藝術家から見た藝術家 ~巡礼の年 イタリアより~

皆さま初めまして、クラシック音楽を主体に様々な事柄を執筆させて頂くことになりましたライター高橋です。第1回となる今回は、F.リスト作曲 巡礼の年 2 「イタリア」を紹介させて頂きます。

フランツ・リスト 1839年

その前にまずリストという作曲家について軽く触れたいと思います。リストは1811年にハンガリーで生まれ、ロマン派の大家として作曲技法や演奏技法の発展と促進に貢献し、同時代のショパンやワーグナーとともに第一線で活躍しました。ピアノ作品を主に書いており、その演奏能力においては未だ彼の右に出るものはないともされています。その技巧を示すかのような「超絶技巧練習曲」や「ハンガリー狂詩曲」などといったヴィルトゥオーソ性の高い作品が一般的には知れ渡っている事でしょう。

しかし彼はそのヴィルトゥオーソ性ばかりが取り沙汰されるが為に一般にはあまり知られていないのですが、まるで読み始めたら止まらないような名小説の様に壮大なストーリー性を持つ作品や、いかにもロマンティックで叙情性たっぷりの作品も数々残しているのです。この連載でリストの作品を取り上げる際は、そういった隠れた名作も紹介していきたいと思います。

巡礼の年について

さて、前置きはこのくらいにして曲の紹介に移りましょう

巡礼の年 2 イタリアという曲集はリストが当時交際していたマリー・ダグー伯爵夫人と滞在していたイタリアでの体験などを元に創作されたものであり全7曲から構成されています。「巡礼の年」という題名が付いている曲集は他にもあり、第1年スイス、第2年補遺ヴェネツィアとナポリ、第3年と、それぞれがその当時のリスト自身の経験や印象を元に作曲されています。


1. Sposalizio 婚礼

婚礼という名前からなんとなく想像できるかと思いますが、この作品はイタリアの巨匠であるラファエロ・サンティの「聖母の結婚」が題材となっています。

聖母の結婚 油彩 キャンバス 1504年頃

聖母の結婚は、聖母マリアが国中の独身の男性に杖を持たせ、その杖の先に花が咲いた物がマリアの伴侶となると天使が告げた後、お告げ通りに従った結果ヨーゼフが持つ杖に花が咲き2人は結婚に至る。と言った場面が描かれた絵画です。そのモチーフと共に、結婚に対するマリアの心情や荘厳な雰囲気、天使からの祝福などといった様々な情景が美しく気品に満ちていて、聴き終えた後も幸せの様相が心に残り続けるでしょう


2. Il penseroso 物思いに沈む人

1曲がラファエロからインスピレーションを受けているのに対し、第2曲は同じくイタリアの芸術家であるミケランジェロの作品を題材にしています。フィレンツェにあるメディチ家の墓にあるロレンツォの彫像の呼び名である同タイトルのこの作品は、第1曲の印象とまるで違う陰鬱としたモチーフによって始まります。同音連打によって刻まれるリズムが曲の構成全体に緊張感をもたらし、深い死の世界に聴衆を誘うでしょう。


3. Canzonetta del Salvator Rosa サルヴァトール・ローザのカンツォネッタ

続いての作品は、歌曲のメロディと伴奏を共にピアノで演奏すると言った様相の作品になります。非常にわかりやすいA B A’と言った三部形式で書かれており、リズムも明快で明るいものになっているためか非常にポジティブな印象を受ける作品になります。タイトルには「サルヴァトール・ローザの」と書かれておりますが、題材の詩はボノンチーニという別の人物のものとされています。


4. Sonetto 47 del Petrarca ペトラルカのソネット 47

さて、いよいよ曲集の折り返しまで来ました。この曲に続き、第56曲と「カンツォニエーレ」というイタリアの詩人であるペトラルカによる抒情詩集からモチーフを取り上げられています。カンツォニエーレが愛の詩であることから3曲それぞれが深い愛情に満ちた作品となっており、その様相がきめ細やかに再現されてます。

47番の冒頭から情熱的な上行にて始まり比較的平和な進行にて進む様相からは、優しさに満ちたおおらかな愛情を感じ取ることが出来る作品になります。


5. Sonetto 104 del Petrarca ペトラルカのソネット 104

この作品は47番、後に紹介する123番に比べて心の動きが明快に書かれており、一目惚れして片思いに囚われた際の躍動感とやるせなさが交互に湧き立つ様子がとてもドラマティックに表現されている作品になります。小品ながら非常に聞き応えのある作品でもあるので、演奏会などで単体で取り上げられる事が多い作品になります。


6. Sonetto 123 del Petrarca ペトラルカのソネット 123

いよいよ最期のソネットとなりました。冒頭、少し迷いがあるような不思議な世界観にて始まり、解決する様な、はたまた出来ない様な、といったもどかしい時間が流れます。やがて少しずつ解決に向かい、ソネット3作品の中でも特に甘美なメロディが響きます。そのメロディが様々な変化をとげ、優美で慈しみに満ちた世界を表現します。


7. Après une lecture du Dante-Fantasia quasi sonata ダンテを読みて ~ソナタ風幻想曲~

いよいよ曲集を締めくくる作品になります。タイトルにある通り、この作品はダンテ・アリギエーリ作の叙情詩「神曲」よりインスピレーションを受けて作曲されています。地獄篇、煉獄篇、天国篇の三部構成の神曲に基づきこの作品も三部に分かれて構成されていて、それぞれの曲想が特徴付けられています。開幕早々「悪魔の音程」とも言われる増4という音程関係で、まるで罪の宣告の様に厳格なリズムが刻まれて行くその後嵐の様な連打により、まるで終わりの見えない壮大な地獄が表現され、物語は始まります。煉獄篇ではベアトリーチェとの甘美なる出会いや、人間の苦悩、憎悪、憐憫、希望などといった心境の変化を非常に目まぐるしく変わる曲調の中で表現しています。微かな希望の光によって始まる天国篇では、神の境地へと至ったダンテを祝福するが如く、光に満ち溢れた白銀の様なファンファーレや祝福がもたらされ、まさに王道的なクライマックスを迎えます。

この作品は曲集の中では唯一卓越した技巧性を兼ね備えた作品かつ、規模も比較的巨大であるため、ピアノ音楽においても屈指の難曲の一つとされています。そのため洗練されたストーリー構成の人気と共に、非常に演奏機会の多い作品でもあります。


オススメのCD

この作品を視聴する際にオススメの演奏は、やはりラザール・ベルマンのものでしょう。

べルマンは知る人ぞ知る旧ソ連出身のロシア人ピアニストで、19世紀ロマン派の作品を主に演奏していました。重厚感あふれるタッチと作品に対する真摯なアプローチが、聴く人の心を作品の世界に連れて行ってくれます。他にも数々の名盤を出していますので、ご興味持たれましたら視聴いただけると幸いです。

おわりに

巡礼の年「イタリア」如何でしたでしょうか?きっとリストが持つ素晴らしいファンタジーの世界に浸って頂けたことかと思います。リストは他にもまだまだ素晴らしい作品を残していますので、今後も取り上げて紹介させて頂きたいと思います。

また、クラシック音楽の世界についての疑問や、こんな曲を紹介してほしい!などご要望ありましたら、お気軽にお寄せくださると幸いです。

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