グロールシュ(Grolsch)スペシャルビール飲み比べ――オランダビール三昧 1

まだらの牛

ある日、近所のスーパーのビール売り場を眺めていて、一つの考えが頭に浮かびました。この棚にある全種類を飲み尽くそう。そしてリナシメントにレビューを書こうと。この決心はとりあえず、もっと控えめに、スーパーにあるオランダのビールをすべて飲み比べしようというものに変わりました。かような次第で、まずはグロールシュのスペシャルビールからこの旅は始まります。

グロールシュ(Grolsch、オランダ語の発音に近いカタカナ表記はフロルス)はオランダで1615年に設立された歴史あるビールのブランドです。2016年にアサヒグループホールディングスに買収され傘下になっていますので、アイコンとなっている緑色のスウィングトップボトルをスーパーで見かける機会も多いのではないでしょうか。日本語では英語にならって、スウィングトップボトルと呼び習わされているようですが、オランダ語ではbeugelflesと言い、beugelは「かすがい」とか「留め金」という意味ですが、歯列矯正のあの器具のことも指すらしい(beugelの英語訳がbraceでbraceにも歯列矯正のブラケットの意味があるので同様ですね)。Flesは察しのよい方はすでにお気づきかもしれませんが、瓶のこと。これからはグロールシュの瓶を見たら歯列矯正のことが脳裏に浮かぶようになるでしょう。だからどうということもありませんが。

アイコンとなったそのスウィングトップボトルに入っているピルスナーの味も優秀ですが、今回ご紹介したいのはグロールシュのスペシャルビール。今現在スーパーに並んでいる五種類を飲み比べてみました。グロールシュに限らず、大手が出しているビールというのは現在のビールのトレンドを概括しているようで、手っ取り早く今どんなビールが流行っているのか知ることが出来ます。アメリカから火が付いたクラフトビールの流行のスターと言えるIPAは当然グロールシュでも商品化されていますが、面白いのはボックビールと呼ばれる種類。発祥地のドイツではBock、オランダ語ではbokと表記されるこのビールは通常のビールよりアルコール度数がやや高く6~7 %台が多く、そのため重ためのビールです。上面発酵(エール)でも下面発酵(ラガー)どちらの作り方もあるようですが、今は下面発酵が主流。ちなみにBock (bok)というのはヤギを意味する。ボックビールのラベルにヤギの絵が描かれていることが多いのはそのためですが、今回ご紹介する二種のボックビールには残念ながら描かれていない。どうしてヤギなのかというのは、発祥地のドイツのEinbeckという都市の名前でこのビールを呼んででいたようですが、それがバイエルンの訛りで「ein Bock」となったと、そうしてようは洒落ですね、「ヤギ」ビールという連想が働いたと、そういうことらしい。

このボックビール、元来秋から冬にかけて出回る季節もののビールですが、ここオランダでは春物も夏物も作ってしまえということでしょうか、商売根性豊かなのか、そんなにいつでもボックビールを飲みたいのか、ちゃっかり一年中飲めるようになっています。そうすると希少性がなくなる気もしますが、それぞれ季節性を打ち出して味に違いを見せていますので、心配はありません。

 

春物ボックビールから行きましょう。Frisse lentebok(爽やかな夏のボック)という名前のこのビールは青葉がラベルに描かれ、見るからに瑞々しい印象です。瓶の後ろのラベルを見ますと、「Hallertau Mittelfrüh」のホップがローストされた麦芽と合わさっていると書かれています。このホップの種類の固有名詞は飲む人に対する挑戦なのでしょうか。調べてみるととりあえずドイツの超有名なホップの種類であることは分かりました。「高貴な」ホップであると評価されているとか。そのホップのおかげだけではないでしょうが、味はどうかというと、

くすぐって刺激するようなレモン、蜂蜜、青りんごのトーン。薬草のようなニュアンスは春を想起させる。

このようにラベルには書かれております。さて、実際私の飲んで見た感想はどうかというと、甘く口当たりは少し重め、後味に苦みあり。全体に酸味を感じる。確かに青りんごの味はする、こうまとめられました。アルコールは6.5%。

 

次はKristalheldere zomerbok(清澄な夏のボック)。一口目から、ヴァイツェン、ヴァイツェンではないか。それほど小麦の味がくっきりと飲み始めから主張してきます。ラベルにもはっきりと、オランダ人の子供の薄い黄金色の髪の毛のような風にそよぐ小麦の絵が描かれております。ラベルの説明を読むと、ドイツのクリスタルヴァイツェンボックにインスパイアされたとか。徹底した濾過により、美しい黄金色を実現したとも。春のボックにも共通することですが、爽やかさを強調しているものの、正直なところ、アルコール度数が高めなのでそれほど軽やかには飲めない。しかしそれはマイナスではなく、口蓋の中でゆっくりと味わっていますと、水飴のような甘さが広がります。香りや口に含んだ際の印象は酸っぱく新鮮さを感じさせますが、口の中でゆっくりと転がして楽しめる味です。アルコールは6.4%。

そしてこれでボックビールはおしまいです。次はFris bittere IPA(爽やかで苦いIPA)。

ビールのつまみらしからぬレーズンと蜂蜜味のヤギのチーズをつまみにしてみると、違和感なく合いました。

これは香りが最高ですね。重たいボックビールのあとに飲むとまた格別に口の中がすっきりします。口にずっと含んでいると例えはよくないですが桃の天然水の味が。ちょっとキャラメルっぽい後味も。個性は強くはなく、模範的なIPAというところでしょうか。アルコールは5.5%。標準的な度数ですね。

 

Blonde saison(黄金色のセゾンビール)に移りましょう。セゾンビールはベルギー発祥のビールのスタイルで、農家が夏の農作業の間に飲むために作られました。セゾンはフランス語で「季節」の謂です。爽やかさが特徴で、IPAまで極端ではないですが、ホップがきいています。このグロールシュのセゾンは小麦の香りが強く、ヴァイツェンに似ています。それにIPAっぽいホップの主張が混ざっています。フルーティーさ、酸っぱい香りなど、夏に飲むのにまさにぴったりと言えます。アルコールは6.5%。

 

次のPuur weizen(純粋なヴァイツェン)は、最初に口に含んだ時は、むしろヴァイツェンらしさが薄いと感じました。少し時間をおいて二口目からは小麦の味がくっきりとしてきましたので、たんに前に飲んでいたBlonde saisonの印象がまだ口腔に残っている内に飲んでしまったということでしょうか。そのまま何度も口に運んでいくと、「かなり甘いな」という独り言が漏れたほど、甘みがあって飲みやすく、苦みはほとんどない。個人的にはヴァイツェンのこういう口に粘り気が残るような甘みが苦手なので、それがホップの苦みで中和されたBlonde saisonの方が好みでした。アルコール5.1%。名前に「純粋」と入っていますが、ドイツの有名なビール純粋令に則っているからということです。

 

最後はKrachtig kanon(力強い大砲)です。第一印象は蜂蜜。舌で転がすと飴をなめているような感じ。それほどアルコールを感じたわけではないのですが、今回のビールの中では一番強く11.6%あります。これは危険でしょう。アルコールらしさは最後に舌に残ってすっと消えるくらいですので、確認しなければ普通のビールと同じペースで飲んであっという間に酔っぱらってしまいそうです。KANONの文字の上にKRACHTIG(強い)と印字された黒いラベルは力強さを印象付けます。説明を読むと、高温での二重発酵によりこの力強いキャラクターを実現しているそう。説明書きに記された、想起させる味の例えも、「熟した無花果、ヨウシュネズ、キャラメル」と独特です。ヨウシュネズ(juniper berry)というのはジンの味付け用に使われる植物。本当のベリーではなく、針葉樹から取れる恐らく唯一のスパイスだという。

喉の渇きを潤すためにそれほど味を意識しないで飲んでしまいがちなビールですが。あえてウィスキーやワインを味わうように口の中で転がして見ると、いつもごくごく飲んでしまっているのがもったいないと感じるようなグロールシュのスペシャルビールのご紹介でした。残念ながら日本では展開されていませんが、日本のクラフトビールを飲む際などに味の参考にしていただければ幸いです。

 

「オランダビール三昧」続きはこちらから:

IPAの雄ヨーペン(Jopen)――オランダビール三昧 2

グロールシュの公式サイト(日本語)
(オランダ語、スペシャルビールの頁)

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