ブラームスのヴァイオリン協奏曲 ニ長調 Op. 77を聞きながら、長く保管してあったサントリーのウイスキーを開けてみました。

サントリー ピュアモルトウイスキー<ミレニアム>

西暦2000年、ミレニアム・イヤーの到来を祝って、サントリーがお届けする数量限定の特製ウイスキー。
時の海を旅する船をイメージした優雅なボトルが、悠々の時を開きます。モルト原酒には、山崎蒸留所20年貯蔵モルトをキーモルトとして酒齢17年以上の完熟期にある円熟モルトのみを吟味・厳選してヴァッティングしました。グラスに注ぐと、エステリー(甘く華やか)なトップノートがこんこんと湧き立ち、きわめて滑らかな香り、かつ、メロウなコク。熟成原酒特有の気品あるウッディネス(木香)が、余韻の深いアフターテイストを醸し出します。ボトルを揺らしながら、ウイスキーの揺りかご、樽で長時間眠ったピュアモルトをゆっくり味わい、遥かな時間に想いを馳せて下さい。
※ボトルに付属のパンフレットより引用

サントリーが2000年の記念として1999年に発売したウイスキーです。この2000以外にも何種類か在り、15年のミレニアム、XO(ブランデー)、響ミレニアムラベルなど存在するようです。
本来の用途(意図)としては21世紀を迎えてウイスキーを揺らしながら20世紀を思い偲ぶという物だったのですが、20年熟成のウイスキーは更にそこから20年瓶の中で眠り、2020年になって目を覚ましたという事になります。

※誤解があるといけないので書くと、瓶の中で長く放置しても美味しくなることはありません。劣化する可能性もありますが、状態が良いままだと数十年前の当時の味が楽しめるという寸法です。

本当に希少な1970~1980年代の原酒

実はこの2000年前後というのが世界的にもウイスキーの人気が低迷していた時期でサントリーも手を拱いていたそうです。今でこそ大量に仕込みを行っていますが、当時は需要も少ないので蒸留所を維持するための最小限の仕込みしかしていなかったとさえ聞いています。2008年頃に白州蒸留所に何回か訪れましたが、よっぽど好きな人でないと高級なウイスキーは買っていないように見えました。蒸留所見学では細かな作業まで見せて、試飲もさせてくれました。

2010年以降マッサンやハイボールのブームなどで需要が急激に上がってからは原酒の枯渇が起きてしまい、年代モノ(12年、18年)などの生産数量を絞ったり販売終了したり、ノンビンテージの熟成がされていないものを流通させたりしています。つい先日も山崎55年が抽選で300万円で販売されたりと、その希少性や倍率の高さがニュースになりました。
ネットでは元々18,000円程度であった山崎18年が6~7万円になったりと長期熟成の国産ウイスキーの人気は上がる一方です。
しかしこのミレニアムは、その知名度の低さゆえに今でもオークションサイトで2万円ほどで手にいれる事ができます。もちろんシングルカスクでもありませんし、ブレンド(ヴァテッド)であるために比較はできませんが、山崎30年や50年と似たような時代の樽が使われていてもおかしくはありません。
特に低迷期の時代にリリースされるものは高品質である事が多く、不人気故に少しでも良い物(=美味しいモノ)を発売していたのです。

サントリー ウイスキー ミレニアムの味と香りは?

初めは木の香りが強く出てきます。ブランデーや干しぶどうのような甘い香りが漂ってきます。
キャンディといよりは果物が熟成したときの、溢れんばかりの甘い香りです。
少し時間が経つと、塩っぽさ。今度は塩キャラメルや発酵バターのサブレのような菓子の香りになります。

アルコール度数は低く感じてストレートでも飲みやすいです。ややピークは過ぎてるけど、枯れている印象はありません。
香りが刻々と変化するのも特徴です。しかし水で割ってしまうと一気にバランスが崩れてしまう印象はあります…。
あまり割ったり薄めたりせずに、ボトルの温度を少し冷やして飲むのをお勧めします。

このウイスキーはいわゆるシングルモルトではなく、サントリーの所有する山崎蒸留所と白州蒸留所のブレンドです。しかしグレーンウイスキーを足したブレンデッドウイスキーではなく、モルト(大麦)だけを掛け合わせたものですので「ピュアモルト」と銘打っているようです。そして飲んでいる感じ、どちらかというと山崎の比率が強く出ています。
飲んだ後に口に残る塩っぽさ、ミネラルの強い岩塩のような所に白州の特徴が出て、支えているようなイメージです。

空になるとグラスにシェリーの重く甘い香りがたっぷりと残ります。今聞いているブラームスのヴァイオリン協奏曲というよりは、シベリウスのヴァイオリン協奏曲のような繊細な脆いメロディの中に軸が存在するようなニュアンスです。
本場のスコッチウイスキーのシングルモルトと比較すると力強さは足りません。しかし日本のウイスキー独特の繊細さや、静かな表情を見せるところが国産ウイスキーの良い所であるとも言えます。

空になったグラスを20分ほど放置すると、レーズンのような香りだけが一つになって残ります。
まるでオーケストラで全ての楽器と奏者が退場して舞台に残されたピアノのようです。

あの時はまだ10歳であったミレニアム、30歳過ぎてから飲めて良かったです。
(ちなみに編集部にまだありますのでショットで飲みたい方は相談下さい)

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1989年 静岡市出身。主な執筆分野:ライフスタイル、旅行、料理、お酒。