オランダが自転車大国であることは有名ですが、その実態となると行ったことのない人にとってはイメージしにくいのではないでしょうか。また、ただ観光で都市を訪れただけで、実際に自転車に乗って見なければ、気付かないこともあります。

それでは実際にサイクリングをしてみて、気付くことは何でしょうか。ひと言でいえば、それは道路の作りが、自転車に乗る人のために便宜が尽くされているということです。

オランダに行けば誰もがこの国で自転車が広く愛されていることに気付かないわけにはいけません。しかし、どうしてオランダでは自転車が世界で他に類を見ないほど人気があるのでしょうか。David Hembrowというイギリスからオランダに自転車のために移民したという「自転車活動家」によれば、オランダは平らな国だとか、気候が温暖だとか、自転車という移動手段がカルバン派的な国民の性格に合っているといったよく挙げられる理由は副次的なものに過ぎないといいます。もっとも重要な理由は自転車のためのインフラ整備が極めて先進的なものであるということだというのです(Michiel Slütter, ‘Brietse fietsimmigrant over Nederland’, 2 Jan. 2014, Fietsersbond)。

学術的にこの論点を議論しようとすると、必ずしも無条件に首肯できるものではないかもしれませんが、ここでの目的はそうした追求にはありません。オランダに移住した一個人として、この説は自然なものに聞こえます。確かに日々のサイクリングの中で、自転車の便宜が図られた道路の在り方は他の国と比べて際立っていると感じているからです。

それでは実際にオランダのサイクリングの道路事情はどうなっているのか、ご紹介してみます。また関連するトピックですので、道路だけでなく自転車マナーについても少し書いています。

自転車用の車線があるのは当たり前

道路の両脇に紅色の自転車道があり、歩道とは分けられている。

まず、道路に自転車用の車線があるのはこの地ではまったくまれなことではありません。むしろない道路というのは住宅街のごく狭い道などに限られています。自転車用の車線は歩道と分かれており、そこに歩行者がいるとかなりのスピードで突っ込んで来る自転車にベルを鳴らされたり、「voetpad!」とか「stoep!」(両方とも「歩道」を指すオランダ語です)などと怒鳴られることになります。はじめて行くかたは注意すべきですが、すぐに慣れるのでそれほど怖がる必要はありません。郊外の牧草地の脇などで自転車道しかない場合、歩行者やハイキング客もその道を使いますし、またランニングなどある程度の速度を出しているのであれば、自転車道を使っていても何か言われるということは普通ありません。

この自転車道、原付などのバイクも使います。大型のものはさすがに入って来ませんが。バイクは自転車より幅を取るので後ろから追い越してくる時は、自転車に乗っている人は注意が必要です。

ラウンダバウト(環状交差点)が多い

ラウンダバウトを見かける率が日本よりはるかに高いです。街中ではこのタイプの交差点は普通ありませんが、一歩郊外に出ると頻繁に見かけます。ラウンダバウトでももちろん自転車用の車線が引かれています。自転車は右側通行が基本で逆走するのは好ましくないため、ラウンダバウトは便利です。

右側通行

基本は右側通行で、逆走してはいけません(オランダは日本と逆で車両は右側通行です)。道路は左右に自転車道があり、自転車も車のように右側通行をしなければいけません。しかし左右のどちらかにだけ自転車道があったりする場合もあり、そうした時はその自転車道の中で左右に車線が分かれています。

右側通行をしなければいけないというのは道を曲がる時に不便です。なので、あまり好ましくないですが、歩道を走ったり、逆走している自転車も時にはいます。

サイクリングルートが充実している

自転車道というのは一般的に二つに分けられます。一つは都市の中で、移動のために設けられた車線で、もう一つは自然の中のサイクリングロードです。両者の境界線は必ずしも厳密ではないですが、後者のサイクリングロードに入ると、上のような地図が載った掲示板をよく見ます。サイクリングルートを示してくれる案内図で、サイクリング中はよくお世話になります。地図上だけではどちらの方角か分かりずらいので、別途方角を指した標識もあります。地図を見て番号を確認し、標識の矢印を確認すれば目的地にスムーズに行くことが出来ます。現代では地図アプリが充実しているので必要ないと思う人も多いでしょうが、ちょっと立ち止まって見てみると、自分の居場所と自転車の豊富なルートが確認できるので便利です。筆者はランニングの時は携帯を持たないので、ランニングの時にもよくお世話になります。

自転車用の信号と歩行者用の信号は別

自転車と歩行者で信号が分かれています。押しボタン式の横断歩道が多いので、自転車が青で、歩行者が赤といった光景(逆もまたしかり)は珍しいものではありません。慣れればそんなものかと思いますが、はじめは戸惑いました。実際、どちらかが青になっていれば安全に渡れる可能性は高いのですが、それでも自分の交通手段に応じた信号を使った方が無難でしょう。

手信号

小学校の時に手信号ってものを習いましたね。大人は誰もやっていないのに、どうしてそんなものを習うのか疑問に思った人は多いでしょう。日本では自転車に乗っていても手信号をする人は皆無といってよいかと思いますが(競技用の自転車乗りの方は別として)、ここオランダでは手信号をしなければいけません。

手信号といっても簡単なものです。右折したければ右手をその方向に伸ばし、左折したければ左手を伸ばします。日本の小学校では片方の腕だけを使って、反対方向へ曲がる意思を表示する方法を習っていますが、そのやり方は見かけた覚えがありません。自転車の手信号のことを「hand uitsteken」(手を伸ばすこと)と呼びならわしていることからも、自転車の方向指示のためには手を伸ばすということが一般的な意識であるということがうかがえます。

自転車の速度が速く、歩行者を優先しない

自転車のスピードがとにかく速いです。自分も自転車に乗っているとさほど感じないですが、歩いていると、数秒前に後ろを確認して誰もいなかったのに、いつの間にか自転車が隣を追い越して行きます。単純に自転車に乗っている人の数も多いのでしょう。都市の人口密度は高いので、誰も通らない静かな通りというのが少なく感じます。一人だけで静かに散歩していると思ったら知らない間に自転車が後ろから接近しているのです。

また、自転車は歩行者をあまり優先しません。例えば歩行者用の信号が青で渡っているとしましょう。横から来る自働車の信号は赤になっていますが、自転車の信号はないとします。すると自転車は歩行者を優先することなく、まっすぐ横から突っ込んで来ます(人にもよりますが)。そういう時は自転車を先に通したほうが安全です。

また、歩行者は自転車道を歩いていたら怒られますが、自転車が歩道を進むことも、上に書いたように少なくありません。歩道は自転車が大量に停まり、道を塞いでいることもあります。歩行者より自転車の権利の方が強い印象を受けます。

以上、オランダの自転車の道路事情(インフラ)とマナーについて簡単にご紹介しました。また今度、オランダでサイクリングすることの楽しみ(どんなサイクリングルートがあるのかなど)についても、書いてみたいと思います。

*以上はライデン市に住む筆者の視点から書かれているので、オランダ全土という視点でみると偏っている点などあるかもしれません。

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オランダ在住。オランダの文化や自然、その他ファッションについてなど諸々発信していきます。