森の中で自生している樹木で漬け込むジンの香り

最近初めて知ったのですが、静岡県の山奥で出会った樹木(写真下)は「黒文字(クロモジ)」という名前だそうで、高級な爪楊枝などに用いられて有名だそうです。爪楊枝だけでなく枝葉から良い香りがするということで、黒文字茶やお酒に漬けたりと利用している人もいるそうです。今回は黒文字の枝を持ち帰り、アイラ島のジンで漬け込んでみました。

森の中で突然現れる黒文字。Wikipediaには、クスノキ科の落葉低木で日本の本州の関東以西・四国・九州北部や、中国に分布していると書かれています。どうやら広い範囲に自生しているようで、伊豆半島では昭和中期に黒文字から抽出した精油を輸出していた記録があるそうです。黒文字の精油にはテルピネオール、シネロール、ゲラニオールなどが含まれて、良い香りがするとされています。

普通のホワイトリカーに漬け込んでも良いのですが、それでは結果が予想できて面白味が無いので、今回はイギリスのスコットランドに位置するアイラ島のジンTHE BOTANIST(ザ・ボタニスト)に漬け込んでみました。
ザ・ボタニストは伝統的なジンの原材料である9種類のコアボタニカルに加え、 アイラ島で採取された希少な22種類のボタニカルが用いられています。島に自生しているボタニカルを手作業で採取して、島の中で蒸留しているものです。

ジュニパーベリーや杜松(ねず)の実、オレンジピール、シナモンなど中核をなすジンのボタニカル以外に、よもぎやカモミール、アザミ、スペアミントなど様々な草を使っています。
一般的なジンの製法は2種類あり、大麦やライ麦などを原料にしたグレーンを連続式蒸留機で蒸留し、その無色透明のアルコール度数の高い蒸留酒に様々なハーブを浸漬(しんし)します。そして単式蒸溜器で再び蒸留すると香りが移るという原理です。もう一つの製法は、一度目の蒸留の時に浸漬せずに、単式蒸留器のヘッド部分に薬草類をセットして、蒸気で抽出する方法です。

ザ・ボタニストの公式サイト(英語版)に蒸留の動画が公開されているのですが、これを見る限り摘みたての新鮮なハーブを浸漬してから蒸留しているようです。驚くことに途中にBRUICHLADDICH(ブルイックラディ)書かれた建物が映るのです。ザ・ボタニストはブルイックラディの蒸留所で製造されているようで、蒸留所のマスターディスティラーであるジム・マッキュワン氏がアイラ島の植物学者に依頼して製品化したそうです。私が酒屋で適当に手に取ったはずのジンも、調べてみると奥が深いことが分かります。

ジンの紹介はこのあたりとして、黒文字の枝をカットしてみます。枝の芳香成分は揮発性が高く、摘んでから1日置いただけなのに香りが飛んでしまっています。しかしまだ完全に枝が乾燥しているわけではないので、再びカッターナイフや包丁で皮をめくれば香りが立ち上がります。

実際にカッターで削ってみると、生の山椒の葉を触ったときの強烈な香りがあり、次にクローブ、ローズマリー、白い花の甘い香りなど、複雑な香りが色鮮やかに立ち上がります。一見、なんの変哲もない木ですが香りの宝庫だったのです。

黒文字とスペシャルゲスト

摘んだ後に知ったのですが生の葉も料理や飲み物に使えるらしく、田舎にたくさん自生しているわりには活用されていないなと思いました。太い枝を切り、表面を軽くカッターで傷を入れます。枝の状態だと、よほどアルコール度数が高くないと精油成分が溶けにくいはずなので、切り込みを入れてみました。また生っぽい香りを補うために、ジュニパーベリーの実も追加で入れてみます。

作業途中の思いつきで再び、庭先に出てみます。

今度はこちらを摘んでみます。植えてあるラベンダーです。
乾燥しているラベンダーと異なり、摘みたてだと天然の香水と思えるくらいにフレッシュな香りが手に残ります。ラベンダー畑を散歩しても、そこまで強い香りはしないのですが、摘み取ることで強烈な匂いを感じることができます。

こうして黒文字とラベンダーのジン漬けが完成しました。
せっかくなのでラベルもプリントしてみます。22種類のアイラ島特有のフレーバーに1つ足した23と、2つ足した24。
瓶詰めした日を小さく書いておきました。

横から見るとハーバリウムのようで可愛らしいです。仕上がりはどうなるか時間が経ってみないと分かりません。
森や庭で摘んだハーブや樹木で漬け込んだ様々なお酒が並んでいたら楽しそうだなぁと実感しました。庭で咲いている薔薇も閉じ込めてしまおうかと思ったのですが、瓶の口が小さすぎて入りませんでした。蕾があるので瓶にかぶせて成長させれば、りんごが丸々入ったカルヴァドス、ポム・プリゾニエール(Pomme Prisonnière Calvados)のようで更に可愛いのでは?と妄想は尽きません。花屋で売っている薔薇やローズマリーは農薬や肥料など、食用飲用を想定していないので自生している無農薬の花やハーブがおすすめです。

残った黒文字は爪楊枝にしても良いのですが、完全に乾燥させてフードプロセッサーやミルで砕き、天然塩と混ぜてハーブソルトが作れるそうです。
多く収穫した場合は、銅製のアランビック蒸留器など黒文字ドリンクを作るのも楽しそうです。むしろ近くで栽培されている小麦を元にしてグレーンウイスキーを作って、連続式蒸留機のあとに黒文字に漬け込んで……。
ボタニカルの夢は無限大です。

[PR]『朝香珈琲』では、東京の地名をモチーフにした特別なコーヒーブレンドで、あなたの日常に新しい彩りを。可愛らしいパッケージの中に、都会的なコーヒータイムをお届けします。
Share.

1989年 静岡市出身。主な執筆分野:ライフスタイル、旅行、料理、お酒。