イギリスは先進国であり観光地でもあり、例年多くの人が訪れます。
しかし空港に降りて驚くのが、その情報量の少なさです。空港でありながら広告や看板は少なく”Arrival”とシンプルな文字が用意されているだけです。日本の空港であれば「ようこそ!」と30カ国ほどの言葉で歓迎の文字があり、富士山に桜のイラスト、そこから到着ロビーまで日本語、英語、韓国語、中国語と4つ以上の言語で案内があります。
確かにユーザビリティを考えると観光客に合わせた言語で案内があるのが親切と言えますが、イングランドのヒースロー空港に降り立った時に、なんとも言えない爽快感を得ました。

日本は情報社会で街に出れば歩きながらスマホをしている人を見かけ、屋外にも液晶モニターが設置されてアナウンス音も含め絶えず情報が流れています。そして電車に乗れば体感的に8割以上の人がスマホを眺めているように思えます。
宣伝や看板も多く、人の写真が大型看板になって乱立しているのです。そういった情報から開放された感覚を得たのです。

それは空港だけでなくロンドン市街に着いてからもです。電柱は地下に埋め込まれ、19世紀とさして変わりのないガス灯のようなデザインの街灯、そこに整然と同じ時代の建物が並んでいます。看板もほとんど無く、道路にバス停であることを表すマスがある程度です。

ロンドンの建物は美しく統制が取れている

”車”を除けば300年前のジョージ1世ハノーヴァー朝時代からタイムスリップして来た人が見ても驚きの無い景色と言えます。ロンドンの中心部でさえ情報量が少なく目にも精神にも優しいのです。
私達がハロッズの裏通りを歩いていた時に衝撃的な光景を目にしました。それは商用ビルを解体している…と見えたのですが、良く見るとビルの表面だけを残して背後の建築物を作り直しているのです。
古い車の外装をそのまま残して、中の機械を全て最新にするようなものです。これには本当に驚きました。
中身は最新の2019年に作っている建築物にも関わらず、外側は100年前のままなのです。窓の高さとフロアの高さは、外観に合わせなければならないので、日本のギンザシックスのように吹き抜けにしたり、エスカレーターを複雑に配置したり、というのは難しいかと思いますが、それでもロンドン市街の雰囲気を壊さないというのは感銘さえ受けました。

歩いているとブロックによって建築様式が少しずつ異なるのが特徴的でした。高級住宅街は英国ジョージアン様式の建築が多く見受け、一部のエリアではタンハウス(集合住宅)がアカンサスの葉をモチーフにしたコリント式オーダー、ペディメントや神殿のエンタプラチュアを取り入れたようなパラディンまたはギリシャ建築をモチーフにしている建物が連なっています。

何故ロンドンの市街は目に優しいのか?

建物に限って言えば1666年に起きたロンドン大火が要因と言えます。パン屋のかまどから出火して市街のおよそ85%(1万3200戸)が焼失したと言われています。それから市街で新築される家屋に対して厳しい建築規制がなされ、従来の木組み建物を禁止し、「煉瓦もしくは石づくり」が義務づけられました。ストリート(道路)の種類によっても階数や高さなどを統一されたので、多くの建物が横一列にきれいに並んでいて、どれも似たような色合いや雰囲気の煉瓦か石造りになっているのです。この大火事によってロンドンのタンハンスができました。

もう一つの要因は、イギリスの都市計画の保存地区 Conservation Area と 歴史建造物 Listed Buildingです。
news from nowhereというサイトで知ったのですが、ひとつは1軒ずつの建物を保護するListed Building、もうひとつは建物や空間で構成された地区・地域を保護するConservation Areaがあり、国や自治体によって開発が制限されています。
自分の家でさえ勝手に工事することができず、改修するだけでも市の都市開発課で特別な許可が必要で、テレビアンテナや大型エアコン、テラスをつけることさえできないのです。細かい内容は上記のサイトを読んでみて下さい。

このように、火事が原因で街全体が新しい建物になったのと、そこで厳しい規制がなされた事。更には現代に至っても国の主導による都市開発がロンドンの美しさに寄与しているのと言えそうです。

前衛的な日本、保守的なロンドン

多様性な文化を受け入れるという面から見ると日本は世界一とも言えます。建物を始め衣服や食、車、電気製品、イベント、さらには宗教さえも自由で混在しています。そして多様だけでなく前衛的とも言えます。分かりやすのは渋谷や原宿などで若者が起こすムーブメント、世界のどこでも見れない文化を体現しています。建築の例を上げると銀座にある「中銀カプセルタワービル」これは黒川紀章が設計したメタボリズムの代表的な作品で、マンションの一部屋ずつが交換可能で人間の代謝のように成長するビルとして設計されました。

対照的にロンドンは非常に保守的で便利さを享受するよりも、文化の保護や伝統を重んじる傾向にあります。都市の情報化を拒みローテクノロジーで生きています。コンビニはもとより自動販売機も1台も無い、ハロッズの中でさえ携帯電話の電波が通じない、iPhoneケーブル1つ手に入れるのでさえ右往左往することになるのです。しかしその保守的な思想は景観に対しては完璧とも言える都市設計で、どの裏路地に入っても美しいタンハウスやテラスハウスが続き、植林がなされ、文字や音などの情報が極端に少ないので大都市に居ながら、どこか田舎暮らしをしているような心地良さを持ち、疲れた日本人を迎え入れてくれるのです。

ただ、唯一残念なのが食事も極右で、中世英国の”伝統的な”料理を楽しむことができます。美食が飽和した日本人からすると、21世紀のロンドンでさえ7個の固いパンと数匹の小さな魚をを、4000人の男と女・子ども達が食べているような状況なのです。

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1989年 静岡市出身。主な執筆分野:ライフスタイル、旅行、料理、お酒。