Archive Selection : 〈美〉を求めて――芸術論5選

菊坂 高踏


先日、かのプロフェソーレ・ランバルディ大橋店主が見事な格言を生み出しました。いわく、「壁には絵画を、部屋には洋服を!」――本誌もまた、創刊以来、優雅で上質なライフスタイルを提案すると同時に、古典芸術を記事の主題に取り上げてきました。本特集では、数ある記事の中から、とりわけ秀逸な芸術論を5篇厳選しご紹介します。

1.「小林秀雄の印象主義、あるいは美の捉えがたさについて」

いかにして我々は美を語りうるのか――小林秀雄の言説に寄り添いつつ、菊坂氏はこの問いに挑みます。「美を求める心」の一節を引きつつ、氏は実証的な学問の限界を指摘します。彼が可能性を見出すのは、むしろ一般に不正確なものとされる印象批評です。小林はまさにこの手法により、モーツァルトの「疾走する」悲しみを捉えたのでした。直観により捉えた美を、その不確かさにもかかわらず信じること、それこそが批評の条件なのかもしれません。

小林秀雄の印象主義、あるいは美の捉えがたさについて

2.「事物と神秘――二重空間・カラヴァッジョ・ボデゴン」

二重空間絵画からカラヴァッジョを経てボデゴンに至る静物画の歴史をたどりつつ、菊坂氏はそこに事物の価値をめぐる逆説を見出します。アールツェンやブーケラールは事物を卑しむべきものとして描きましたが、カラヴァッジョは聖俗の垣根を取り払い、スルバランに至っては事物を聖なるものとして表象しました。このような事物の両義性を、氏はキリスト教における受肉の神秘と結びつけます。キリスト教の根本的な逆理を絵画によって描き出す、秀逸な論考です。

事物と神秘――二重空間・カラヴァッジョ・ボデゴン

3.「フランス・ハルス」

オランダ黄金時代の代表的画家フランス・ハルスを、現地在住まだらの牛氏が紹介します。研究書を参照しつつも、あくまで素朴な目で、画中の人物と対峙するかのように鑑賞する氏のスタンスは、どこかディドロを思わせます。

フランス・ハルス

4.「子供、il vero(真実)――イタリアの画家アントニオ・マンチーニ」

同じくまだらの牛氏による、ナポリ出身の画家アントニオ・マンチーニの紹介。子供の主題・糸格子を用いた制作術・マチエールをめぐる実験的試みなど、この画家の諸特徴を論じます。古典的な装置と表現主義的筆触をともに用いて画家が捉えようとした「真実」とは、どのようなものであったのか、興味深いかぎりです。

子供、il vero(真実)――イタリアの画家アントニオ・マンチーニ

5.「後期ソナタの最高傑作 〜嘆きの歌の分析・解説〜」

ライター高橋氏によるベートーヴェン《ピアノソナタ 第31番》の分析。前時代のバロックと来たるべきロマン主義の間を揺れ動く構成や、いかにもベートーヴェンらしい暗い苦悩と光への憧憬を、高橋氏は、楽譜の精緻な読解に基づき終始明晰に論じています。入門書的な楽曲紹介は読み飽きたという向きにも、本稿は一読の価値があるでしょう。

後期ソナタの最高傑作 〜嘆きの歌の分析・解説〜