君はビターバレン(Bitterballen)を知ってるか――ホランドB級グルメ

まだらの牛

なんだか月並みで恥ずかしいタイトルですけれども、キャッチ―であればいいなと願った結果です。副題が「ホランドB級グルメ」というのも嫌らしい。まず「B級グルメ」という言葉が人の注目を集めようという魂胆が透けていて鼻につくでしょう。そして「ホランド」というのが、またよくない。もう半年以上前(昨年の10月)、オランダ政府は自国の呼び名をHollandは廃止し、the Netherlands(オランダ語ではNederland)に一本化すると発表していました。元から英語での正式名称はthe Netherlandsだったわけですが、Hollandという呼称も広く普及していました。しかしHollandは厳密にはオランダの西部の一地方でしかないわけで、飾り窓やマリファナを喚起するその呼称より、オランダ全体を見てほしいという思いからグローバルなイメージの転換を図ったのです。

なにせ下品なタイトルですが、それはひとえにビターバレンの食べ過ぎによる胃もたれのせいということにしましょう。しかしビターバレンとは何でしょうか。オランダ人は自嘲的にオランダに美味しい食べ物なんてものはないといいますし、それでも長い歴史の中では何かうまいものが発明されているはずだと期待する外国人は数か月の滞在の後にはインドネシア料理やスリナム料理は美味しいね(オランダの植民地だったのでこれらの地域のレストランが多いのです)、あとスーパーの野菜は安い、ぐらいの感想に落ち着きます。だが待ってほしい。ビターバレンがあるではないか。どんな酒場でも必ず置いてあるといって過言ではないビターバレンが。

ビターバレンとはなんでしょう。オランダ語ではbitterballen。Balはボールという意味で、ballenはその複数形。Bitterは英語と同じで「苦い」という意味ですが、直接にはビターチェ(bittertje、これは指小形なのでbitterやその複数形bittersなどとも呼ばれます)と呼ばれる各種の苦い薬草酒に由来しています。もっともそのビターチェが材料に使われているわけではなく、伝統的にはそうしたお酒のつまみとして供されたからだとか。それではどんなつまみかというと真ん丸な形をした揚げ物です。中はクリーミー。完全な球状のクリームコロッケと言えば近いでしょうか。当然ビールによく合う。重い口当たりのベルギービールと合わせてもいいし、ハイネケンなどの軽いピルスナーに合わせてもよい。いつか詳しくご紹介したいと思いますが、ボックビール(起源のドイツ語ではBock、オランダ語ではBok)のグラスを片手につまむのよい。ソースはマスタード、ケチャップ、マヨネーズ、なんでもよい。一度どこかの酒場で鮮やかなピンク色のビーツのソースが出たこともあります。

筆者はオランダに住んでいますので、そこらのカフェ(カフェといのはこの地では大抵酒場を指します。コーヒーも出ますが)に行けばビターバレンが食べられますが、将来この地を離れた時に、この味が恋しくなるに違いない。そのためには自分で作れるようにならなければならない。常日頃そう思っていたのですが、ある日散歩していると、ベルギービールのブランドLeffeが出したらしい小さなレシピ本を拾いました。ここではよく住宅街に古本をシェアするための箱が設置されてあり、不図覗いてみると、そのレシピ本を見つけたのです。そこにはビターバレンのレシピが載っていました。

 

それでは実際に筆者がそのレシピ本やyoutubeの動画などを参考に作ってみた過程(ざっくりとしたレシピ)をご紹介しましょう。ちゃんとしたレシピというのはよそ行きのもので、しばしば難しいことが書いてあります。しかし適度に簡略化すれば、それほど手間がかかるものではありませんでした。

材料:
牛のブイヨン 4dlくらい?
バター 60グラム
小麦粉 60グラムかちょっと多いくらい
牛リブロース(部位はなんでもよい) 200グラムくらい
玉ねぎ半玉(なくても可)
小麦粉
パン粉
卵二個
塩胡椒
パセリ
その他適当な香辛料(伝統的にはナツメグ!)
油 揚げ物用 鍋に三センチ分くらい

 

手順1  牛のブイヨンを準備しよう
鍋に水、牛肉や骨髄、ネギ、玉ねぎ、ニンジン、セロリ、ローリエ、タイム、ローズマリー、パセリ、チョウジ、胡椒、塩、などの肉と野菜や香草類を入れ、灰汁を取りながら最低でも四時間は煮込んでください。手間もガス代もかかるのでこの方法がお気に召さない場合は私のように、牛肉の塊を市販の牛の固形ブイヨンの素を溶かした水で、肉に完全に火が通って柔らかくなるまで弱火で煮込んでください。放置するだけなので私は一時間半ほど煮込みましたが、そこまで時間をかけなくとも大丈夫だと思います。

 

手順2  ブイヨンから牛肉をすくって細かくほぐして行きます
出来上がったブイヨンから牛肉の塊を取り出し、少し冷ました後、包丁で細く切っていきます。もう繊維にそってぼろぼろ崩れる状態になっていますので、指でさらに細かくほぐして行きましょう。猫の餌みたいなフレーク状になればオーケーです。

手順3  ルーを作っていきましょう
60グラムくらいのバターをソースパン(フライパンでもよい)で溶かして行きます。この際、お好みでみじん切りにした玉ねぎを一緒に入れて炒めてもよいです。バターが溶けたらバターと同量の小麦粉をソースパンに入れてひたすら混ぜて行きます。量りがない場合は少しずつ加えて行き、混ぜながら様子を見ましょう。この間ずっと弱火です。焦げ付きが不安なら、小麦粉を加える時に鍋を火からおろしましょう。

手順4  ブイヨンを加える
ルーにブイヨンを加えます。量については神経質になる必要はありません。ざっくりと行きましょう。少しずつ加えて行って様子を見ればよいのです。ブイヨンを加えた後はひたすらまた混ぜて行きます。ケーキの生地のようなどろっとした感じになればよいです。水分量が少なすぎると固い食感になり、多すぎるとあとでこれをボール状にするのに苦労するでしょうが、冷蔵庫で冷やして成形しやすいようにするのでこれも気にしすぎる必要はありません。お好みで色々調整してみてください。ちょっと水分量が多すぎたと思った際は、ゼラチンを入れるという手もあります。

手順5  牛のフレークを加えて塩胡椒、その他の香辛料で味付け
鍋を火からおろして牛のフレークを加え、塩胡椒、その他ナツメグ、パセリなどの香辛料を入れて混ぜ合わせます。味付けはお好みで。味見をして調節しましょう。伝統的な味付けは塩胡椒、ナツメグ、パセリですが、私は今回近所の中東系のスーパーに売っていた香辛料のミックス、その名も「トスカーナ風」というものを入れました。成分を見ると大蒜、パプリカ、砂糖、黒胡椒、パセリ、オレガノ、バジル、カルダモン、マスタードシード、コリアンダー、ローズマリー、タイム、ターメリック、アニス、マジョラム、といった錚々たるスパイスのメンツが揃っていました。完全に脱線ですが、オランダにある中東系のスーパーにはこうした香辛料のミックスが棚一面に並び、60グラムで一ユーロほど(120円くらい)で売られています。こうしたスーパーに並ぶ野菜は多くがトルコとかモロッコなどから輸入したものらしく、農業大国のオランダの野菜より安い。一度日本人の知り合いをこの店に連れて行ったら、少し痛み気味のマッシュルームを手に取って、そのスーパーのすぐ近くにあるオランダの大手チェーンのスーパーから廃棄予定のものを夜中にこっそり回収して来てここで売りさばいているんじゃないかなどと言っていましたが、そんなことはないと信じています。単純にオランダで暮らす中東系の移民の企業努力の賜物で安くなっているのでしょう。とはいえ、このスーパーではまったくなんのラベルも貼っていないただの500mlのペットボトルにオリーブオイルが詰められて売ってあったりするので、品質に疑問が出るのも無理はないですが(試してみるとやはり新鮮さが感じられないい味でした)。

手順6 タッパなどの保存容器に入れて冷蔵庫で冷やします
一晩冷やせというレシピがあったり四時間でよいというのもあり。長く冷やした方が味がこなれるかどうかは不明ですが、ビターバレンを作るという目的であれば、中身が冷たくなっていれば十分目的が達せられます。

手順7  丸めて衣をつけます
お宅にお子さんがいる場合は彼らの出番です。小麦粉、溶き卵、パン粉を入れた容器を用意し、スプーンですくったタネを小麦粉をまぶしながら丸めて、溶き卵とパン粉で衣付けします。ちなみに今回のレシピでは35個出来ました。

手順8  揚げてください
揚げ物の油の処理と言うのは面倒なものなので、ネットを検索すれば少量の油で揚げる方法というのが見つかります。蓋をしてじっくり火を通して裏返したり油を浸かっていない部分に掛けたりして揚げ焼きするというのがその方法ですが、球状のビターバレンにはその方法は向かないようで、試したのですが、うまく揚がりませんでした。大人しく、たっぷりの油で揚げましょう。180度(小麦粉を入れたら全体にゆっくりと広がるくらいの温度)で二分から四分ほど、ダークブラウンのビールと同じ色になるまで揚げましょう。

完成です。お好みでマスタードなどのソースを添えて食べてください。写真映えのためにはパセリを振りかけてもいいですね。中が熱々の内にその溶けだすような感触を冷えたビールと一緒に味わってください。簡単に言うとルーとブイヨンを混ぜたものを冷やして丸めて衣をつけて揚げるだけの料理ですので、難しい技術は必要ありません。タネの具材や味付けで色々遊んでみるのも楽しいのではないでしょうか。

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