アンケート調査とグラフは見方によって変化する

はっしー

今回はアンケート調査とグラフの見方について実例を挙げて説明してみます。ヤフーニュースで「医師1,032人に聞いた! 免疫力を上げるスーパーフード「納豆」の効果」という記事を見かけたのですが、グラフのどこがおかしいのか考えてみます。

有効回答数が出ていないアンケート調査に信憑性は無い

アンケート調査には調査数と有効回答数が大切です。例えばNHK世論調査は、内閣支持率を以下のように報告しています。

内閣支持39%、不支持38%(NHK世論調査)
NHKは、今月10日から3日間、全国の18歳以上の男女を対象にコンピューターで無作為に発生させた固定電話と携帯電話の番号に電話をかける「RDD」という方法で世論調査を行いました。
調査の対象となったのは、2085人で60%にあたる1253人から回答を得ました。

支持率が39%、不支持率が38%という結果が出ています。「わからない・無回答」という選択肢も用意されています。
ここで注目すべきは2085人の中から60%の1253人から回答を得たという点です。過半数を超えた回答ですので意義はありますが、回答をしなかった人は「無関心・興味がない」という可能性もありますし、もしかしたら「支持しない、答えることさえも面倒くさい」と思っている人も含まれているかもしれません。
学校で行うようなその場で全員が同時に書かされるアンケートであれば提出率が100%ですが、民間の調査では強制力が乏しく、アンケートに答える気のある「能動的」な人を対象としています。そのため実際の結果と異なる場合もあるのです。

興味の無い人を除外したアンケート結果

内閣支持率は回答をしやすいアンケート調査といえます。国民に一律10万円を支援する「特別定額給付金」やマスク配布などは全戸対象としていますし、国内外のコロナ対策は現在多くの国民の興味の対象といえます。しかし次のようなアンケート調査はどうでしょうか?
「パイナップルに関するアンケート調査」。このようなアンケート調査では、一般的にパイナップルに興味のある人の比率が高くなります。回答率が10%未満であったなら、その結果はパイナップルに強い興味関心がある人のグラフになってしまいます。では有料の調査はどうでしょうか?「パイナップルに関するアンケート調査」に協力してくれた場合は1万円のお礼をします。さすがにこのような高額報酬は現実ではありえませんが、無料の場合よりも高い回答率を得ることが予想されます。しかしながら返報性の原理により、パイナップルに対して好意的な回答をする可能性が高くなり、本来のアンケート結果と乖離する恐れがあります。

納豆のアンケート結果の見方

下図はPR TIMESのプレスリリースから引用したグラフですが、右下に総回答数の分母が1,032人と記載されています。モニター提供元のゼネラルリサーチを調べたのですが、「国内最大級国内最大級モニター総数1538万人」と書いてあるだけで、自社調査なのか他社調査なのか、有料なのか無料なのか分かりませんでした。調査期間:2020年4月9日(木)~2020年4月10日(金)、調査対象:医師、調査方法:インターネットとありますので、何らかの方法で医師だけを対象にインターネット調査したようです。この結果では何人にアンケート協力を依頼したのか、何パーセントの回答を得たのか分かりません。
1,032人中1,032人の回答なのか、1万人中の1,032なのか不明なアンケート結果です。

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000001.000055793.html プレスリリースより引用

さてこのグラフ「納豆に期待できる効果とは?」では、最も大切な前提が抜けています。それは「あなたは納豆に医学的(または生理学的)な効果があると思いますか?」です。

この前提が無いとアンケートの意味をなしません。先ほどの内閣支持率をグラフにするとしたら、突然「数ある政策の中で評価できるものはどれですか?(複数回答可)」特別定額給付金50.3%、持続化給付金46.1%、マスク配布28.9%などが表になっているようなものです。その前に「あなたは内閣を支持しますか?」という前提の問いかけが必要です。
30%の人が支持した上で、政策が50%評価されるのであれば、単純計算であれば全体の15%が評価しているということになります。

同じように「納豆効果があるか」という問いが先に必要になります。上記はそこを飛ばした先のグラフといえます。
さらに問題があるとすれば、記事の内容です。

納豆菌が関係している整腸作用や免疫力アップといったところに期待しているようです。まさに納豆は、医師も様々な効果を認める”スーパーフード”ですね。「納豆は体にいいから食べなさい」と言われている理由がわかります。

「(前略)〜といったところに期待しているようです。」という表現では、まるで医師が「Aという薬がBという病気に効果があると期待している」という表現になってしまいます。実際の真意は分かりませんが、もしかしたら「納豆は食べないよりも”たぶん”整腸作用がある」という程度の回答かもしれません。

グラフの逆の見方もある

では、このグラフが実際は限りなく正しかったと仮定します。回答者全員が納豆に効果があるという前提でも、次のような見方もできます。

  • 50.3%は整腸作用があると判断、49.7%は無いと判断
  • 53.9は免疫力アップの効果が無いと判断、46.1%はあると判断
  • 71.1%は血栓の予防は無いと判断、28.9%はあると判断
  • 72.6%は感染症、アレルギー予防は無いと判断、27.4%はあると判断
  • 77%は解毒・抗菌作用が無いと判断、23%はあると判断

グラフの回答の”無い”部分を反対意見だとしたら、このようになります。
なかには「無回答・分からない・有意とはいえない」という意見もあると思いますが、反対から見た場合は納豆に関心のある回答者の77%は解毒・抗菌作用が無いと判断しているとも取れるのです。

一例ですが、納豆と血栓と聞くとパッと思い出すのがワルファリンです。ワルファリンと納豆について独立行政法人医薬品医療機器総合機構に分かりやすい解説があるので引用します。

Q3 ワルファリンを飲んでいますが、納豆、クロレラ、青汁などの摂取を避けるように指導されました。なぜ、食べてはいけないのですか?
A3 ワルファリンは血液を固まりにくくして、血栓ができるのを防ぐ作用があります。
血液が固まるには、ビタミンKが必要なのですが、ワルファリンは、そのビタミンKの働きを妨げることにより、血液を固まりにくくするのです。
ところが、納豆には、ビタミンKや、大腸でビタミンKを産生する納豆菌が多く含まれているため、ワルファリンの血液を固まりにくくする作用を弱めてしまいます。
このため、ワルファリンを飲んでいる方は、納豆の摂取を控える必要があるのです。(後略)

そもそも納豆が血栓予防になるという研究結果が見つからないのですが、それだけでなく血栓予防の薬であるワルファリンと飲み合わせると、薬の効果を阻害してしまうのです。この点からしても、グラフの質問が意図的な誘導があるといえます。

薬機法スレスレの表現

薬事法と呼ばれていた法律は現在では「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」を略して薬機法と呼ばれていますが、その中の「医薬品等適正広告基準」という項目には次のような要項があります。

10 医薬関係者等の推せん
医薬関係者、理容師、美容師、病院、診療所、薬局、その他医薬品等の効能
効果等に関し、世人の認識に相当の影響を与える公務所、学校又は学会を含む
団体が指定し、公認し、推せんし、指導し、又は選用している等の広告を行っ
てはならない。
ただし、公衆衛生の維持増進のため公務所又はこれに準ずるものが指定等を
している事実を広告することが必要な場合等特別の場合はこの限りでない。
厚生労働省「医薬品等適正広告基準」より抜粋

このように、医薬関係者が広告を行ってはならないと明記されています。しかし記事の本文中には、「医師も様々な効果を認める”スーパーフード”」「納豆は体にいいから食べなさい、と言われている理由がわかります。」との表現があるのです。
冒頭の「医師1,032人に聞いた!」からのグラフでは、医師からの直接的な商品の推奨にはなっていませんが、かなり誘導的でスレスレの表記ともいえます。

「でもバナナが腸に良いってレベルの話でしょ?ムキになりすぎなんじゃない?」とお思いの読者もいることでしょう。しかしサプリメントの導入部であったならどうでしょうか。
このアンケート調査を依頼した会社はサプリメントの会社のようです。そうなると広告目的の導入部分として優れたランディングページ(Landing Page)といえます。商品の効果や評価については私には全く分かりませんが、アンケート調査やグラフの見方は消費者にとって大切といえます。

アンケート結果やグラフは意図的に誘導されていることも

私自身は納豆は大好きですし、美味しいと思っています。そして健康にも”たぶん良い”と思っています。
しかし統計のような体面を取りつつ、「多くの医師が納豆に医学的な効果があると推奨している」という表現には甚だ疑問を持ちます。上記のグラフは一例ですが、アンケートやグラフを見たときに、その設問や前提条件が正しいかということを考えることは大切といえます。


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