男の香水のつけ方

はっしー

香水のルーツを辿るとPerfumeパフュームの語源であるラテン語per‐fumum(煙を通して)まで遡ります。『フォトグラフィー 香水瓶の図鑑』(Bernard Gangler 、Brice Agnelli、木村 高子、原書房、2014年。)によれば古代ギリシア人は紀元前15世紀にはすでに香りの技術を身につけていたようで、芳香には神聖な力、エロティックな力が宿ると信じ、供物に用いれば神々の美と力を高め得ると考えました。中でも特に香水を愛したのはローマ人であり、彼らは宴会や浴場といった多くの場で、まさに浴びるように香油を消費したようです。時代が下ってルネサンス期になると、入浴が病気を感染させると禁止されて人々は体臭を隠すために、持続性のある強めの香りを身にまとっていました。
16世紀末からは香水産業の中心がイタリアからフランス・モンペリエに移り、そこからバロック時代、ナポレオン時代、近世の私達が知っているアールヌーヴォーのフランソワ・コティ、ラリック、バカラといったベル・エポック(古き良き時代)に遷移していきます。
兎角、くだくだとした香水の歴史の説明はうんざりでしょうから現代の日本、それも30~50代男性を中心とした「男の香水のつけ方」について書いてみたいと思います。

男の香水は基本的には不要

日本人男性は人種的に香水が似合いません。ロマンス民族とゲルマン民族でも体臭は異なりますが、中でも黄色人種の我々アジア人は欧州の香水と体臭の相性があまり良くないのです。香りの好みが異なるというのもありますが、食生活や遺伝など様々な要因によって夏場や運動時の発汗のニオイが異なるからです。ニオイの研究をしている人の中には、長らく稲と魚を食べてきた日本人と、肉食を中心としてきた欧米人とで腸の長さや機能が異なり、便のニオイも違うと指摘する人もいます。ユニットバスが主流のヨーロッパでは確かにその推測は一理あるかもしれません。

民族的に香水が合わないということもありますが、文化的にも香水が不快に感じるシチュエーションがあります。日本人は狭い空間で密着することが特に多いのです。私はローマには何週間も滞在したことがありますが、イタリアの首都でありながら、店舗、電車、バスなど人が密着することが少ないのです。家族や友人同士でハグをすることは多いのですが、見知らぬ人と肩がぶつかるのは朝の混雑したBAR バル程度で、日本の公共交通機関やオフィスのエレベーターのように密着はしません。閉鎖空間に密集することの多い日本で、他者の香水のニオイが不快に感じることは想像に難くありません。

ほとんどの日本人が毎日シャワーを浴びて体を洗い、除菌機能のある無香料デオドラントが普及している現代では、古代ローマやルネサンスと違い強烈な香りは不要といえるでしょう。ですが香水の全てが無意味なわけでなく、着ける本人のリフレッシュ(気分転換)や個性の主張として用いるのは良いことだと思います。そこで、香水をつける前にしておきたいことから書き留めてみます。

香水をつける前にすること

魅力的な男性とはなんでしょうか。誰しもが思う「顔の良さ」、こればかりは生まれながら与えられたものなので整形をしない限り変えるのは難しいことです。ですが自分の努力次第で実現できることもあります。

1.引き締まった筋肉

これは見落されがちですが、香水よりも100倍重要なことです。
顔が不細工であっても、少し日焼けして引き締まった筋肉でビーチを歩けば男でさえ惚れてしまいます。それとは逆に、いかに顔が良く男性アイドルのようでも、筋肉のない細モヤシ男がスーツを着て香水をつけても三流ホストにしか見えません。お腹がぽっこりなんてのは、言うまでもなくカッコいい人はほぼ存在しません。

2.体の清潔感

髪の手入れと、ムダ毛処理、肌の手入れ、体臭と口臭の対処。
魅力的な男性にはコレが不可欠です。髪の手入れはとても簡単で、街中の美容院のイケメン男性か、綺麗な女性にカットを頼めばなんとかしてくれます。田舎の店でも問題はないのですが、今どきの流行に疎く30年前の定番カットをいまだに続けている可能性も否めません。私個人の意見では、20代後半から30代前後の美容師に任せるのが、時代に即したカットに仕上げてくれる気がします。(もちろん何歳でも素晴らしい人はいます)

次にムダ毛の処理です。ヒゲを完全に剃る、ヒゲを作って残す、これは自身の顔と年齢に合わせて選ぶべきですが、ヒゲを残す場合は長さを均一に整えて、誰が見ても恥ずかしくないように造形を施しましょう。童顔の男性の場合は、産毛が顔に残っていると恥ずかしいので、眉毛と同時に処理します。

肌の手入れは20代のうちから美容液などを寝る前に使い、ひげ剃り後のケアなども早いうちから始めると良いです。どれも重要ですが体臭と口臭は特に慎重になりましょう。頭皮や耳など加齢臭が残りやすい場所を丹念にケアします。

香りは引き算です。全身の余計なニオイを消し去り、柔軟剤や整髪剤も全て無香料にしてからでないと、香りが混ざりチグハグになってしまいます。仮に中年男性であっても、自分のニオイを真っ白の状態に戻してあれば香水が似合うこともあります。

3.洋服の清潔感

クタクタヨレヨレで伸びているシャツと穴の合いたジーンズでは、とても清潔感があるとはいえません。
ゴミ出しやコンビニに行く時はルーズでも良いですが、外出用に一着は体の形にぴったり合ったテーラードパンツとジャケット、シャツを用意します。

男の香水の使い方で「ジャケットの裏やネクタイ、ハンカチに吹きかけろ」などと書いているサイトが存在しますが、それらは間違いです。香水の種類にもよりますが、長時間香りが続くオーデパルファンはもちろん、オーデトワレでも香りが衣服の繊維につくと何ヶ月も残ってしまいます。特に香りの重いラストノート部分が長く残ります。
ハンカチにワンプッシュしてクローゼットに閉まっておけば、2~3ヶ月してからでも感じ取れる香水も存在します。生涯、気に入った1種類しか使わないダンディを極めた男性であれば、コートやジャケット、カバンから古い香りが漂うのは素敵ですが、香水を何種類か切り替えたい人であれば香りが混じるのでお勧めできません。腕に着けるのでさえためらいます、何しろ本革製の時計ベルトにさえ香りが残るのです。
香水をつけたハンカチをポケットに入れるのであれば、ハンカチの内側に軽く吹きかければ、ジャケットへのニオイ移りは少なく済みます。とにかく香水というのは、美しいシャツ、パンツ、ジャケット、靴を揃えてからでも遅くはありません。

4.喋り方と、喋らなさ

仕事の打ち合わせや、夜のオーセンティックバーで稀に魅力的な男性に出会うことがありますが、彼らは上記のことを当たり前のようにクリアして、その上で人間性やトーク力、コミュニケーション力の高さで勝負をしてきます。
多くのカッコいい男性は、声と話が聞き取りやすく抑揚があります。ボソボソゴニョゴニョ話してカッコいい男性は少ないです。演説とまでは言いませんが、「え?」と聞き返されないくらいにはハッキリと発音するのが大事です。

次に、喋りすぎもカッコ良さを損ないます。とにかく話が長い人がいます。(私のこの記事ように)
自分の話すタイミングを見極めれる、時に黙っていることを選択できる人の方が成熟した大人といえます。
言葉は、少なければ少ない方が重みがあります。

(※どの項目も鏡に向かって説教しているようで辛くなってきましたが、まだまだツラツラ書きますのでお付き合いください。)

この1~4をクリアしたのであれば、神聖な力、エロティックな力が宿る香水のパワーを借りるのもよいかもしれません。

食事の前は避けるべき

フランス製、イタリア製、製造国、調香師に関係なく全ての香水は食事に合いません。
料理が旨くなる香りがあるのであれば是非教えて欲しいくらいです。銀座三越伊勢丹の地下に香水店がありますが、どれを嗅いでも食事に合いません。ランチやディナーの前には避けるべきです。他人の香水のニオイというのは自分が思うよりも不快です。エレベーターに乗って息を止めたことはありませんか。そういうことです。

では、どんなシチュエーションでつければいいか?
旅行中や屋外の移動など、香りが一部に留まらないシチュエーション。per‐fumum=煙を通る。
室内でもシガーバーなど、既に強い香り(葉巻)が立ち込めるよう場所。

これらは、周りの人から「いい匂い」と思われやすいシチュエーションです。
大げさな例では、山の中のキャンプでBBQをしている時に男性的なスパイシーでウッディ、アーモンドのような香りを着ければ、近くを通った時に「いいじゃん」となりやすいです。香りが一部に留まらないので、他人のストレスにもなりにくいです。
次にシガーバー、これは室内ですが強い香りが既に立ち込めています。葉巻の煙は重く、長く残ります。
お手洗いから出たときなど、少しフレッシュな香りや、レザー、バニラなどの揮発性の高いトップノートが来れば、通りすがった時に「いい匂い」となりやすいです。油料理の口直しのようなリフレッシュ感があります。

ここで気をつけるべきが、強い香水の香りを持続させないことです。日本は衛生状態の悪かった近世フランスではないので、強烈な香りを漂わせ続けるのはストレスになります。例えば街路樹の梔子(クチナシ)や金木犀(キンモクセイ)の香りも、ほんの数秒間なので良い匂いに感じますが、部屋の中で何時間も続いては鼻がひん曲がります。一瞬で十分なのです。

ごく稀に「さっき通った人いい匂いだったな〜!」という魅力的な男性が存在しますが、これこそが適切な香水の活用方法です。

安い香水は避ける

ここまで話せば余計な説教は不要かと思いますが、格安の香水は絶対に避けた方がいいです。コンビニや薬局に売っている2,000円以下の香水は、今どき歌舞伎町ホストでも使っていません。高級な香料に慣れていると「うお〜!やっすいニオイ!!」と驚くことがあります。たいてい香料つき柔軟剤とセットになっています。
世の中の「ニオイ付き」のニオイが良かった試しは一度としてありません。香水に限って言えば、金額に比例して香料の質が上がっていきます。

これは私の極めて個人的な感想ですが、4,000円前後のブルガリ、カルヴァンクラインだと、「うお!くさい」
1万円以上のペンハリガンやジョーマローン、ラルチザン、ゲラン、メゾン・フランシス・クルジャンなどは「いいニオイ!」
3~5万円フレデリックマルやキリアンだと「よくわからんけど高級な香水のニオイ!」と使っている原料によって香りの感じ方が異なります。私は化学的な香気成分については詳しくありませんが、フィレンツェにある精油をブレンドしてくれる香水調剤薬局で天然香料を体験したり、高砂香料工業株式会社の合成香料サンプルを体験したり、色々な香料を試したことがあります。合成香料でも良し悪しが天と地の差です。高級な香水はどんな感じが体験したいのであれば、ペンハリガンかジョーマローンあたりから始めるのが良いかと思います。

季節によって変える

夏はフレッシュな柑橘系の香り、冬はヴァニラやムスク、シナモンなども重いスパイシーな香りを使うなど季節や温度、天気によって変化を付けるとよいです。
先ほどいったように室内であれば、軽快でフレッシュな香りを少しだけ、海や川であれば屋外なので強いグリーンな香りをたっぷり、秋冬の山であれば重厚な香りをたっぷり。季節や場所によって香りだけでなく、つける量もコントロールするべきです。

朝と夜で変える

朝は出勤前に爽やかなオーデコロンをワンプッシュ。やる気を出すマインドセットにも最適です。香水の濃度=賦香率が低いものをつければ、電車に乗る前には多くが揮発するので香害にもなりにくいはずです。そして夕食後の楽しみとして重い香りを選んだり、嗜むシガーに合わせてみるのも楽しいと思います。香水の愛好家になると、好きな銘柄をエタノールで割って任意の濃度にしてスプレーする人も。

つける場所にも気をつける

「耳の後ろ」「うなじ」「手首」などが一般的に紹介されていますが、ある程度の身長がある男性だと位置が高くなり、女性の顔あたりに近くなりがちでニオイが強く感じます。
できれば腰より下にニオイの位置を下げたほうが自然に香ります。屋内が主体の場合は、発汗のすくないふくらはぎなどでも充分です。匂わせるというより、もっぱら自分が香りを楽しむのであれば、ニオイが付着しても良い空間の高い位置で一度だけスプレーして、少しして通過すれば霧のように満遍なく弱いニオイが付着します。衣類や肌に直接スプレーするよりは持続性が落ちますが、香りが少なくつけれるのでお勧めです。

体につける以外にもある楽しみ方

何も体に必ずつけなくても様々な楽しみ方があります。例えばノートや手紙にスプレーする方法。自分のノートに香りを付けたり。手紙を書くときに仕上げに軽くスプレーすることで、届いた相手が開封したときにラストノートがほんのり香ったりします。嫌味のない気づかないほど少量にするのがお勧めです。
自宅では生花を飾るのが大変なときは増加にローズやフローラル系の香水をスプレーすれば、気分だけでも楽しめます。邪道ですが、ニオイの少ない花束(ブーケ)に香水を軽く振りかけて渡すというのもアイデアとしてはありです。

男の香水のつけ方まとめ

雑誌の裏にある「つけるだけで激モテ」なんて媚薬香水は世の中に存在していません。まずは男性としての魅力を上げること、そして清潔になり余計な体臭を一度消すこと、そこから高価な原料を用いた香水で、その場の雰囲気に合ったものを選んで適度に使う。これこそが男の香水のつけ方だと思います。

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