ラムとシガリロのマリアージュ、その完璧な相補性

りんりん

こなすべきタスクを消化中に集中が切れてどうしようもなくなったときに、はたまた精神的に追い詰められて心のゆとりがなくなったときに、ちょっと外に出て、軽く夜風にでもあたりながらラムとシガリロを楽しんで気分転換なんていかがだろう。

きっちりと並べられた缶のなかのシガリロから一本を取り出し、お気に入りのグラスにとっておきのラムを注ぎ、未だ見ぬマリアージュに思いを馳せながら火を点ける、そんな孤独な一瞬はまさに至福と呼ぶに相応しい。目の前に転がっている課題もよくよく観察してみれば些末なもののように思えるはず。見つめているのはシガリロの先で赤々と燻る焔でもなければ、グラスの中で褐色に鈍く光り輝くラムでもなく、いくつかの星が瞬くような静寂に包まれた空でもなく、まさに自分自身そのものであることに気が付く。置かれている状況と自身がすべきことは自ずと整理されていくものだ。

今回合わせるラムはディクタドール ベスト オブ 1987 エクストレーモとサマローリ トリニダード ラム 1999、そしてシガリロはダビドフのクラブシガリロだ。

ディクタドールとサマローリは全くもって対照的とも言える水色をしている。ディクタドールは20数年ほど熟成させたウイスキーに勝るとも劣らないアンバーゴールドの輝きを放っているのに対して、サマローリはわずかにオレンジやピンクを帯びたレモンイエローで、比較的発酵を進めたダージリンのファーストフラッシュ、まさにキャッスルトンのムーンライトのような色合い。どちらも浮遊物や濁りはなく透き通っている。どちらもアルコール分は45%だ。

ディクタドールの特徴はなんと言ってもその濃密な黒糖のようなフレーヴァーである、ということは誰も否定しないはずだ。おそらくラムについての知識が全くない人でもこれを飲めばラムが何から作られているのか、確信とともに答えられるはずだ。

沖縄黒糖を彷彿とさせる上質なサトウキビ、出来たてのパンケーキに垂らしたたっぷりのメープルシロップから放たれるカラメル、巣が漬けられた蓮華の蜂蜜、インドネシア産のパワフルなコーヒーのような、溢れんばかりの香りと味わいがもたらすその余韻はどこまでも続くかのようであり、この上なく甘美で官能なインスピレーションを与える。

この圧巻の香りと甘味は、初めて飲む人にラムの概念を覆すほどの衝撃を与えるはずだ。香りから味わい、コクに至るまできわめて自然的な要素で構成されており、人工的な香りを感じさせない。コロンビアの生命力溢れる雄大な大地で培われたパワフルさに、シルクのように繊細でなめらかな表情の移ろいを兼ね備えている。ディクタドール(独裁者)という名はまさにラム界の独裁者たるクオリティとして納得がいくネーミングだ。少し贅沢だが、ハーゲンダッツのような乳脂肪分が多めのアイスクリームなどにかけて味わっても更なる魅力を発見できるだろう。

 

サマローリはフレッシュでグリニッシュ。全体的に角が立った味わいでその抑揚もはっきりしている。年数が若いわけでもないが、非常に若々しさを感じる。

こちらはディクタドールと比べてフラワリーな香りが充実した印象を受けた。朝露に濡れてしっとりとした薔薇や百合、菫の瑞々しい香りにゼラニウムやローズマリーのようなハーバルな香りが口に含まれた瞬間から鮮やかに演出される。そのフレーヴァーが余韻として強く残り、涼やかで華やかなインスピレーションを与える。

この香りとダビドフのクラブシガリロの湿った腐葉土や木を思わせる豊潤な香りがすこぶる相性が良いのである。ディクタドールは円熟したもの同士の組み合わせであるのに対し、こちらはどちらかと言えば対極的な組み合わせであるが、香りの方向性としてディクタドールとはまた違った方向でマッチしているため、このマリアージュが実現されているかのように思える。

ダビドフのクラブシガリロは、湿った腐葉土を彷彿とさせるリッチな香りとウッディな香りが印象的で、雨の降る森林にいるかのようなのフローラルさに包まれる。そして、牧場の干し草のような香りも特徴的だ。

まろやかなコクとなめらかでクリーミーな甘いフレーヴァーに、ペッパーなどのスパイシーさや、若干の獣やマッシュルームの匂いがアクセントとなっていて吸いやすさを感じるはずだ。これらのコク、旨味、香りは火が進むにつれて段々シャープに、キレが良く感じられる。火が根元に達すると喉の手前で感じるような辛味を感じるが、ラムはこれをやさしく包み込み、新たな魅力を発揮する。

吸っている間常に同じ風味が続くのではなく、それらは時系列に沿って豊かな表情の変遷を見せ、吸い終わった頃にはまるで一冊の短編小説を読み終えたかのような心地がするはずだ。

 

具体的にはまず一口ほど舌の上で転がす。そしてシガリロに火を付けてその香りを楽しむ。

口内を支配していた豊潤で厚みのある甘味にシガリロの複雑な香りと苦味が煙として液体にじんわりと溶け出していく。あまりに馥郁たる香りで、その空気を鼻から抜いたときにラムのフルーティーな甘い香り、サマローリはそれに加えてフラワリーな香りと、シガリロの苦味のある香りの驚異的なまでの相性のよさが実際に感じられるだろう。シガリロの火が進むにつれて苦味が増す、それに甘いラムを合わせる、そしてまたシガリロを吸う。この無限に続くかのように錯覚する快楽も20分で終わりがやってくる。しかし、それが良いのである。終わりがあるからこそ、そのモーメントがかけがえのないエクスペリエンスとして残存する。そして、20分という時間は息抜きとしても妥当な時間であろう。吸い終わった頃にはきっと、また机に向かってすべきことをしようという気分になっているはずだ。

まるでボルドーと上質な牛肉を合わせているかのように調和した香り、味わいがそこに存在する。この補完的とも言えるマリアージュを経験すると、どちらも単体ではしっくりこなくなってしまうことすらあるかもしれない。この二つの余韻の組み合わせは強烈で、翌朝起きたときにもラムの豊潤な甘味とシガリロの複雑な香りと苦味が絶妙なバランスで口内に残存しているのが確認できるはずだ。

 

個人的にはディクタドールとダビドフ クラブシガリロの組み合わせがベストのように感じられたが、これをご覧のみなさまにもぜひお手元のラムとシガリロでそのマリアージュを堪能していただきたい。

さて、十分ラムとシガリロを楽しんだことだし、私はこれから机に向かうことにしよう。

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