいはっきりとした凹凸があるものにするのも一興です。

Vergé de France - Envelope
A5サイズのレターセットで購入した場合、付属する封筒はスクエアフラップの二重封筒です。内側に配されたアクセントカラーが魅力です。この封筒の場合、”G. LALO – PARIS”のエンボスはちょうどフラップに隠れる位置に押されています。おそらくはブランド名を目立たせないための工夫なのでしょう。

謙虚さと大胆さが共存するエレガントなデザインは、まさに「フランスのレイド紙Vergé de France」の名にふさわしいものです。G.ラロの製品は、輸入元であるクオバディス・ジャパンのオンラインストアのほか、Amazonでも購入できます。

2. アルジョウィギンス – コンケラー・レイド

Conqueror Laid - Brilliant White
コンケラー・レイド ブリリアントホワイト A4便箋・DL封筒

コンケラーはアルジョウィギンス社が販売する高級紙ブランドです。スコットランドのストーニーウッドStoneywoodという村にある工場で生産されています。この紙が生まれたのは1888年、郵便制度が既に確立し、手紙が盛んにやりとりされていた頃です。そのような時代にあって、上質な紙で手紙を書くことは、書き手の威信を高めることにつながりました。コンケラーの便箋や封筒は、企業やホテル等で採用され、今日でもビジネスペーパーとして高い評価を保ち続けています。

Conqueror Laid - Close Look

レイドラインはあくまで控えめであり、書き心地を損ないません。またこの紙には透かしが入っています。

Conqueror Laid - Watermark

文字だけの端正なウォーターマークです。ビジネスにも問題なく使えることでしょう。

Conqueror Laid - Envelope

封筒の中にはロゴが淡い灰色で印刷されています。蓋はスクエアフラップです。筆者としてはポインテッドフラップの方がエレガントなように思いますが、ビジネスに使いやすいのは確かにスクエアフラップの方に違いありません。

コンケラーの便箋・封筒は、伊東屋のオンラインショップ等で購入できます。ビジネスペーパーとして定評がある製品ですが、謙虚で凛々しいそのデザインはやはり魅力的です。高級ホテルでも使われているものなので、旅先から手紙を書くつもりで、プライベートで使うのも素敵です。

3. オリジナル・クラウンミル – レイドペーパー

Original Crown Mill Laid Paper
オリジナル・クラウンミル レイドペーパー A4ライティングパッド・DL封筒

オリジナル・クラウンミルは、ベルギーのペルティエ社Pelletier&Coが展開するレターブランドです。機械漉きではあるものの、古い手漉き紙を再現したレターペーパーを販売しています。ブリュッセル南東に位置するラ・ユルプLa Hulpeは、清らかで豊富な水に恵まれた町であり、15世紀から製紙業が営まれてきました。紙漉きの機械化は手漉きの伝統を破壊しましたが、19世紀後半、創業者フレデリック・ペルティエFrédéric Pelletierは、かつて王侯貴族にも納められたこの地域伝来の手漉き紙を機械漉きの技術で甦らせようと試みました。こうして生み出されたのがオリジナル・クラウンミルのレターペーパーです。

Original Crown Mill - Writing Pad

便箋は、上辺が糊付けされたライティングパッドとして販売されています。

Original Crown Mill - Close Look

紙面の凹凸ははっきりと視認でき、万年筆を走らせていると畝が微かに感じられますが、それでいてレイドラインが筆記を邪魔することはありません。絶妙なバランスといえましょう。また特筆すべきは見事な透かしです。

Original Crown Mill - Watermark

ロゴに加え、複雑な線からなる王冠が描かれています。便箋の中央に大胆に漉き込まれたこのウォーターマークは、手紙に高貴な風格をもたらします。なおこの透かしはA4便箋にしか施されていないため、購入時にはご注意ください。

Original Crown Mill - Envelope

封筒にはレイド紙が斜めに使われています。フラップはやや短く、先端が封筒の中央あたりに来るようにデザインされています。ぜひ封蝋を押して送りましょう。

良好な書き心地と見事なウォーターマークが楽しめるオリジナル・クラウンミルのレターペーパーは、機械漉き紙ではあるものの、手漉き紙に勝るとも劣らない逸品です。上等な品でありながら、Amazonで手軽に購入できるのもありがたいところです。

おわりに

レイド紙らしい凹凸と細部の意匠が魅力のラロ、端正で慎ましやかなコンケラー、手漉き紙と比べても甲乙つけがたいオリジナル・クラウンミル――どれも素晴らしいレターペーパーです。教養ある『リナシメント』読者諸氏が書く文章は、きっと古典的なエレガンスに溢れた高貴な文体を備えていることでしょう。そんな皆様の文章には、手漉きの名残りをとどめる古風なレイド紙の便箋がよく似合うに違いありません。

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