Kompaan(コンパーン)はデン・ハーグにあるビールのメーカーだ。

ブランドのはじまりは2010年にイェルーン(Jeroen)とヤスパー(Jasper)という二人の学校時代からの友人が家でビール作りを始めたということに置かれている。創業の年も、ホームブルーイング(自宅などで小規模に自分たちが楽しむためにお酒を醸造すること)から始まったという点も、前回ご紹介したアムステルダムの醸造所、Oedipusに似ている。

ホームページでは同じく、自分たちのストーリーが写真付きで詳細に語られ、海外市場も意識している証拠に、Oedipusと同じく、表記は英語である。自分たちのブランドの歴史を詳細に語るというのは、インターネットが発達した現代において、必須のマーケティング戦略でもある。SNSやブログが発達した今の世界において、ネット上ではありとあらゆる個人が自分の履歴を公開している。それは読み手に共感を促す役割があり、それによって消費者は作り手との距離を近く感じることができるというわけだ。

別に文句を言うのではないが、この連載を続けて来て、そういった「ストーリー」には実は食傷気味になって来た。自家醸造から始まったという個人史的なストーリーはもちろん、事実であろうし、大企業との差別化を図って、大企業には出来ない個人のこだわりを詰め込んだビールをお届けするという意図も分かる。クラフトビールメーカーというのの存在意義もそこにある。しかしそれぞれのクラフトビールメーカーがどう違うかというと、ホームブルーイングから始まったとか、ビールフェスに参加し知名度を上げ、ブランドとして大きくなっていったとか、ストーリーは似通い、また味も驚くほど違いがあるわけではない。

そういう時はハイネケンを飲みたくなる。ハイネケンにもホームページを覗いてみれば立派なストーリーが書かれているだろうが、そんなことには一切注意を払わないでただ喉の渇きを癒すためだけに飲みたい。全世界に均一で匿名の味のピルスナーを提供するハイネケンが(市場での厳しい競争を勝ち残って来た「ハイネケン」という名前が輝くのではあるが)。しかしハイネケンばかり飲んでいても単調な味に飽きるのでクラフトビールにまた戻ってくることになる。戻って来ると自分の飲んでいるものがどう特別なのかを知りたくなり、どんなメーカーなのかを調べる。そしてささやかながら日本のビールマニアに情報を供したいと考え、記事を執筆する。

さて、「kompaan」というのは「仲間」とか「同志」といった意味だ。イェルーンとヤスパーという二人の友人が始めたというブランドの歴史に沿った名前と言えるだろう。消費者に向かって、自分たちのビールのファンになってほしい、「同志」になってほしいというメッセージもあるのかもしれない。「同志」になれそうかどうか、下のレビューが参考になれば幸いだ。

トップバッターはHandlanger double I.P.A.。「handlanger」とは「共犯者」とか「ぐる」という意味。アルコールが8.2%となかなか強烈なビールだ。

飲んでみた感想としてはかなり濃い。これほどIPAは新鮮だ。ダブルと謳っているだけある。香りは海を思い起こさせ、とろみが口の中全体に広がる。フルーティーさはそれほど感じないが、甘みやリコリス、柑橘系の苦みがある。香りについてさらに付け足すと醤油のようなものが感じ取れたので、驚いた。

上にクラフトビールの味なんて結局似たり寄ったりといった意味のことを書いたが早速取り消さなければならない。ボーっとしているとたまにこうやって目を覚ましてくれるような味に出会うので、クラフトビールの探究は面白い。

このビール、前に紹介したことのあるWorld Beer Awardsで栄えあるStyle Winnerに輝いている。Imperial/double IPAのスタイルで全世界の中から一位に選ばれているのだ。賞を獲ることだけある、納得の味だった。

これほど特色のある味がどのように出来ているか、材料を見ると、意外なことに普通のものしか使われていない。水、大麦麦芽、小麦麦芽、ホップ、イーストである。ホップはAmarillo、El Dorado、Simcoeが採用されている。それらは柑橘系と、土っぽい匂いを出すと言われている。

次はLevensgenieters New England IPA。「Levensgenieters」というのは「人生を楽しむ人々」という意味。こちらは上とは打って変わって、気楽な雰囲気で、アルコール度数も4.5%と低い。

トロピカルフルーツの香り。NE IPAらしく濁っており、口に含んだ時のとろみも典型的なそれである。海苔の匂いがするのは海の香りがすると上に書いたHandlangerと共通している。このLevensgenietersはそれに加え、せんべいのような匂いもする。

Handlangerのようなインパクトはないものの、普通に美味しいNE IPAである。大麦麦芽、小麦麦芽、オーツ麦、トウモロコシ、と多種類の穀物が使われている。

Wannabee Witbierは小麦を使ったいわゆる白ビールである。名前の「wannabee」というのが面白く、蜂を助けよう!というコンセプトらしい。Honey Highwayなる蜂を保護する団体とコラボし、ビールの売り上げのいくらかが、蜂にとって大切な花の種の購入資金に充てられる。

Wannabee」というのは、スラングで、なにか今の自分以外のもの、典型的にはスターのようになりたいと憧れる人物のことだ。この言葉には現実には無名に終わる人物を嘲笑う、あるいは努力したって無駄だと諭すような意地の悪さが見え隠れするが、ここではそうした意地の悪さの代わりに、蜂(bee)を助けよういう肯定的なメッセージが打ち出されている。

肝心の味にうつろう。メロンや梨、蜂蜜の匂い。なめらかな口当たりはもはやジュースのようだ。少しスイカっぽい後味もある。二口目、三口目と飲み進めてみても、この印象は揺るがない。少しとろみがあり、果汁百パーセントのジュースのような口当たりだ。本当に飲みやすく、カクテルより甘い。

私は白ビールは苦手なのだが、これは美味い。とろみがあるものの、粘り付くような甘ったるさはない。矛盾しているようだが、言葉で表現しようとするとこうなってしまう。爽やかなジュースのようなのだ。甘さというのはこの種のビールには不可欠であるが、度を過ぎると粘っこく気持ち悪い。それがこのビールでは絶妙に避けられている。

コリアンダー、オレンジ、レモングラスと多彩な原材料が使われているビールでもある。味の複雑さと原材料のそれとは必ずしも照合するものでもないが、この一本は素直に、材料の多様さを称賛できる。美味いからだ。

最後はBondgenoot hopped blondだ。「bondgenoot」とは「盟友」とか「味方」といった意味。

オランダに来て、「ブロンド」というビールの表記をよく見かけるようになったが、つまるところこれはペールエールを指す、ベルギーやオランダの言い方らしい。しかしこの商品は「hopped blond」。そうしたら、IPAと何が違うのか。ラベルを見ると、「美しいブロンドと苦いIPAの協定」とか書かれていて正直よく分からない。だって、オランダで一番よく見かけるといって過言でない酒屋Gall & Gallのサイトでは「Blond bier」の用語の説明のところにブランドの一種としてIPAが置かれているのだ。

まったく納得がいかないが、ビールは頭でばかり飲むものじゃない。味に行こう。香りは弱く、かすかに果物が感じられる。ホップの苦みはかなりあり、それと関連する海苔のような香りと味もする。

飲んでみた感想としてはIPAだと思った。これを「hopped blond」として売り出す意味はどこにあるのだろう。不味いとは言わないがリピートしたくなるような味でもないので、これ以上謎を追及する気にもならない。

まとめとしては、最初のHandlangerは飲んでみる価値がある。ダブルIPAとは聞きなれないが、普通のIPAより美味しさもダブルであると言ってよいほどの出来だった。「Handlanger」は「ぐる」で、一番最後のビール「bondgenoot」は「盟友」といった意味だが、私は「ぐる」にはなれても「盟友」にはなれなかったようだ。両者の言葉の意味の差異などあってないようなものだ。しかし味は大きく違った。

Kompaan

前回のビール三昧:

夏だからって薄いビールを飲んでいていいのか (アムステルダムの醸造所 Oedlipus)――オランダビール三昧 5

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オランダ在住。オランダの文化や自然、その他ファッションについてなど諸々発信していきます。