オランダは日本よりビールは安い。水なみに安いビールもありますが、私がこの連載で今のところお届けしているオランダのクラフトビールは残念ながらそれほど安くはない。どれも33clで2~3ユーロ(240~360円)といったところ。それでも水なみに安いハイネケンを飲むより面白みはあります。ハイネケンももちろんのど越しがよく、味わい深くもある素晴らしいビールなので、貶めているわけではないですが。

オランダのビールをひとすら飲んでいくこの企画、今回はホープ(Hoop)という醸造所のご紹介です。Hoopは英語から類推できるように「希望」という意味。2016年に誕生した、割とあたらしいブランドです。アムステルダムの北西ザーンダイク(Zaandijk)に会社があります。

公式サイトによると、ドイツのCasparyという醸造の機器をオランダではじめて導入したんだそうです。Casparyというのは、日本でも横浜のキリンはじめ11の醸造所で用いられています。近代的で半自動などのテクノロジーに力を入れている会社のようです。

ホープは2016年ということでまだ非常に若い。公式サイトを見ますと、一々誰がどの仕事を担当しているか名前が載っているほど。少数精鋭で市場に挑んでいる勢いのある醸造所なのですね。ラベルのデザインはスーパーで思わず手に取って見たくなるような洒落たもの。

髑髏のラベルで遊んでみました。

また、ホープは持続可能性にも力を入れているとか。醸造所や併設のレストランなどの屋根には300以上のソーラーパネルがあるといいます。そういう意味でも新しい、若い世代の醸造所なのですね。

 

早速試飲に行きましょう。トップバッターはSummer Session Tropical IPA。ラベルにはビーチの上でのんべんだらりとLafumaのみたいな赤い椅子に座っている人物が描かれております。

DE PERFECTE ZOMERDAG(完璧な夏の日)とラベルの下部に書かれているように、少し腹が出た人が、それ以上太ることなど気にせず、ただ今の快楽を静かに楽しむためのビールです。筆者は痩せている振りをして下腹だけぽこりと出させている中年ですので、このラベルの絵はまことに身に沁みます。ビールばかり飲んでいるとこうなるのだ。

味はというと、マンゴーの香り、わずかな苦みが爽やかさを足している。少し味が薄いとも感じましたが、欠点になるほどではない。よいビールです。夏の暑い日にあまり何も考えずに楽しむのに最適ですね。ホープはラベルの瓶の後ろ側に合わせる食べ物は何がいいか書かれていますが、これは魚とヤギのチーズがおすすめされています。ワインで言えば白ワイン系の合わせ方ですね。

使っているホップはCitraとSimcoe。ヨーペンでもこの二つがよく使われていました。Citraは2008年にリリースされたアメリカのホップ。IPAに使われるホップの種類として今かなり人気があるみたいです。名前に明らかなように柑橘系の香りが豊かです。苦みはかなり強いので、苦み付けとしては敬遠される向きもあるとか。Simcoeもアメリカのホップで2000年にリリースされています。柑橘系はもちろん、ハーブや少し土っぽい香りもあるという。

こうしてみて行くと、IPAで使われているホップはまさにアメリカがけん引しているクラフトビールブームと同時に新しいのが色々誕生しているんですね。

 

次はKaper East Coast IPA。IPAというととにかくホップが効いてて苦いんでしょ、というイメージに合致するのはアメリカの西海岸のスタイルに近く、東海岸(というのはアメリカのそれのことですが)のIPAのスタイルはNE IPA(ニューイングランドIPA)に代表されるように、小麦やオーツ麦を使ったりとより複雑で、色はしばしば白濁しており、粘度も高かったりします(参考記事:What’s the Difference Between West and East Coast IPAs?)。

それではこの一本はどのような味か。フレッシュな柑橘系の香りがし、口に含むと甘みが広がります。小麦やオーツは入っているのかな。材料には麦芽としか記されていないので正確なところは分かりません。ロースト系の後味の苦みが舌に長く残り、余韻に長く浸ることが出来ます。あまりNE IPAのような特徴が感じられたわけではありませんが、ただ苦いというよりやはり複雑な甘みがありますね。個人的には後味の余韻が長いのが気に入りました。ラベルによると、こちらのビールはハンバーガーやヤギのチーズと合わせることがおすすめされています。

ちなみに名前にあるKaperは私掠船の船長の謂。骸骨として描かれているClaes Compaenというのがオランダの有名な私掠船の船長だったそう。のちに海賊になったとか。この醸造所のあるザーン(Zaan)地方の出身者だということです。オランダの街を歩いていると、赤ら顔のおっちゃんが運河の上で得意げにボートに乗って豊満な肉体を太陽に晒しているのをよく見ますから、航海に対する憧憬みたいなものは日本より身近に感じます。

 

次はBleke Nelisです。先に味から行きましょう。香り豊かでフルーツの甘味。酸味はけっこう強いです。グレープフルーツなどの甘酸っぱい香り。粘度は一本前のKaper East Coast IPAより高く感じます。少しむせかえるような甘みを感じました。

ラベルには鶏肉とエビと合わせると美味と書いてあります。オランダでは魚介類も結構消費されていますが、肉類よりは高く、こっちの生活に慣れたら日本人が金持ちに見えます。スーパーに行けば当たり前のように刺身が売っているというのは稀有なことです。

鶏肉もエビも一般に濃い味ではありませんから、どちらかというと白ワイン的な合わせ方なのでしょう。グレープフルーツの香りと書いたように、爽やかさが第一の特徴ですから、うなずけます。

ラベルには白熊に抱き着かれた立派な顔のおじさんが描かれておりますが、これは捕鯨船の指揮官だったCornelis Gerritsz Jongekeesという人物。1668年にホッキョクグマをしとめたあとに獲物を持ち帰ろうと近寄ったら瀕死のその熊に抱き付かれたとか。幸い仲間の手助けもあり、命を落とすようなことはありませんでしたが、そのショックで髪が真っ白になってしまったそう。このおじさん、先の髑髏と同じく、ホープのあるザーン(Zaan)地方の出身です。この地方は興味深い冒険者を輩出しているようで。

 

最後はAnker Session Weizen。アルコールは3.4%と少なめです。ヴァイツェンらしい酸っぱさ。いや、とにかく酸っぱくレモンジュースを飲んでるような気がする。子供に飲ませたら泣き出すんじゃないかってくらい。ラベルにはレモングラスの味とクローブの香りがすると書かれていますが、クローブのことなんて考えてられないくらい酸っぱい。合わせる料理はヴィーガンバーガーとサラダがよいそう。

ここまでビールを単独で飲んでいましたが、あまりの酸っぱさにとうとうおすすめ通りにサラダを合わせる気に。冷蔵庫に入っていた野菜をかき集め、トマト、ルッコラ、ウイキョウ(フェンネル)、ヤギのチーズでサラダを作りました。

食べてみると確かにこのビールに合います。これまでビールとサラダを合わせるという発想はあまりなかったのですが、こういう酸っぱいヴァイツェンならいけますね。

今回はホープという比較的新しい醸造所のご紹介でした。個人的には、ラベルのデザインは好きですが、そこまでパンチはなかったな。次回はOedipusというアムステルダムのビールを飲みたいと思います。

 

前回のビール三昧:

両義性のビール、ヨーペン(Jopen)――オランダビール三昧 3

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オランダ在住。オランダの文化や自然、その他ファッションについてなど諸々発信していきます。