大聖堂とビールの町ケルン(前篇)

まだらの牛

ドイツのケルンに行ってきたので、実際にケルンに行ったら何があるの?といったことをご紹介したいと思います。

ケルンでおすすめの観光地10選みたいな記事はすでにネット上に他にありますので、そうした網羅的なものの代わりに、個人的に体験したことを書きます。

まずケルンの場所ですが、ドイツの縦にみて中央の西、オランダとの国境からさほど離れていない場所に位置しています。かの有名なライン川の流域にあり、町は川を挟んで西岸と東岸に別れていますが、ケルン大聖堂などがあり、観光客が主に訪れるスポットは基本的に西岸に集中しており、歩いて回れる距離に大体の観光スポットが集まっています。

読者の方々はケルンというとどんなイメージがあるでしょうか。大聖堂は有名ですよね。私もそのせいか古都というイメージだけ抱いてケルンに来たのですが、実際来てみると、思った以上に近代的な町という印象を受けました。また、選んだ宿はスラブ系の主人が経営している安宿だったことから、ついてすぐに移民街に入りました。中華系やトルコ系のスーパーやキオスク(Kiosk:小さな個人商店で、夜間も営業しており、酒や飲み物、軽食などが置いてある)が並び、「先住」ドイツ人の顔はあまり見かけず、トルコの街角を歩いているような場所です。それでも完全に移民だけで占められているわけではなく、ドイツらしい居酒屋もあり、聞こえてくる言語も、移民系の見た目の人同士の会話でもほぼドイツ語でした。

訪れたのはちょうど欧州を熱波が見舞った時で(この記事を書いている時もその真っ最中なのですが)、宿の主人の老人は白いタンクトップ姿で私を迎えました。Airbnbで見つけた一泊四十ユーロほどの宿です。前にマーストリヒトで泊った時もこのぐらいの価格帯の宿だったのですが、そちらはトルコ系、このケルンの宿はおそらく東欧系の経営者でした。欧州で安い価格帯で提供されている宿は高い確率で移民系の人が経営しているのではないかと思います。

部屋は狭いですが、キッチンが付いており(使いませんでしたが)、清潔に整えられています。クローゼットが何故か無駄に大きく、高いところまで棚があり、代わりにバスルームは狭くトイレに座ると足が洗面台につっかえます。ハンドソープやシャンプーはマーストリヒトのトルコ系の宿にあったものとまったく同じで、この辺の業者でよく使われているのでしょうか。ご丁寧にも皮膚科のお墨付きといったことがパッケージには書いてあります。

中途半端にしか開かない窓を開けると、隣家の屋上やバルコニーなどの荒廃した風景が見えます。旅先で何度こうした風景を見たでしょうか。安宿の窓から見えるのは決まってこうしたごみごみとした、窓ガラスが割れていたり、ゴミがバルコニーに散らかっていたりする光景です。

Eigelsteintorburg

宿に着いたのは昼の二時過ぎくらいで、ケルンはその時、三十度は優に超えていました。熱波の真っ最中に来てしまったのです。熱波の中で石造りの街並みを、それもトルコ系の人々が歩いている街並みを進んでいくと、欧州ではなく、中東のどこかの町にいるような気持になります。それでも宿からしばらく進むと、コンクリートのビルの間から聳え立つゴシックの塔が。間違いなくケルン大聖堂です。宿はケルン旧市街の北にある門、Eigelsteintorburgの近くにあり、そこから南下し、ケルン中央駅の高架下を抜けると、大聖堂を中心としたケルンの観光地の真ん中に辿り着きます。

ケルン大聖堂(Kölner Dom) Domkloster 4, 50667

ケルンを訪れてケルン大聖堂の中に入らない人がいるでしょうか。それほどこの町はこの大聖堂を中心として作られています。ケルン中央駅の本当に目の前にこの巨大なゴシックの建造物が聳え立ち、その前にある階段には観光客などが、市の観光のイメージのためにそこに座っていることを命令されてでもいるかのように、大量に座っています。

小学生のころにケルン大聖堂というものがあるというのを知り、それ以来何となく憧れを抱いていたのですが、とうとうやって来ると、意外なことに特に感慨というものが湧いて来ません。確かに巨大な建造物の隅々までに複雑な彫刻が施されているのは美しいのですが、年齢とともに感性が鈍ったのでしょうか。

複雑なレゴブロックを見ているくらいの感慨しか湧いてこないので、中に入ってみると、もう少しましな感想が出てくるかと思い、入って見ましたが、むしろ外から見ていた時の方が驚嘆や感心の度合いは高かったです。確かに広く、豪華なのですが、所詮教会で、欧州の教会をなんどか見た後では特段驚くというほどのものでもありません。一番奥のスペースが、祈祷者のためだけで入れなかったり、すべてのスペースが開放されているわけでもありません。そうやって閉じられている空間ほど魅力的に見えるもので、床の装飾からして、アクセス可能な場所より一段上に見えましたが、入れるとなったらまた別の感想を抱いたでしょう。

面白かったのは現代的な天井画もあったことです。奥の方の、その祈祷者向けの閉じられた空間のすぐそばの空間には、低い天井にネイティブアメリカンの姿が描かれた南米のストリートアートにでもありあそうな天井画があり、大聖堂における信仰は現在進行形なのだなと感じました。

ケルン大聖堂、入場は無料です。宝物館(Schatzkammer)や塔に登るためには別途別料金がかかりますが。私が訪れた時はコロナのせいか、塔は登れませんでした。宝物館はあとで入ろうかと思って結局入り損ねたので、どんな様子か分かりません。

ルートヴィヒ美術館(Museum Luwig) Heinrich-Böll-Platz, 50667 

私がケルンに着いた日は八月の第一週目の木曜日で、「Langer Donnerstag」(長い木曜日)といって夜10時までこの美術館が開いているという運の良い日でした。街歩きをした後、夕食を取り、その後にゆったりと美術館に入るという贅沢な時間の使い方が出来たのです。夏のことで、夜九時ぐらいにやっと日が暮れ始めるので、天気の上でいえば、美術館に入った八時半くらいでは昼とそれほど変わらない感覚でしたけれど、時計の針を眺めて見れば、この時間に美術館に入れるというのはやはり特別な感じがしてきます。

ルートヴィヒ美術館は主に現代アートが展示されており、訪問時は、「Mapping the Collection」という特別展が開かれていました。1960年代や70年代のアメリカのアートに光を当てたもので、フランスの詩人アルチュール・ランボーの仮面を被って、アメリカの薄汚い通りに出没してその様子を写真に撮ってみたものなど、インパクトのある作品に溢れていました。

常設展も充実しており、ピカソやマックス・エルンストなどの作品が展示されています。ピカソのフクロウや鳩などの彫像作品はどう目を凝らしても小学生が美術の時間で粘土をこねて作ったようにしか見えないのですが、権威主義者の筆者は盲目的に「素晴らしい!」と嘆息しました。

個人的に一番記憶に残ったのはEdward Kineholzの「The Portable War Memorial, 1968」です。硫黄島の戦いで撮られた有名な写真に作家がインスピレーションを受けて作ったもので、星条旗を硫黄島に突き刺している写真をもとにした彫像と、アメリカ軍に若者を勧誘するアンクル・サムのイメージ、ホット・ドッグの屋台の前で語らっている男女のイメージなどをあしらった、大戦時のアメリカ文化を代表するような芸術作品です。事前になにもこの作品のことは知らず、硫黄島の星条旗を突き立てている有名な写真も、少なくとも意識の上ではまったく記憶に残っていなかったのですが、展示室で見ると、否応なしに目がひきつけられました。強烈な吸引力を持つ芸術作品だと思います。

Peters Kölsch Mühlengasse 1, 50667

ケルンにはケルン特有のビールがあります。変わっているのは容器です。200mlの円筒形のグラス(シュタンゲ【Stange】:「棒」という意味)に入れられ、客が飲み干したらウェイターがビールの入ったグラスと交換して周ります。ウェイターはビールグラスが入る穴のある円形のお盆のようなもの(クランツ【Kranz】:リース、輪、花輪という意味)を持ち、定期的に客の周りを回って飲み干されたグラスを新しいものと交換します。会計時にはお代わりの度にコースターに記された棒を計算します。

ケルシュは薄い黄金色で、ピルスナーとそれほど変わらない味がしますが、ピルスナー(下面発酵)と違い、上面発酵です。デュッセルドルフのアルト(Alt)というビールの種類と似ているとされています。ホップの香りが効いており、爽やかに飲めます。何も知らされずに飲んだら、ほとんどの日本人はピルスナーだと感じると思います。

ケルシュと名乗るためにはまず地理的要件を満たす必要があり、ケルンとその近郊で作られていることが必要条件です。そして淡色、上面発酵、ホップが効いている、ドイツのビール純粋令に則っているといった条件があります。現在、ケルシュであるビールのブランドは16あるようです(ケルン醸造所協会【Kölner Brauerei Verband】に載っているブランド数)。

Peters Kölschはその一つで、Brauhaus(自家醸造のビールが楽しめるレストラン)はケルンの中心地にあります。席に着くとすぐにケルシュでいいかと聞かれ、ビールが運ばれて来ました。メニューを見ても、ビールは基本的に自家醸造のものの一種類のようです。

ビール中心の店ですが、ドイツの伝統的料理を楽しむことが出来ます。しかし、料理は正直お世辞にも美味しいといえるものではありませんでした。「Brauhaus-Pfanne」というローストした豚脚にビールソースをかけマッシュルームと焼いたジャガイモ、サラダを添えたものを頼んだのですが、塩味がきつく、意外性のある味も感じず、ファミレスで出てくるような料理でした。17.9ユーロでしたので、安くもありません。

ビールは美味いですが、他にもいっぱいケルシュのBrauhausはありますので、ここは別におすすめしません。

続く

長くなってしまったので、一旦ここで切り、後篇につなげたいと思います。Peters Kölschは個人的には残念でしたが、後篇でご紹介するケルシュのお店の方が、もっと美味しい料理とビールにあずかることができました。

 

 

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