今まで数多くのグラスを見たつもりでしたが、このHolmegaard(ホルムガード)というデンマーク製ガラスは、初めて手にしました。スウェーデン製のOrrefors(オレフォス)は何種類か愛用しているのですが、一口に北欧デザインといっても趣向が異なるようです。ステムが長くて、貼り付けられたラベルとガラスの透明感から1980~90年代と推測しました。

偶然このリキュールグラスを手に入れたのですが、持った瞬間の感想は「ダサい」という一言でした。開封と同時に何処に収納しようかと考え出したほどです。写真左のベルギーの某リキュールグラスと比較してみて下さい。
田舎のお爺ちゃんが作ったような、ぼってりとしたデザインで洗練されているとはいえません。しかも持つと重いんです!これだったらリーデルのソムリエシリーズやロブマイヤーのカリクリスタルでいいじゃん、と思ってしまいました。

それでも、ちょっとした好奇心から一度使ってみたところ、意外にも口当たりが良く、小ぶりなボウルから香りが引き立つのです!

デンマークの暗ぼったい天気をイメージした写真

翌朝になり調べてみると、ホルムガードはデンマークで1825年に創業した伝統的なガラスブランドだということが分かりました。王室御用達ということもあり、現在はタイで製造されているロイヤル・バンコクハーゲンと同じようにシールに王冠のマークがあります。

国内では一部の雑貨店や代理店が販売しているのみで、百貨店などでは販売していないようです。コスタ・ボダやイッタラなどの北欧ブランドと比べるとマニア向けのブランドといえます。

ホルムガードの公式サイトを見て面白いと思ったのが、デザイナーを製品ごとに公表しているということです。北欧家具のデザインの多くにも見られますが、人間に対して製品デザインが存在します。一方でフランスやベルギーなどの王立ガラス工房は、そのブランドに対して製品デザインが存在しているので、このモデルは誰がデザインしたというのは関係が無いのです。マイセンなどの一部では作家や芸術家が公開されますが、多くのモデルは誰がデザインしたかまで公開していないのが一般的です。

このホルムガードの作品は調べたところによると、Ballet(バレエ)というシリーズで6種類ほどのワイングラスなどが存在するようです。ステムが長くリキュール向けのグラスのようで、Michael Bang(マイケル・バン)1942-2013によるデザインで、どうやら1980年から数年間に渡り製作されたようです。マイケル・バンはペンダントライトや花瓶などホルムガードで数多くのデザインをしています。

写真右のデキャンタはホルムガードのKluk Klukシリーズです。Jakob E.Bang(ヤコブ バン)によるデザインで、1950年代の流通品です。ミッドセンチュリーでインターナショナル・スタイルは控えめに言っても嫌いな部類に入るのですが、やはり花瓶の方は好きになれません。

バレエのリキュールグラスは、普遍的でシンプルなデザインである故に”味のある”程度の感覚です。せっかく面白いグラスを手に入れたので、このまま詳細を見てみます。

グラスのリムは返しがあり、ステムは手吹きの歪みが出ていて、面白いことにプレートにも返しがあります。
この二箇所の返しというのは今まで多数のグラスを見てきましたが、なかなか存在しない特徴です。

ボウルとステムは一体型では無く、後から付けているようです。このプニッとした接着の感じが、古き良き時代のコスタ・ボダを彷彿とさせます。たいていステムが青色や赤色で、このような仕上がりの場合は北欧のグラスと大まかに判断できます。

透明感があるのですが虹色は出ずに白の屈折が強調されます。デザインがぼってりしていて、ソーダガラスのように見えますが、重量や音と透明感からしてクリスタルガラスだと推測します。

リムの返しが厚いので下唇を支えるようにフィットして、飲むときの安定感の良さがあります。
プレートの返しなのですが、驚くことに親指と人差し指でプレートを挟むと、すっと親指にフィットして収まりが良く、プレートだけでグラスを持っても安定するのです。人間工学デザインに基づいているとまでは言いませんが、実際に使ったときの感覚を優先しているというのが、デンマークらしさの一つなのかもしれません。

私は国産の松徳硝子株式会社「うすはりグラス」が嫌いです。クリスタルグラスは薄くて緻密なものが美しい、と常日頃ウェブマガジンで表現していますが、うすはりグラスは技術優先でこれ見よがしに極度に薄くしています。
これは実際に使う人を無視しているのです。キャビネットの中に飾るのであれば優れたプロダクトといえますが、高級和食店でこのグラスでビールを飲むと、口当りの悪さに絶望します。薄すぎる鋭利な飲み口がどんな感情になるか安易に想像できるはずです。更に飲み終わったグラスを机に置く時も、割れてしまわないだろうか?と細心の注意を払います。
実際に割れることが無かったとしても、極度に薄いと「強く持たないようにしなきゃ…」「優しく置かなきゃ…」など酒を飲んでいる時にも関わらず飲み手に対して繊細な扱いを要求するのです。それがうすはりグラスが気に入らない理由です。

その点では、このホルムガードのグラスは厚くてぼってりとしているけれど、飲み手に対して非常に優しい。
これが最も褒められるポイントだといえます。よくよく見ていると、ステムとボウルのバランス感も良く、弧のカーブ曲線もリーデルより劣っているかと言われれば、そんな事はありません。先入観によるいくつかのネガティブが外見要素もありますが、実際に使うと心地が良かったというグラスといえます。

あらゆる場所に歪みがあり、プレートには気泡も入っています。
精度ありき、技術ありきの現代のグラスに慣れた今だからこそ、デンマークの少し古い手作りグラスが優しく思えるのです。

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1989年 静岡市出身。主な執筆分野:ライフスタイル、旅行、料理、お酒。