富裕層が利用する百貨店(デパート)の外商とは?

はっしー

大人本でも何度か紹介しましたが、特別なサービスというのは隠されていると知りたくなるものです。
私は昨年まで三越伊勢丹系エムアイカードの中でも隠された「伊勢丹お得意様カード(通称 赤いカード)」を持っていました。先日ついに外商担当者が退職したので暴露できるという寸法です。外商の存在は一般には隠されていますが、会員制ホテルのエクシブと同じように一度知ってしまえば何てことはありません。守秘義務契約もなければ口外してはいけないという約束もないので、今日は百貨店(デパート)の外商について書いてみたいと思います。

注意事項:この話は私自身の体験談と、お得意様が付いている数名の知り合いに聞いた話を元にして書いているため誤りがある可能性があります。一部フィクション有りとして楽しんで頂ければと思います。


デパート外商「とにかく売りまくれ!」

これに付きます。デパートには「エムアイ友の会」のような積み立てサービスがあり定期的に購入する顧客がいます。それでも年間の購入金額が1人当たり100万円を超えるとなると人数が限られてきます。世帯年収が2,000万円超えた富裕層でも、そこから税金や貯蓄、住宅などの固定費をのぞいた可処分所得からデパートの消費に割ける金額は限られています。

そこで所得や資産にたいしてデパートでの消費比率が高い顧客に専門の外商担当者が付き、ことあるごとに消費させるように仕向けるのです。季節ごとの新製品の案内ではファッションやバッグ、宝飾品、マッサージチェアから酸素カプセル、絵画の個展、化粧品、ペルシャ絨毯、スーツ、ワイン配布会、果ては新築住宅からフェラーリまで。とにかく何でも仲介!仲介!売って売って売りまくれ!というのが外商担当者の仕事です。

そのため新規で外商担当者が付き「赤いカード」を持っていてもステータス感を味わうどころか、週に何回も担当者からの電話営業が来て、郵便受けにはハイブランドの案内広告がどっさり。電話に出ようものなら「はっしーさん週末忙しいですか?」と腕時計の展示会に案内され、新製品を試着するように勧めます。それも先月50万円の腕時計を伊勢丹で買ったばかりなのに、早々に新しい商品を押してきます。昨今の百貨店の懐事情は厳しく、外商担当者も1円でも多く売らなければならない事情があるようです。

一方では強烈な営業をされない外商顧客もいます。それは先祖代々から同じ百貨店をひいきにしてきた家庭です。付き合う百貨店をひとつに絞っている家庭があり、両親や祖父母の代から孫まで同じ担当者がつきます。お中元、お歳暮、子供の進学祝など家族構成や勤め先の情報などがツーカーの仲になっているので、無理な営業をされることなく本当に必要なときだけ「お伺い」に来ます。
他にも会社として法人担当者がついている場合もあります。例えば少し大きな規模の病院の院長は、会社の贈答品の管理や院内の調度品(絵画や家具)など、その法人外商担当者に相談して手配することがあります。やはりこれも動く金額が大きく、年間に数千万円以上ということもあるので百貨店にとって手堅い取引先といえます。

昔買った時計の領収書

買い物のパラダイムシフト(革新的変化)

インターネットの普及により消費が細分化したり、モノからコトに移っているというのもありますが、実店舗にも変化がみられます。ハイブランドやメゾンも自社売りや自社ECでの販売によって利益率を上げたいという方向性から、ブランド直営店が銀座などに乱立しています。そうなると苦しいのはデパートの販売です。食料品や催事の動員でにぎわいはありますが、単価の大きな宝飾品などは顧客が他店に分散しがちです。

例えばこうです。デパートの上のフロアに行くときらびやかなジュエリーとともに腕時計が売られていますが、昔はその数多く並んだ世界のブランド腕時計から「子供の就職祝い」「昇進祝い」「30歳のお祝い」などライフイベントとして高級時計を買っていました。今では高級腕時計専門のウェブマガジンも数多く情報発信されて、新品なのに正規品より安い並行輸入の業者の宣伝や、傷もない新品さながら中古美品が割安で販売されています。インスタグラムなどのSNSで自分の好きな時計の情報を得れば、Chrono24のような世界的な高級時計マーケットプレイスでCtoC(個人売買)で希少モデルも安価に手に入る時代になったのです。何でも自分で探せてしまう時代に変化しました。

「でも、デパートは手厚いアフターサービスがあるから」私もそう思っていたのですが、いざ購入後にオーバーホールなどのメンテナンスに出すと、その時計ブランドの修理部門に送付するだけで”仲介手数料”を取られてしまいます。私の買った時計の体験談としては風防ガラスにヒビが入ったときにデパートで修理の見積もりを取ると7万円、その後にブランドの公式サイトで修理相談をしたところ4万5千円で修理できるというのです!デパートを通すだけ時間とお金が余分にかかるのです。

インターネットが普及して”情報”が国内外問わず自由に手に入るようになってから、デパートの役割が変化したと言わざるをえません。ビジネスとして大手商社やデパートが利益を出さなければならないのは重々理解していても、全く同じ商品をネット直売で安く手に入る時代は良くも悪くもパラダイムシフトといえます。

1990年代までは百貨店は”新しいモノ”のリーダーだった

ここで百貨店の流れをおさらいしてみます。海外からの舶来品はインターネットが無い時代はデパートが中心になって販売をしていました。目新しい良いブランドは各デパートの外商部やバイヤー、商社が密になり現地から買い付けをして独自に販売網を築くことによって利益を上げていました。とくにバブル前後は宝飾品だけでなくイタリア製やフランス製の彫刻された100万円以上の超高級家具や、20万円以上するガラスの工芸花瓶、絵画や古美術など何でも飛ぶように売れたそうです。
バブル後は売上が下がり、地方のデパートは相次いで売り場を縮小しました。私は静岡県出身ですが、例えば浜松市にあった「松菱百貨店」は1992年に過去最高の262億円の売上高でした。ところが「松菱友の会」の積み立て制度を独立会計にしておらず、増築工事の返済が苦しくなり会社の運転資金に流用して主要取引銀行からの融資を打ち切りされることに。ついには2001年に経営破綻しました。2000年当時58万人の人口であった地方の浜松市が、競合の遠鉄百貨店が存在したにも関わらず一日7000万円以上もの売上があったのは凄まじい時代だったといえます。

百貨店販売額の推移(1980年〜2016年)

このグラフは1980年〜2016年までの全国の百貨店販売額の推移を示したものですが、1992年にはピークである12兆円を売り上げましたが2016年には約半分まで落ち込んでいます。2016年頃から三越伊勢丹グループは訪日需要取り込み(インバウンド)対策としてJapan Duty Free GINZA(空港型市中免税店)を三越銀座内にオープンするなど新しい取り組みを行っていますが、新型コロナウイルスの影響で苦戦しているのが実情です。

インバウンド舵取り失敗で百貨店が苦境に?

今まで百貨店は既存の日本人顧客を最優先のサービスを行っていましたが、2016年からインバウンドに舵取りして空港型市中免税店をデパート内に設置しました。その結果デパート前には観光バスの行列ができ、店内には中国人を中心とした外国人観光客が押し寄せ、館内アナウンスも英語、韓国語、中国語。ポスターも中国人への免税案内で埋め尽くされ、エレベーター前はブランド紙袋と一緒に床に座る外国人観光客の御一行様の姿を見かけるまでに。

これでは今まで百貨店をひいきにしてきた日本人顧客が離れるのも無理はありません。実際に筆者の知り合いの外商顧客も、店舗に訪れる機会は以前よりもうんと減ったと語っていました。今年になってまさか未知のウイルスが世界中に伝播し、東京オリンピックが延期(または中止)となり、観光客が激減するとは誰もが想像だにしなかったのです。

Amazon、Yahoo!ショッピング、楽天市場、eBay、アリババなど主要なショッピングモールは総じて売り上げを伸ばしています。今ではさらに一歩進み「脱ショッピングモール」の自社ECサイトの構築も流れができつつあります。
例えばファッション販売で有名なZOZOタウンですが、2019年にユナイテッドアローズの販売中止を皮切りにオンワードやライトオンなど大手アパレルが「ZOZO離れ」する風潮さえあります。これはショッピングモールに対して支払う手数料が割高で、名前が売れているブランドであれば自社ECでも十分に売れるという判断から出た行動といえます。
こうなると、ユナイテッドアローズはいわば製造直売に近いビジネスモデルといえます。同社は元々がセレクトショップなので一概にそうとはいえませんが、中間業者を減らすという意味では直売という言葉もあながち間違っていないはずです。

百貨店の販売契約というのは独特の商法が根付いています。基本的に百貨店は自社ブランドを持つことがなく、売上仕入(消化仕入)といって仕入先の商品を並べて売れただけの商品代金を支払い残った商品はブランドに返却するという形式をとっています。仕入れの段階で全額の支払いをする買取仕入れ(完全買取)という契約もありますが、売上仕入や場所だけ貸す委託販売の方式は依然として主流にあり、トーハンや日販から書店への配本に近い販売形式といえます。本も返本制度が確立されています。
販売手数料は百貨店、商材、規模などで大きく異なりますが、零細企業が委託した場合には50%以上もの手数料を取られることもあります。そうなると集客力や心地の良さ、丁寧な接客といったデパートのもつ魅力が低くなれば、ZOZO離れのようにいつブランドの「デパート離れ」がいつおこってもおかしくない状況になっています。

外商で受けれるサービスとは?

前置きが長くなってしまいましたが、デパートの外商はメリットもあります。まず限定品を優先的に予約できたり、数量が少ないものを確保してもらったりとズルが可能です。お買い物好きな人にとってはたまらないサービスです。
特にコスメティック商品などは新製品発売日にあっという間に売り切れることがあるので大きなメリットです。

次に大口で買い物するときは分野を問わずにシームレスなショッピングができるということです。一例では引っ越しをしてすぐに色々なものを揃えたい時に、担当者に話をすればベッドやテーブルなど家具全般、エアコン、冷蔵庫、カーテン、絨毯、食器、絵画、照明、ワイン、ワインセラーなどとにかく思いつく必要なものを一式手配してくれます。引っ越し当日のお寿司まで手配して直々にもってきてくれるでしょう。通常であれば全て別々のお店を訪れて打ち合わせ、見積もり、支払い、納品を行わなければならないものを、一枚の請求書に”サイン”するだけで済むこともあります。
知り合いのケースでは、自宅に店に営業に来るついでにデパ地下のケーキを買ってこさせたことがあるそうです。とにかく上位顧客に対しては担当者の裁量が大きく自由度があります。

お金はあるけど忙しい人には助かるのではないでしょうか。家に来てもらって打ち合わせや部屋の採寸もできますし、店頭に行って「これ取り置き」「これ取り置き」と繰り返して、「では後日」と複写伝票にサインするだけで買い物ができます。今はコロナで来店してくない人がおおいので、おそらく担当者とブランドの販売員が家まで最新のコレクションを一式持って販売に来ることもしているでしょう。
ファッションが好きな人は所有している服とのコーディネートが気になるので、外商担当者が自宅までサンプルを運んできてくれて試せるのは便利です。来てもらう場合よほどの事情がないかぎり買わなければいけないのですが。

一度に100~200万円以上の服を買う顧客も存在します。Saint Laurent(サンローラン)など、ちょっとしたワンピースでも1着40~50万円、ブルネロクチネリやロロピアーナなど適当に数品買うとすぐに数百万円です。メンズはせいぜいアルマーニ、キートンやブリオーニなので、ビキューナのコートでも仕立てない限り年間200~400万円程度でしょうか。このあたりで買い物をする人は外商担当者が付いている可能性があります。

お得意様向けの隠れた値引きとハイブランドの対応

あとは小声になりますが、担当者の裁量によって”値引き”してくれることがあります。デパートは値引きを公にはしていませんが、「お買い物を楽しんでいただく一環」と称して大幅な値引きをすることがあります。先ほど説明したとおり、委託商品では十分な販売手数料を得ているので、お得意様にたいして値引きすれば売り上げにもなり、恩を売ることもできて一石二鳥というわけです。
ただし、一部のハイブランドは契約上1円たりとも値引きができないようになっています。例えばカルティエやティファニー、ロレックスなど厳しい契約で販売しているブランドは上位顧客であろうとも値引きはありません。むしろ外商ではなく目的のブランドで月に数百万円をコンスタントに購入して「ブランドの上位顧客」になることによって、優先販売を受けたり、数量限定商品の取り置き、ノベルティグッズ、シャンパンが出るようなパーティのお誘いなどしてもらうことができます。

もう一つの最大のメリットは吊るしの服、つまりプレタポルテを頻繁に買い続ける顧客に対してのみオートクチュールや少量生産のコレクションの案内をするということです。一見客にたいして案内されない商品が多く存在するということです。例えばブランドのインスタグラムに掲載されているドレスなども店舗に行けば誰でも買えるわけではなく、当たり前ですが常連顧客にたいして優先案内するということです。

お得意様サロン・ラウンジ

百貨店には、お得意様(外商付き)しか入れない特別な空間があります。いかにゴールドカードを持っていても、赤いカードがないと入れないのです。中がすごく気になりますよね!
入ってしまえば何のことはない喫茶店ルノアールの下位互換のような喫茶スペースになっています。ロイヤル・コペンハーゲンのカップ&ソーサーで珈琲が飲めて焼き菓子が出てくる程度です。20XX年頃に外商担当者がついたときは嬉しくて、これ見よがしに利用していたのですが、3~4回ですっかり飽きてしまい近所の喫茶店で休憩するようにしています。

とにかく混雑します。リッチな奥様方がショッパー(紙袋)を何個もソファに置き、めちゃめちゃ大きな声でお喋りするのです。「そういえばウチのお隣に住んでる○○君、今度○○大学院の博士ですって!教授に認められて今度○○を発表するみたいよ〜」などなど、隣人や家族、友人など延々と他人の話をしています。
あとは家族での百貨店の買い物で疲れてしまったWindows2000が肩から哀愁を放ちながら一人休憩をしています。つまり奥さんと娘がパパの家族カードを持って、買い物に行ってその待機時間をここで過ごすのです。Windows2000とは、年功序列制度が根付いよい世代で何もしなくても「年収2000万円の窓際族(居るだけ会社員)」という隠語らしいのですが。最近ではWindows2000 Home Edition、つまり在宅勤務で家にいながらにして2000万円貰えるというジョークもあるそうです。R氏に教えてもらいましたが腹を抱えて笑ってしまいました。羨ましい限りですね。
話が大きくそれましたが、お得意様サロンは美女がおもてなしをしてくれるハレムでもなんでもなく、社会の縮図になっているスポットなのです。

ホテルニューオータニ東京で行われる 「丹青会」

「外商」というのも隠された世界ですが、更にシークレットになっているのが年に1~2回行われる百貨店の特別な販売会です。三越伊勢丹系の場合はホテルニューオータニの大広間をまるまる貸し切って開催されます。
地方の顧客であれば、新幹線のグリーン車チケットとニューオータニの宿泊代、食事まで百貨店が負担してくれます。もちろん都内でのタクシー移動料金さえも自己負担なしです。

昼頃に到着すると、ぱっと見では会場に100人ほどの外商顧客がいます。会場が広いために圧迫感は皆無です。顧客が100人ほどで販売員や社員が500人ほど居るようなイメージです。実際に何人かは不明ですが……。
なかでも特に凄い顧客の見分け方としては、担当者が何人付いているかを見ることです。当日に数千万円以上を購入するような顧客であれば、左右に2人以上の担当者が金魚のフンようにつきまとっています。一つの売り場で商品を決めたら、すぐに次の売り場に移動できるように複数人付いている必要があるので、その間にもう一人の担当者が手続きや在庫確認などをすすめるというわけです。

イベントも何種類かあります。コーヒーセミナーやワインセミナー、洋食器や和食器も職人を呼んでデモンストレーションをしています。ペルシャのシルク製絨毯は畳2帖ほどの寸法で300~500万円ほどで販売されています。
メンズ、レディースで売り場が分かれてグローブ・トロッターのような旅行用品もあります。オーディオ機器や工芸品、洋酒のテイスティングなどなんでもありです。宝飾品はさらに迫力があり、100万円程度のカジュアルなジュエリーから5000万円〜3億円のダイヤモンドなどもショーケースに展示されて顧客が頷けばすぐに試着できます。ジュエリー売り場周辺は体格のよい民間警備員が5~6人巡回していて非日常感があります。

メインの会場を3箇所貸し切っているのでフロアは外商関係者だけです。普段は喫茶営業している座席も貸し切りになり、顧客は自由にコーヒーや紅茶などを注文して無料で休憩できるようになっています。郵送で届く招待の冊子に同封されるお土産引き換え券をカウンターで渡すと千円相当のお菓子をもらうことができます。

これは東京の丹青会の話ですが、地方都市の百貨店でも年に2回外商向けのイベントを行っており、このミニチュア版が開催されます。百貨店の催事場で行われるのが一般的ですが、近隣の貸し会場を使うこともあります。
そこで地域のバーや喫茶店に出張してもらい特別な無料ドリンクサービスをしたり、歓談できるようにするのが一般的です。とにかく東京丹青会でも地方の丹青会でも、企業の忘年会のように様々な関係者が集まり挨拶回りをするような昔ながらのスタイルになっています。

ちなみに三越の場合は丹青会ではなく、逸品会といって別の日に行われます。グループ会社であっても、富士銀行、第一勧業が合併したみずほ銀行や、住友とさくらの合併でできた三井住友銀行のように簡単には合同にできない事情があるようです。お帳場やお買い場など百貨店独自の呼び方や習慣が存在するようです。

外商は本当のお金持ちでないと難しい

昔から担当者がついている家は別として、新しく付き合いをはじめるとなると、とにかく百貨店で何でも買ってくださいということになります。今は何でもアマゾンで買う時代ですが、アマゾンの変わりに何でも百貨店で注文しなければなりません。

ビジネスでお金にシビアな経営者や、私のようなケチな貧民は「ちょっと高すぎじゃない?」「同じものがネットで安く買えるよ」なんて思ってしまうはずです。ただし本当の富裕層であれば、家の使用人のように何でも好みを理解してくれて、何でも持ってきてくれる「良い人」に思えるはずです。

 

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