両義性のビール、ヨーペン(Jopen)――オランダビール三昧 3

まだらの牛

みなさま、相変わらずビールを飲みまくっている筆者、まだらの牛です。オランダはしばらく前からかなり暑くなっており、カフェのテラスでビールを飲むにはもってこいの季節です。緯度が高いため、日の入りが今は十時過ぎで、遅くまで外で飲んでいても明るくて気持ちいいのですね。冒頭の写真はこの前ユトレヒトにある美術館に行った際、カフェで頼んでみたボトルです。Oesterstout(牡蠣スタウト)という名前。このビール、近くのスーパーでは見かけませんが、いつかまた買って詳しくレビューしてみたいです。牡蠣の味は特に感じませんでしたが、店員の話によると2019年で一番うまいビールに輝いたとか。具体的に何の賞か聞くのは忘れていましたが、家に帰って調べてみるとWorld Beer Awardsという賞らしい。

 

この賞、公式サイトの情報が分かりにくくて、賞の仕組みを理解するのに時間がかかったのですが、様は細分化された各スタイルごとに国代表を決める。その国代表の中から全世界で一番を決める。その決まった一位の中からそのスタイルの上位区分の優勝者を決めるということらしいです。

 

上位区分――大きいスタイルが全部で九つ(ダーク、フレーバード、IPA、ラガー、ペール、サワー、スペシャリティ、スタウト&ポーター、ウィート)、その下にIPAならイングリッシュとかアメリカンとかがある。

 

ややこしいのは下位区分の国代表はcountry winnerとして入賞しており、さらにそれに漏れたものでも惜しいものは金、銀、銅と入賞している。結局かなりの数が入賞しているんですね。上の区分である九つの優勝者を見れば、とりあえず今世界で一番うまいビールが何かというのがてっとりばやく分かるという感じでしょうか。スタイルが異なるのでそれ以上は優劣つけないんでしょうね。

 

さて、上のOesterstoutはベルギーのインペリアルスタウト部門での金賞でした。ベルギーのそのスタイルのcountry winnerの次点ということ。なら一番じゃないんじゃないか、とちょっとがっかりでしたが、うまかったのには変わりない。コクはありますが、しつこくなく飲みやすかったです。醸造所の名前はScheldebrouwerij、ベルギーのブランドなので、オランダビールとはまた別枠でいつか取り上げたいと思います。

 

前置きが長くなりました、今回は前回のヨーペンの飲み比べの続きです。ヨーペンはオランダのハールレム(Haarlem)にあるクラフトビールの醸造所。各ビールにつけられた個性的な名前はそれに負けない特徴のある味と共に楽しませてくれます。

 

緑色のラベルのこちらはJacobus Pale Ale。公式サイトにはアメリカ風のペールエールだと記されています。アメリカのホップによるフルーティな苦みの下にライ麦由来のハーブ風味が隠されているとか。なんとライ麦が使われているんですね。これは期待が上がります。

 

ライは名前の由来にも絡んでいます。Jacobusというのは聖ヤコブのこと。ヨーペンがある元教会の名前にも昔ついており、また巡礼者の守護聖人でもある。巡礼者は昔gasthuisという浮浪者、巡礼者のための施設に泊まって各地を回っていましたが、そのgasthuis(英語で直訳するとguest house)はライ麦を使ってビールを醸造する分には物品税が免除されていたとか。それでJacobusを名前に冠したとヨーペンの公式サイトは説明しています。

 

さて肝心の飲んでみた感想はというと苦みが強く感じられるが、今一つ地味な印象。少し放置しておくと甘みが出て来て飲みやすくなりました。なんにせよ優秀なペールエールであることは変わりませんが、それほどパンチの効いた味ではない。しかしライを使っているというのは物珍しいですね。ライウィスキーと飲み合わせたりなど試してみたいです。

 

次はAdrian Wit。実は恥ずかしながらWit(白ビール)とWeizen(ヴァイツェン)は名前が違うだけで同じだと思っていましたが、ヨーペンのホームページを見ているとこの二つを区別していることに気が付きました。大きな違いは白ビールはハーブなどなんでも入れてよいのに対して、ヴァイツェンはドイツのビール純粋令にしたがって、麦芽、水、ホップ、酵母以外は認めていないことですね。日本で一番有名な白ビールはベルギーのヒューガルテンでしょうが、そこにもコリアンダーシードなど入っていますよね。

 

ということでこのAdrian Witにも副原料としてgruitなるものが入っております。この単語はビールに入れるハーブのミックスを意味する専用の単語です。ラベルにも公式ページも実際、何のハーブが入っているのか書かれていません。、ハーブ(香辛料)の中身を嗅ぎ分けるほどの優れた嗅覚を筆者は持っておりませんので、予想することも止めて、ただ味の感想を述べるにとどめます。

 

蜂蜜レモン、穏やかな香り。白く濁った金色。ちょっとぬるい状態で飲んでしまったのがよくなかったか、キャンデーのようなねばついた舌ざわり。うん、やはり私にはホワイト系のビールは合わないようです。ですがまずいとは言いません。甘ったるくねばついていますが、こういうのが好きな人も大勢いると思います。

 

このAdriaan、名前の由来はハールレムに古くからあったDe Adriaanという粉ひきの風車に因んでいるとか。ハールレムでずっとビール醸造所の粉も挽いていたのですが、1932年に焼けてしまった。今現在は再建されていますが、ヨーペンもこのビールの売り上げを通じて寄付をしたそうです。

 

次に行きましょう。Heavy Cross Triple IPA。名前からして恐ろし気。トリペルはベルギービールによくある強いペールエールを指す名称。強い、というのは味の濃さもそうですが、端的にアルコール度数が高い。10%。IPAということでホップがこれでもかと足され、アルコールもホップの割合も高い、ハードな仕上がりのビールです。Heavy CrossというのはGossipというバンドの同名のヒット曲に由来しているという。ヨーペンはこういう名付け方が好きですね。歌のメッセージは重い十字架を背負って、過酷なこの世に面している、といった風に要約できるようです。西洋文化はしかしいつまで経ってもキリスト教ネタを捨てませんね。

 

肝心の味はというと、これが無茶苦茶うまい。今回飲み比べた(前回の記事も含めて)ヨーペンのビールの中で個人的には一番のビールです。柑橘系の強い香り。口に含むとガツンと濃い味。まがまがしい味。懐かしい味。まがまがしいのに? オレンジの皮に燻製の香り。薬のような苦み。コーヒー。せんべいのようなしょっぱさと甘み。柑橘系の天に昇るような軽く爽やかな味に対し、おぞましい何かが(10%というアルコールか)地上に引きずり下ろしてくる。

 

上は飲んだ時に走り書きしたメモほぼそのままですが、今見ると薬でもやってそうな記述ですね。しかし取り消す気はしません。本当にこんな味がしたのです。

 

原材料を見ますと水、大麦、オーツ、ホップ、イーストと至った普通の構成。ホップにこだわっており、Hüll Melon-hopはメロンのような香り、Hallertau Blancはフルーティさや白ブドウ、CitraとAmarillo-hopが夏の爽やかな果物の香りを爆発させる役割を果たしているんだそう。これだけ見ると爽やかな印象を受けますが、騙されてはいけません。このビール、まがまがしい。

 

四本目はTrinitas Tripel。三位一体のトリペル。ペールエールの一種、非常に薄い黄金色が美しいブロンドの一本となります。ドイツでは純粋令の水、麦芽、ホップが「三位一体」とされていますが、ヨーペンは大麦、小麦、オーツを自分たちの「三位一体」として打ち出し、この名前にしたとか。麦芽の種類だけで「三位一体」を作るのは、ドイツのものと釣り合いが取れない気もしますが、そんなことを言うのも野暮なのだろう。

 

香りは白ビール。蜜柑。オレンジというよりあえて蜜柑。アイスキャンデーのような甘み。わずかな柑橘系の皮のような苦み。甘さはAdriaan Witに似ているが、それより複雑でバニラの味も感じられる。

 

最後です。Maria Magdalena Black IPA。また変な名前が来たよ。マグダラのマリアを名前に用いた理由は、「聖人」なのか「罪深い人」なのか、その両義性にかこつけてのことだそう。このビールにはJacobusと同じく、ライ!が使われています。使われているホップはCitraとMosaic。

 

では肝心のお味は? 柑橘。黒砂糖の香り。見た目に反して爽やかな味わいはIPAらしい。ダークチョコのようなこくと苦み。ローストされた麦芽の味。黒ビールが好きな人にはたまらない感じですかね。ギネスなんかも真っ黒な見た目に反して、飲めば案外麦茶みたいな爽やかで薄い味がしますからね。ギネスに香り豊かなホップを足した感じで、美味しいです。

 

ここまで書いて確かに見た目の黒さと飲んでみた印象の爽やかさ。見事に両義性が見られることに思い当たりました。ヨーペンの名付けは馬鹿にできません。個人的に一番好きだったHeavy Crossにも重たさと軽さの相反する要素が見られました。こうした複雑さはは癖になりそうです。

 

いかがでしたでしょうか。前回にもまして個性的なメンツが揃っていました。オランダにいらした際は、ぜひハールレムに行って(時間がなければスーパーに行って)、ヨーペンビールを試してみてください。Anything but boring(退屈以外はなんでもある)がモットーのヨーペンビール、ひとまずこれでレビューを終わりたいと思います。次回はHoopというブランドのテイスティングを予定しています。そしてそろそろちゃんとスタイルごとのビールのグラスを用意したいと思っていたころ。Hoopの次くらいにはもっと見栄えもし、味の違いも分かりやすくなるグラスで引き続きこのビール飲み比べ、続けて行きたいと思っています。

 

前回の「ビール三昧」はこちら:

IPAの雄ヨーペン(Jopen)――オランダビール三昧 2

ヨーペン(Jopen) 公式サイト(オランダ語ですが)

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