みなさんこんにちは。今回は、自分が前からやりたかった少し変わった企画をお届けします。題名にもある通り、QuizKnockのYouTube動画にある学名寿司のクイズ(リンク: https://www.youtube.com/watch?v=J1MQBKd356Q)を、語学の知識で解いていくという企画です。その前にQuizKnockと学名についてお話しします。

QuizKnockとはクイズを中心としたウェブメディアで、YouTubeにも動画を投稿しています。また、Qさまや東大王などのテレビ番組にもメンバーが出演するほど、人気になっています。一番有名なメンバーは、クイズ番組のみならず情報番組のコメンテーターなども務める伊沢拓司さんです。そしてこのグループが数年前に投稿した動画「学名寿司」は、学名を見ただけてそれが魚かどうかを当てるゲームです。学名というのは生物の分類群に付けられる世界共通の名前のことで、ラテン語形で表記されるのでラテン語を知っていると学名の意味を判別することが簡単になります。ちなみにゲームのルールですが、魚だと思う学名を次の10種類の中から5つ選んで、4つ以上魚であればクリアというものです。

最初に学名だけを載せていきます。

  • Amygdalus persica
  • Capsicum annuum
  • Eutrema japonicum
  • Oncorhynchus tshawytscha
  • Oryza sativa
  • Pyropia yezoensis
  • Seriola quinqueradiata
  • Takifugu stictonotus
  • Thunnus orientalis
  • Trachurus japonicus

それでは、個々の学名を見ていきましょう。

1. Amygdalus persica

まず前半の”amygdalus”で、英語に詳しい方はamygdala「扁桃体」を思い浮かべたのではないでしょうか。この英単語は確実にamygdalusと関係があります。実はamygdalusは「アーモンドの木」という意味のラテン語です。扁桃体とアーモンドがなぜ関係があるかですが、これは扁桃体がアーモンドのような形をしていることによります。そして、後半のpersicaですがこれは「ペルシアの」という意味のラテン語の形容詞です。ちなみにペルシアというのは現在のイランです。「ペルシア」というのはかつて外国の人がイランをそう呼んでいた名前で、現在でも「ペルシャ絨毯」やイラン等で話される「ペルシャ語」などで使われます。少し話が逸れましたが、全体的にこの学名はモモを指します。つまりモモは学名的に言うと「ペルシャのアーモンド」です。なぜAmygdalus persicaは両方の語が-aや-usで終わらないのかと疑問に思うラテン語学習者も多いと思います。ただこれが魚かどうかを判別する鍵で、ラテン語は結構-usで終わる、木を指す女性名詞が多いのです(prunus「スモモの木」、quercus「オークの木」、pinus「松の木」など)。そしてpersicaという形容詞が女性形なのでamygdalusは意味を知らなくても「女性名詞だから、なんとなく木っぽいぞ」と予測が立てられるのです。というわけでこれは魚ではありません。

ちなみにpersicumは英語peachやフランス語のpêche、イタリア語pesca、ロシア語pérsik、ポルトガル語pêssegoの語源で、これらは皆「モモ」を意味します。果物の名前に地名がつくのはラテン語には他にもあり、たとえばmalum Punicum「カルタゴのリンゴ」はザクロを指し、malum Cydoneum「キュドニア島のリンゴ」はマルメロ、prunum Armeniacum「アルメニアのスモモ」はアンズを指します。そういえば、キウイフルーツは英語圏では以前Chinese gooseberry「中国スグリ」と呼ばれていました。

2. Capsicum annuum

前半は「カプサイシン」からピンときた方も多いかもしれません。Capsicumは「トウガラシ属」を指すラテン語です。このcapsicum自体の語源は古典ギリシャ語のkapsikos「箱のような」で、英語のcapsule「カプセル」と同じ祖先を持っています。annuumに関しては、英語annual「年間の」などを知っていれば解けると思います。他にもannuity「年金」やannals「年代記」などからも察しがつくように、annuumは「年間の」という意味です。なのでCapsicum annuumは、学名の意味的に「トウガラシ属の一年草」です。ということでこれも魚ではありません。

3. Eutrema japonicum

後半はかなり分かりやすいですね。ラテン語で日本はJaponiaといい、「日本の」はjaponicus、その中性形がjaponicumです。そして前半のeutremaですが、-aで終わる中性単数名詞は純粋なラテン語には無いと思われますので、これは古典ギリシャ語からの借用と考えた方がいいです。“eu-”の部分は「良い」という意味の接頭辞です(他に、これが英語に入ってるのは例えばeuphoria「多幸感」やeuphony「快い音調」などがあります)。tremaは古典ギリシャ語で「開けられた穴」なので、これだと魚かどうかを判別するのはかなり難しいです。答えを言いますと、この学名はワサビで植物です。魚に普通穴は開いてないので、この基準でもしかすると「Eutrema japonicumは魚ではない」と結論づけることが出来るかもしれません。また、個人的には-onで終わらず-aで終わる古典ギリシャ語の中性名詞の魚は知らないので、こうやっても「魚ではなさそうである」と言えるかもです。

4. Oncorhynchus tshawytscha

響き的にラテン語とは遠い印象です。そして、古典ギリシャ語っぽい印象があります。どこで判断したかというとOncorhynchusの-rh-の部分です。rの音で始まる古典ギリシャ語の単語は最初に気音が伴ってrh-という発音になります(英語のrhythm「リズム」やrhyme「韻」、rheumatism「リウマチ」やrhombus「ひし形」なども古典ギリシャ語由来の単語なので、語頭のrh-が反映されています)。この学名の前半のOncorhynchusの意味は古典ギリシャ語で「曲がっている突き出た鼻」を意味します。語源は古典ギリシャ語のónkos「曲がり」とrhúnkhos「突き出た鼻」です。そして学名の後半はこの生物のロシア語名čavyčáが元です。ロシア語がわかればこの学名はキングサーモンを指すことがわかります。「突き出た鼻」という古典ギリシャ語も、この生物が魚であることを推測するに有力な手がかりを与えてくれます。

5. Oryza sativa

Oryzaはかなりピンと来た人も多いのではないでしょうか。Oryzaと聞いて、劇作家の平田オリザさんを思い出す人は多いと思います。ちなみに「オリザ」は本名で、両親が食べ物に困ることがないようにという思いでつけた名前です。Oryzaはラテン語で「米」です。また、もやしもんという漫画に頻繁にA. オリゼー(A. Oryzae)という菌が出てきますが、これはニホンコウジカビで、この菌は米麹から発見されたのでコメの名前がついています。sativaというのはsativus「蒔かれた」という意味のラテン語の女性形です(これはsero「蒔く」という意味の動詞から派生した単語です)。これはagrestis「野生の」との対義語で、自然に生えたものではなく人の手によって栽培された植物を指します。米は稲作で収穫するものなので納得のいくネーミングです。

6. Pyropia yezoensis

Yezoensisは「蝦夷」が元で、「北海道の」という意味のラテン語です。これはスサビノリの学名ですが、これはQuizKnockの動画が撮影された2018年当時の学名で、現在ではスサビノリの学名はNeopyropia yezoensisに変わっています。Pyropiaの部分はおそらく古典ギリシャ語のpyropos「燃えるような」が元だと思われます。これは、スサビノリが紅藻の一種であることからかもしれません。ちなみにですが、pyroposの語源は古典ギリシャ語pyr「火」で、英語のpyrotechnics「花火製造術」やpyre「火葬のための薪を積み重ねた山」の語源になっています。

7. Seriola quinqueradiata

seriolaはラテン語で「小さな壺」です。これはseria「陶製の壺」に指小辞が付いた形です。Quinqueradiataのquinqueはラテン語で「5」で、英語でquintet「五重奏」やquintuplets「五つ子」やquincunx「サイコロの5の目の型」などのquin-と同じ語源です。Radiataはradiatus「放射状の」という意味のラテン語の女性形です。英語のradiation「放射」やradiator「ラジエーター」などのradi-と同じ語源です。ということで学名の意味的には「5本の光の筋がある小さな壺」で、壺の形というのは何となく魚であることが推測されると思います。ちなみに正解は「ブリ」です。フランス語でsérioleが「カンパチ」を指すことを知っていたら、そちらからの推測で魚かどうか判別できたかもしれません。

8. Takifugu stictonotus

見た感じ前半はラテン語ではなさそうです。Uで終わるラテン語もあるにはありますが中性名詞なので、そうすると後の形容詞っぽいstictonotusのusが男性形なので前半と後半で合わなくなります。ラテン語でも古典ギリシャ語でもなさそうですが、fuguというのは日本語の「フグ」ではないかと想像できます。Takiの部分も日本語っぽいですし。後半は古典ギリシャ語stiktós「斑点のある」が元で、この学名はゴマフグです。

9. Thunnus orientalis

これは、もしかするとTakifugu stictonotusに次いで簡単かもしれません。ラテン語でthunnusはマグロで、同じ意味の英語tunaやフランス語thonの語源です。ちなみにthunnusの語源は同じ意味の古典ギリシャ語thúnnosです。泳いで止まらないことからthunnosの語源は動詞thū́nō「突進する」が語源であるという説がありますが、定説ではありません。学名の後半のorientalisは「東洋の」という意味で、この語源はラテン語の動詞orior「昇る」です。東が太陽の昇る方角だからです。ちなみに学名は「クロマグロ」です。少し付け足しですが、日本語では「クロマグロ」と言いますが英語ではbluefin tunaと言います。そしてフランス語ではthon rouge、rougeは「赤い」という意味です。クロマグロの色とは??

10. Trachurus japonicus

やっと最後です。Eutrema japonicumのjaponicumは「日本の」という意味の中性形の形容詞でしたが、こちらのjaponicusは男性形です。また前半のchの部分が古典ギリシャ語っぽいので、これは古典ギリシャ語ではないかと推測できます。前半の語源は古典ギリシャ語trākhús「ザラザラした」とoura「しっぽ」です。つまり学名の意味は「ザラザラした尻尾を持った日本のもの」です。そして、尻尾があるのでこれは魚だと結論づけられます。ちなみにこの学名の正解は「マアジ」です。Trachurusからoura「しっぽ」を見つけるのはかなり難しいと思いますが、古典ギリシャ語の知識がある方はこれが魚だと分かると思います。

これで10個終わりました。簡単に魚だと分かるのはゴマフグとクロマグロで、古典語の知識があればモモとトウガラシとコメは除外できます。また、古典ギリシャ語の知識を使えば上に書いたようにワサビを除外できると思います。これで残ったのは4つで、そのうちの3つが魚です。1問間違えてもいいので、たとえPyropia yezoensisが海苔であることが分からなくてもクイズには正解できると思います。

今までに示してきた通り、学名というのは堅苦しい印象があり、しかもラテン語で書かれているのでどういう意味かも分かりづらいと思いますが、意味を調べると結構単純だったりして面白いです。皆さんも是非、水族館や植物園などで学名が書かれた案内板を見つけましたら、その意味を調べてみてください。

Share.

ラテン語の面白さを日々ツイッターで発信するラティニスト。ラテン語を日本に広める活動を行っている。