LladróとBing&Grøndahlから見るフィギュリン

はっしー

リナシメント読者の皆さまはフィギュリンをご存知でしょうか?
英語で陶磁器人形を意味するフィギュリン(figurine)ですが、元々は古フランス語であるfigureから変化したといわれています。フィギュリンのルーツは、18世紀初頭にドイツのアウグストゥス2世が錬金術師ヨハン・フリードリッヒ・ベトガーを監禁して磁器製造の研究をさせ、王立ザクセン磁器工場(後のマイセン)を設立したところから始まります。現代でも多くの陶磁器メーカーがフィギュリンを製造していますが、有名なのはマイセン、コペンハーゲン、リヤドロなどです。コールポートなどの英国陶磁器メーカーもありますが、なぜか流通量はドイツとその近隣国が多く、英国製は少ないように見受けます。ビスク・ドール(アンティーク・ドール)の流行などが原因かもしれません。

知り合いのあるアンティーク・ディーラーの女性から面白い話を聞いたことがあります。彼女がオックスフォード大学に在籍した時に、英国爵位を持つ貴族の末裔出会い……。これだけで嘘っぽい作り話のようですが、まあこれが作り話だとしても面白く、その貴族の末裔から冬はマナーハウス(カントリーハウス)、夏はタン・ハウスに呼ばれたそうです。タン・ハウスはもちろんロンドン市街に構えていますが、「別宅なので狭いよ」と呼ばれて訪ねると優に1000平米はあろう家で、複数のゲストルームと使用人部屋まで備えています。社交界のパーティーに参加したときに東洋人は彼女一人で、それは面白いエピソードの数々だったそうですが、本題からそれずに一部を抜き出すと、宿泊したタンハウスのゲストルームには巨大なマイセンの陶器人形が置かれていたそうです。彼女はその時価、数百万円はするであろう陶器人形を客人が不注意で割ったらどうするんだろうと思いながら、腰より高い位置にあるフワフワのベッドで眠ったそうです。
他にも貴族の館の絵画保管庫に案内された話など、面白いエピソードがありますが、何より私がその話を聞いていたのが彼女の店で、隣に豪奢な花が撒き散らしたマイセンの人形が売られていたのです。富裕層というか、余裕のある人たちは陶器人形を飾るものなんだなぁと関心しました。

何れにせよ私は陶器人形にはあまり詳しくないので、今回は手元にある作品からフィギュリンの造形について書いてみたいと思います。ちなみに、この3点も彼女の店で譲り受けた品です。

リヤドロ Lladró Comercial SA

リヤドロは1953年にスペインのバレンシア州に設立された会社で、新しいブランドです。日本では百貨店で必ずといってよいほど見かけ、フィギュリンといえばリヤドロを思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。

この作品はハトが枝に留まっていますが、白い花が付いているのでオリーブの木かもしれません。調べてみたところ製造開始が1969年で廃盤年が1998年という作品のようです。初期の時代から長い間に渡って愛されていたフィギュリンのようです。ロイヤル・コペンハーゲンなども同じように四半世紀以上に渡って同一のモデルを作り続けることもあります。

彩色部分は少なく、羽の立体的な動きに影が出て柔らかい質感を思わせます。やや筋肉質な体であることを想像させます。
高さは500mlのペットボトルほどですが、飛ぶ直前の羽が広がる躍動感があります。

こちらも同じハトをモチーフにしたフィギュリンですが、白磁の色合いと足の部分の彩色が少し異なります。
後ろから見ると、羽がひとつずつセパレートしていることが分かります。
リヤドロは人間や少女、天使を主題とした人形が多いですが、平和の象徴のハトやインコなどの小さな鳥を主題とすることもあります

Bing&Grøndahl ビング オー グレンダール

次は問題作のビングオーグレンダール(B&G)です。Meyer Hermann BingとJacob Herman Bingによって1853年に設立されたデンマークの磁器メーカーですが、現在はロイヤルコペンハーゲン(RC)に買収されて現存していません。カップ&ソーサー界隈でも有名で、同じブルーフルーテッドでもB&G時代とRC時代で仕上がりが異なるなど、時代によるばらつきがとても大きいのです。中でもシーガル(かもめ)はC/Sで千円弱で買えることもあるので、RCと比較したり、手頃なB&Gを買い集めるのもお勧めできます。

このB&Gのフィギュリンはアンティークショップで譲り受けたのですが、過去に見たどのフィギュリンよりも完成度が高く、それでいながら無名で素性が分からない品なのです。

釉薬は掛かっておらず、素焼きの状態で完成しています。女性は古代ギリシアのキトン?にトガのような布が肩から垂れ落ちています。私には検討もつかないのですが、もしかして有名な神話の人物なのでしょうか。幼い子どもを右手で抱き寄せて、左手で腕をひいています。興味深いところは子供が女性の顔を見るのではなく、女性と同じ「先にある何か」を見ていることです。

素材は素焼きの白磁ですが、本物の人間の肌のような質感で柔らかさと、しなやかさを感じさせ人形自身が生きているような瑞々しさを持っています。女性の布が垂れる質感はもちろんですが、指先から子供の筋肉の付き方までドナテッロの彫刻を思わせるような柔らかさで、写実性に富んだ作品になっています。

驚くべき箇所は足元にもあります。垂れた布の中の足も精巧に作られて、子供の背中の後ろに位置する場所まで全て妥協なく作り込まれているのです。目に見えない部分さえ造形されているので、先に女性を作ってその後に布、そして子供と分割して製造されたと予想できます。これが僅か15cmほどの高さの中で再現されているのです。造形師の高い空間把握能力と構図選び、削り出す技術力の結晶といえます。

明暗を意味するキアロスクーロ(Chiaroscuro)というイタリア語がありますが、これはレンブラントやカラヴァッジョが絵画で光と影の演出や技法を確立したことで有名です。フィギュリンは絵画ではありませんが、自然光や室内の照明などの光源によって影が生まれ、それによって作品に命が吹き込まれることを考えれば、この明暗法が当てはまるといえるのではないでしょうか。近年のフィギュリンは型抜きが多く、造形もシンプル、華やかに彩色された作品が目立ちますが、アンティークの古いフィギュリンの中にはこのビングオーグレンダールのような無彩色の素焼きの人形に出会うこともあります。

デッサンのモデルとすることさえ出来る完成度のフィギュリンも流通しているので、まだフィギュリンを飾ったことがないのであれば、この深い世界に足を入れてみるのも面白いかもしれません。

おすすめの記事