先日の「アランモルト10年〜旧ラベルと新ボトルを比較」に引き続き、世界で9000本限定のアラン21年(旧ボトル)をテイスティングしてみましたので書き留めてみます。

アランモルト 21年(オフィシャルボトル)

ウイスキー界隈では、蒸溜所が直接リリースするボトルを便宜上「オフィシャルボトル」と呼んでいますが、厳密には間違いのようで、正しくはディスティラリーボトルと呼ぶそうです。まあ、和製英語に正しさを求めるのは難しいところですが、これはそのオフィシャルボトルの21年物になります。
アランモルトは、1995年にスコットランドのアラン島に設立されて蒸留所ですが、2018年の冬にファーストリリースされました。つまり単純計算しても1997年以前の原酒が配合されていることになり、開業年である1995年~1997年のブレンドといえそうです。

先日、アランモルトの10年比較をして違いに驚いたのですが、熟成というのは想像が難しいものです。その蒸留所の特性によってウイスキーの風味は異なります。例えば同じ大麦の原材料と、仕込み用のウイスキー酵母菌(年々品種改良されている)を使って蒸留と貯蔵を行ったとしても、蒸留所によって水質や気候、技法、ポットスチルの種類、加熱方法(直接加熱、間接加熱)、樽の種類、貯蔵方法などが異なり、様々な条件によってウイスキーの風合いが変化します。
まわりくどい表現してしまいましたが、単純にいうとアランの10年を飲んでも21年の味が予想できないということです。

10年物と18年物を飲んでいれば21年の傾向は想像しやすいのですが、10年からは全く想像が付きません。ウイスキーの熟成年数というのは人間と少し似ているところがあって、10歳の親戚が21歳になった想像は難しいですが、10歳、18歳と会った後であれば何となく想像がつくものです。

そんな訳で、アランモルト21年は良くも悪くも衝撃を受けました。

アランモルト21年 テイスティングの感想

抜栓日 2020年5月12日5/12  17:50〜18:00 体調7~8割

開栓直後の香り:インク、シトラス(若い大きな国産のレモン)、ハチミツ、バターミルク。
味:若々しい、アルコール尖っている、涙の粘土高い、シェリーが弱くブナハーブンっぽい。
木の香り、焦がしたというよりは、焦げる寸前の砂糖、樽材の香りが強く出ている。

抜栓10分すると甘い香り、どんどん甘みが出てくる。
アルコールが揮発してるからか、何の変化か分からないけどドライから甘みに変化していく。
インク系の香りは少し残る。万年筆のモンブランのロイヤルブルーが乾く瞬間みたいな雰囲気。
下流の河川で焚き火したような、生乾きの木を燃すような木材の香り。

全体的に素直で、香りの変化があるのに複雑性が無い。
例えばブレンデットウイスキーであるバランタイン30年の対極にあるような存在に思えます。バランタイン30年は複雑でエレガントで艶やかさで甘く、グラスの中で複雑で繊細な香りが刻々と変化していきます。
しかし、このアラン21年は素直でシンプルな香りですが、ゆっくりと香りの変化が見られます。ただし、正直に言うと深みがもう少し欲しいところです。コクやボディの厚みはありますが、どっしりとした味わいが少なく、長期熟成にも関わらずライトなボディに仕上がっていると言えそうです。木の香りが強いのが気になりました。

この後、反射的に冷蔵庫の中からキャビアを出して合わせてみたのですが、別のウイスキーと思えるほどにバランスが良くなりました。アイランズモルトにしては塩気が全く無いので、おつまみの方で補完すると劇的に改善されます。
市販のキャビアには、ごく僅かに生臭さががあり、それがアランの木の香りで消されて(相殺されて?)良い部分だけが残ります。すると木の香りの強さも気にならなくなり、アランからは急にシェリーの香りが出てくるのです。
バタフライピーやブルーマロウに、レモンを1滴注ぐと色が変化するマジックがありますが、同じように少し生臭いおつまみを合わせるとバランスが取れるという不思議体験でした。

またグラスによる変化の違いも体験でき、リーデルのシングルモルトグラスだと香りの変化が早く、すぐにシトラスが飛びます。グラスの面積が大きく空気に触れやすいためか甘くなりやすいようです。
一方で、標準的なテイスティンググラスだとレモンが揮発しないで長く残ります。そして甘くなりにくく、変化がゆるやかです。飲み頃ではない開けたてのウイスキーであれば大きなブルゴーニュグラスでも良いかもしれません。
終わりかけのウイスキーであれば、こぶりのグラスの方が香りの揮発が穏やかといえそうです。

追記:2020年5月16日 17:57~

体調はやや良い。6~7割の嗅覚と体調です。(最近、いつも体調がベストじゃない……)

アルコール感が弱くなっている、しっとりしてきた。
するする飲める、昔のグレンリベット感がある。

焼いた樽の感じが強い。なめし革(ヌメ革)、オイル、ハチミツ、バター、砂糖、余韻は長くパワフル。
昔のタリスカーのような黒胡椒のパンチに、隠れているシェリーのような甘い香り。加水で柔らかくなっていく。

木樽の荒っぽさが出ているのに加水してもゴム系は出てこないのは優秀といえます。
ただ、まだまだ若いというか、このままボトルの中で10~15年寝かせた方が良いのではとも。下手したら2030~2040年頃に出土したアラン21年が柔らかくてバランスが良くなったり。もしも今すぐ開けてサクサクと飲みたいなら、デキャンタージュして飲んだ方が楽しめると思います。

30ml飲んだのですが、やはり開けるのが早すぎたとしか言いようがないです。実は今年の1月頃に国分時代のグレンモーレンジ18年を抜栓したのですが、香りが硬すぎて4ヶ月経過した今でも2~3ショットしか減っていません。同じく1990年代の国分取り扱いのグレンモーレンジ10年は抜栓して2~3日で香りが開き「これは美味しい!」となったのですが、上位シリーズである18年は開きが劇的に遅いのです。瓶に詰めてから30年経っていて、コルクの状態も保存状態も素晴らしく、それでいて抜栓直後に固いというケースも存在するのだと勉強になりました。

アランモルト21年の感想まとめ

アラン21年は期待して買ったのですが、無理して手に入れる必要は無いと思います。ただ、コレクターズアイテムというか、創業年から数年の貴重なビンテージが混ざっているという意味では体験するのはお勧めできます。なにしろ1995~1997頃の貴重な原酒が入っているのですから。

こう考えるのはどうでしょうか。アラン蒸留所は様々な限定ウイスキーや、10年、14年、17年、18年など多数のヴィンテージを販売していました。それだけでなくBB&Rやコニサーズ・チョイス、クーパーズチョイス、セレブレーション・オブ・ザ・カスク(カーンモア)、ハイスピリッツなど様々なボトラーズ業者が瓶詰めして販売しています。
そうなると、創業年の1995~1997年の中でも良質なカスクは既に枯渇気味で、更に上質な原酒は今後のリリースのために保管しておきたいわけです。当時はポットスチルが2基で、2016年後半に新しく2基のポットスチルが増設されたそうです。
そう多くない生産量の中で、初期の出資者や投資者に対しての現物での割当があったそうですので、アランモルト21年がいかに正しいオフィシャルリリースであっても、意外にも苦しい中での原酒選びであったのではないでしょうか。
今年1月にリニューアルした新ボトルの中に、NAS(ノンエイジステートメント)が含まれている理由であるとも捉えられます。NASの場合は若い原酒もブレンドできるので表現の幅が広がります。

追記:2020年8月16日 17:47~

奇遇にも3ヶ月ぶりに記事を更新しようと思いテイスティングしてみました。
アラン18年も入手したので比較してみます。

香り:木樽とハチミツ、少し燻製
味:滑らかでアルコールの棘が少ない、余韻が長く残香がスモーキー、焚き火。

始めのうちのインク系の香りが完全に揮発して、どっしりとした重い香りが主体になっています。先日「無理して手に入れる必要は無い」と書きましたが撤回します。できれば2本ほど買っておき、10年ほど経ったら抜栓するのがお勧めです。力強さがあるブレンドで抜栓して3ヶ月でもまだまだ早い。もの自体はとても良いので、一本開けてゆっくり飲むのも良いかもしれません。
18年は若々しさがあり、ハイボールやロックで何杯もおかわりできるような味わいです。わずか3年の違いですが全くの別物です。

 

 

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1989年 静岡市出身。主な執筆分野:ライフスタイル、旅行、料理、お酒。