間近で見る白鳥――オランダの鳥小ネタ

まだらの牛

日本では白鳥は冬に北海道や東北を中心にして越冬を目的に飛来するそうですが、鳥類ファンというわけでもないので、正直そのことは最近まで知りませんでした。日本にいたころはとにかくあまり身近な動物ではなかったので、美しいイメージしか抱いていなかったのですが、オランダに来て、割と身近に見かけるようになり、考えを改めました。まず、白いだけならガチョウだって白くてきれいではないか。

でもやっぱりガチョウじゃどことなく間抜けに見えますかね。

ついでにガチョウっちゃガチョウのエジプトガン

中世の白鳥の騎士伝説、そしてそれに材を取ったリヒャルト・ワーグナーのオペラ『ローエングリン』、チャイコフスキー作曲の『白鳥の湖』、2010年のナタリー・ポートマン主演のアメリカ映画『ブラック・スワン』……白鳥が象徴的な意味を持たされている芸術作品は数多くあります。確かに、白鳥を見てみると、美しいとは思います。しかしどうしてそう思うのか。白鳥についてほとんど何も知らずにいた筆者ですが、はじめて実際に見かけた時、あ、あれが白鳥だとはっきり分かりました。そうした視認性のよさがまず人間の頭には重要なようです。はっきりと他と区別できるものを何度か見ていると何となく愛着を覚えてきます。そして芸術の題材となっていることから、特別な気がして、注意深く観察するようになり、それでさらにその存在が特別なものになっていく。

そして、白鳥の場合は人間との関わり方が絶妙な位置にあると言えるでしょう。オランダで白鳥をよく見かけるといっても、街中で見るわけではありません。市街地の外のポルダー(牧場などがある湿地)や、細い川の流れ、公園の湖など、人間の住む場所から微妙に離れたところで見かけます。人間に近付き過ぎず離れ過ぎないという立ち位置が、見かけた時のちょっとした希少性をもたらし、人間に尊重されるようになったのでしょう。

人はあまり見かけない動物を見ると、心が動くものです。オランダで一番よく見かける鳥類はカモメで、これはもううんざりするほど街中で見かけ、カフェのテーブルの上のサンドウィッチを引っさらい、時には人の頭をついでに攻撃したりして、危険だという印象があります。ゴミ箱の周りによくカモメが群がっているのを見かけます。日本ではこうした「害獣」の代表はカラスですが、日本でよく見かけるような大型のカラスはこちらではあまり見かけず、ニシコクマルガラスという小さな種類をよく見ます。体が鳩くらいに小さいので可愛らしく見えます。

ゴミ箱に群がるカモメとカラス。

カモメの幼鳥。柵の向こうに向かってしきりに鳴いていた。

上の写真のように幼鳥であればカモメもいじらしく見えます。しかし成鳥の姿は、手にサンドウィッチでも持っている場合、警戒したほうがよいです。実際に手に持っていたサンドウィッチを盗まれたといった話を聞いたことがあります。

話を白鳥に戻すと、白鳥を間近で見ると、遠くからそっと見守っていた時のイメージが消え去るであろうということをお伝えしたいと思います。住んでいる町の北にある公園に小さな湖があり、そこに白鳥の巣があるのですが、ありていにいえば非常に汚いのです。地面には大きな糞の間に白い羽が点々と落ち、まるで汚れた雪のよう。水から上がった白鳥どもは体を震わせ水を切り、のっしのっしとその巣の中を歩き回り、長い首を回して自分の肩や胴体の毛づくろいをし、汚い地面をなんの目的か突っつき、風邪でもひいているかのように、鼻をすするような大きな音を出します。全然ロマンチックじゃない。間近で見ると、臭いもひどく、無気味な音を出し、長い首を持って人の足を突っつくような威嚇攻撃を見せ、白鳥とは結局畜生以外のなにものでもないといったら動物愛護の精神を持った方々には怒られてしまうでしょうか。

論より証拠。その時の白鳥たちの様子を撮影したビデオを上げましたので、ご覧あれ。

このビデオではそこまではっきりと音が拾えてないかもしれませんが、一番衝撃だったのはすでに言及した鼻詰まりのような音。聞いていると、気難しいおじさんか誰かに怒られているような気持になります。

それでも白鳥が遠くから見ると、人間の美意識をくすぐる美しさを発しているというのは否定できないかもしれません。冒頭に掲げた写真のように、二羽が顔を合わせ、首でハート型を作っている様子などその一つでしょう。しかし動物である限り(人間も含めて)、完全に美しいというわけにはどうやらいかないようです。

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