前に一度ファン・クレーフ(Van Kleef)というオランダのデン・ハーグにあるイェネーヴァ(jenever)の蒸留所についてご紹介しました。その時はリキュールの紹介だったので、今回は肝心のイェネーヴァについての記事を書きたいと思います。

ファン・クレーフは1842年からあるイェネーヴァの蒸留所で現在ではハーグで唯一のイェネーヴァを作っている会社です。ハーグというのはオランダ政府があるところで、実質オランダの首都であるともいえます。アムステルダムと並んで、オランダを代表する都市です。国際司法裁判所の本部があることでも知られています。

行政の中心地としてお堅いイメージがあるハーグですが、訪れて見れば、決してオランダの他の都市と変るところのない、自由な雰囲気の国際都市であることに気付きます。町を歩けば見かける人種は白人、黒人、中東系、アジア系と多様で、その点アムステルダムと似ています。

近代的で国際的な都市ですが、オランダの特産品であるイェネーヴァは健在です。街角のバーの窓際にこのようにファン・クレーフのボトルが並んでいる光景を見ると、「ハーグっ子」に愛されているブランドなのだなと感じることが出来ます。

前回ご紹介した通り、イギリスで発達したジンというものの直接の由来はオランダのイェネーヴァです。私は特にジンに興味があるというわけではなかったので、イェネーヴァの存在はオランダに来るまで知りませんでした。知り合いの日本人の家で夕食に呼ばれたときに、食後に「そういえばオランダのジンというものがありますよ」といって、イェネーヴァを出せれ、そこで初めてこのお酒の存在を知りました。蒸留酒に関してはウィスキー派で、他はあまり経験がなかったのですが、結構いける味だと思ったその時の記憶があります。

ジンについてはまだ大学生のころ、安く酔っぱらえる酒として産業革命期のロンドンの貧民街で普及しており、社会悪扱いだったという歴史を知り、若気の至りでそういったアル中文化に憧れを抱き、さっそく買って飲んでみたのですが、嘔吐感をもたらすほど、非常にまずかった思い出があります。ジンの独特の香りの元であるジュニパーベリーの香りが受け付けなかったのです。

それ以来、ジンは避けていたのですが、オランダに来て、知り合いの無類のジン・トニック好きの勧めで、バーで飲んでみたところ、前のような生理的に受け付けない感じはなく、ふつうに飲めました。ストレートで飲んでも別に嘔吐感も覚えず、酒の好みというのは年齢とともに変化するものなのか。不思議です。

そんなわけでジンのファンというほどではない筆者ですが、逆にそうであるからこそ、冷静にまずいものはまずいと言えると思い、このレビューを書きます。

Van Kleef Gin

まずはジン。さっぱりとした味で、ビーフイーターなどの他の有名な銘柄と特に差異は感じない。ストレートで飲んでもおいしい。ラベルには原材料はっきりとした記載がなく、穀類、ジュニパーベリー、柑橘類のトーンがあるとしか書かれていませんが、公式サイトにはジュニパーベリー、コリアンダーとアンジェリカの種をふんだんに使っていると記載があります。特にジンの材料として珍しいものは使っていないようです。イギリスのジン、ビーフイーターの公式サイトにはジンに使うボタニカルについての一覧があるので、興味があればどうぞ。

Jonge Jenever

これはヨンゲ・イェネーヴァ(若いイェネーヴァ)です。「若い」というのは熟成年数を表すのではなく、これが伝統的なイェネーヴァ(アウデ・イェネーヴァ)に対して新しく登場した種類のイェネーヴァということを示します。第二次世界大戦の間モルトの輸入が減り、糖蜜などからアルコールを作るようになり、連続式蒸留器を使った、癖の少ない、無色透明のイェネーヴァが作られ、市場で好まれるようになりました。

イェネーヴァはmoutwijn (モルトワイン:熟成されていないウィスキーのようなもの)というものをベースに、ウオッカのような癖のないアルコール(ニュートラルなアルコール)にボタニカルが入れられ、再度蒸留された液体(ジンですね)が混ぜられて作られるのですが、このモルトワインの比率がヨンゲでは最大15パーセント、アウデでは最低15パーセントという違いもあります。この違いは味に如実に現れ、アウデばモルトワインの存在感があり、ウィスキーに似た風味がありますが、ヨンゲにはそういった味わい深さというものはありません。

飲んでみた感想ですが、お酢を飲んでみたような感じでした。癖がないという触れ込みなのですが、ファン・クレーフの特徴なのか、それともヨンゲ全般がそうなのか、比べていないので言えないのですが、確かに深い味わいはないものの、強烈な酢の風味が口腔を支配します。個人的には間違ってもストレートで飲みたくなるお酒ではありません。お土産で高麗人参飴をもらった時のような気持ちです。

身も蓋もない言い方になりますが、正直、まずいです。

しかし、二日目に飲んでみた時は舌が慣れたのか、それほど「酢」らしさは感じず。小さなリキュールグラスで飲んでいたせいだと思いあたり、上の写真のグラスに換えてみたら、やはり「酢」の匂いが。グラスは大事ですね。逆に言えば、ティスティンググラスでなければ、別に気にならない程度の癖であったともいえます。

Oude Jenever

アウデ・イェネーヴァはすでに少し説明した通り、伝統的なイェネーヴァです。モルトワインというウィスキーに似た液体にジュニパーベリーなどのボタニカル入りの液体が混ぜられているため、ジンとウィスキーの中間のような味がします。初めて飲んだ時は、ジンの先祖なんですよ、と聞いていたので、ジンが苦手だった筆者は警戒したのですが、意外にもウィスキーに近い味で悪くないと思った記憶があります。

今回じっくり飲んでみると、まずジュニパーベリーの香りが鼻を打ち、味はウィスキーにやはり似ています。口に含んでみた感触は柔らかく、40%あるアルコールの刺激もそれほど感じません。舌で転がすとはっきりとした甘みが感じられます。これはウィスキーファンの人にもおすすめできます。

ちなみに色がついていますが、おそらくこれはカラメル着色でしょう。別に熟成年数の記載もないので、熟成していないと思われます。アウデの中には熟成されているものもあるので、機会があれば試してみたいと思います。

では、次はジンを使ったお酒の定番、ジントニックをこの三種で試してみましょう。前半とは順番を変えてアウデから行きます。

Oude Jenver and Tonic

メモを見ると一行目:「香りはライムのせいかよく分からない」……アホなのか、まだらの牛は。ええ、そう思ってくださって結構です。ジントニックなのでライムを飾らんといけんよな、と思って飾ったのが間違いでした。

はい、正直、よく分かりません。コクや苦みがあって美味しいです。しかしそれはトニックウォーターのおかげなのじゃなかろうか……。

Jonge Jenever and Tonic

こりずにライムをまた飾っている……。

これは美味しかったです。酢っぽさは消え失せ、癖がない美味しさ。その代わりにアウデの時のようなコクはなくなっています。やはりトニックウォーターがおいしい。

Fentimansのトニックウォーター。近所のどこにでもあるチェーンのスーパーで150mlの缶が六個入り、五ユーロしないくらいでした。酒飲みに優しい国です。

Gin and Tonic

香りがよい。ジントニックはジンで作るに限ると思いました。イェネーヴァとトニックも合うし、美味しいのですが、あの独特の香りに鼻をくすぐられる楽しみがない。

まとめ

ジントニックは香りが命。イェネーヴァよりジンで作ったほうがおいしい。イェネーヴァ(アウデ限定)は中途半端なウィスキーとして楽しもう。オランダに来たら、友達へのお土産として話の種に買って帰るのもいいでしょう。ウィスキー好きの友達なら訳知り顔でなにかコメントをしてくれるでしょう。ヨンゲはよほどオランダについての蘊蓄に飢えているのでなければおすすめしません。市場のどういった需要に応えているのかよく分からない酒です。

おまけ

これがジュニパーベリーでございます。ラベルにJeneverと書かれているのにお気づきになったでしょうか。そうです。イェネーヴァというお酒の名前はジュニパーという意味なのです。

オランダ、デン・ハーグの蒸留所がつくるリキュールで作るカクテル

Van Kleef

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オランダ在住。オランダの文化や自然、その他ファッションについてなど諸々発信していきます。