さすがのリナシメント読者もインドア記事に飽きてきた頃とお思いでしょうが、まだまだ続きます。セルフ籠城は2ヶ月目に突入し、昨日は久しぶりにお天道様の元を散歩したのですが、極度の体力低下によって緩やかな坂を上っただけで息切れ動悸を起こしました。こうなると酒よりもルームランナー(ウォーキングマシン)でも買って毎日レポートした方が良いのではと思いますが、これもまた面白味に欠けるのが難しいところです。

さて本日はリーデルのグラスレビュー。私はカップ&ソーサーマニアの傍ら、片手間でグラスマニアも兼業しております。やはり洋食器はニッチな部類ですので、ラーメン屋が炒飯を売るように又カップ&ソーサーマニアも少しはグラスを知っていないと恥ずかしいのです。

リーデル・ヴィノムが安定の理由

初めてリーデルを買ったのは10年以上前ですが、その時も「ヴィノムシリーズ」でした。
ヴィノムはリーデルでも定番シリーズで更に下には低価格の「オヴァチュア」というシリーズが用意されています。オヴァチュアは1脚千円台から買えるというコストに優れますが、マシンメイド由来による”バリ”や僅かな歪みなどがあり、ホームパーティーなどで12脚、24脚と揃えるのは良いですが、じっくりと一人ないし二人で酒を飲むのには少し物足りません。

その点でヴィノムは、バリや歪みが少なく均一な仕上がりでありつつ、3千円代から買えるという絶妙なバランスの良さがリーデルの人気を支えていると言っても過言ではありません。一方で上位ラインは「ソムリエシリーズ」というハンドメイドがあり、これは高級フランス料理店や料亭など特別なシチュエーションでも用いられる一品です。
ソムリエシリーズは確かに美しいのですが、1脚1万円以上だとロブマイヤーという強敵が待ち受けていますし、背後にはツヴィーゼル、天井には木村硝子が待ち受けていて、難しい戦いとなるのです。
そういった事情でカジュアルに買うにはリーデルのヴィノムシリーズがお勧めという訳です。

<ヴィノム> シングル・モルト・ウイスキーってどう?

リーデルを買ったことのある人はご存知だと思いますが、この箱が「保管用箱」になるので処分しないように気をつけましょう。以前、千葉にある「リーデル/ナハトマン 三井アウトレットパーク木更津店」を訪れた時に教わったのですが、それまでは箱は開封して即日捨てていたのです……。

特に変形のガラスは持ち運びが難しく、引っ越しや保管するときに専用箱が無いと苦労するのです。専用箱は安定性と割れにくさが研究されているので、知人の家に持っていったり、春先のピクニックにワイングラスを持っていくときにも元箱があると便利なのです。

気になる使い勝手は?

高さ: 115 mm 素材: クリスタル デザイン年: 1991 年
ブドウ品種:シングル・モルト・ウィスキー 製法: マシンメイド
容量: 200 ml 生産国: ドイツ 販売数量: 2個

持ってみると、アレ?カリガラスだっけ?と思えるほどに軽量です。酸化鉛の含有率が低いのか、反射する色合いも虹色というよりも白く曇った感じの反射です。その代わりに、中の液体の色が判断しやすいと言えます。
初めてこのチューリップのような形状のグラスを使ったのですが、慣れるまでは持ちにくいです。ステムが極端に短いので、ボウル部分を一度つかみあげて、プレートを持つ流れになります。

指紋付くやんけ!

ノージングが…云々以前に、これ指紋付きます。しかしステム(ワイングラスの長い棒の持ち手部分)が長いと不格好ですのでバランスとしては、これが最良なのでしょうが、何度も持つと皮脂が目立ちます。手のひらを下に向けて、人差し指、中指で持てば指紋はつきにくいのですが、かなり不思議な持ち方になりますし落下の危険もあります。やはりステムって偉大なんだなぁと実感しました。

シングルモルト専用グラスの性能はいかに

メーカーの宣伝にはこのように書かれています。
「単一の蒸留所で造られた原酒のみを使用して造られるウィスキーにすぼまりはほとんど無く、反り返った飲み口がアルコールの刺激を和らげるため、香り・味わいともに蒸留所ごとに異なる個性を感じやすくなります。」

実際にウイスキーを入れて飲んでみると、確かに香りを聞くのに向いているのが分かります。聞香(もんこう)と表現すると香道の本職の方に失礼になってしまいますが、このグラスは香りの鑑別向きと言えます。
単純にウイスキーから揮発する香りを判断するならばブルゴーニュグラスを用いれば良いのですが、竹を割ったような形状が適度な香りと味を判断するのに向いているようです。過去にブルゴーニュグラスで、今は亡きマッカランのカスクストレングスを常飲していたのですが、香りが強すぎてむせてしまいます。

シェリーカスクではない、バーボンカスクの長熟で香りが繊細でキャッチしにくい銘柄であればブルゴーニュグラスのようなボウルの膨らんだタイプがお勧めですが、香りの強い銘柄はボウルが小さい方が良いのです。
このリーデルのシングルモルト専用グラス『ヴィノム 』も同じように、香りが繊細な銘柄に向いています。具体的にはロングモーンやモートラック、ストラスアイラなどスペイサイド地域の繊細な銘柄に向いているように思えます。またはアイリッシュウイスキーにも良いはずです。

オーセンティックバーで、「これは良いですよ」と出されたシングルモルトを「あれ?余り香り分からないな?」と思う時は無いでしょうか。そんな時はショットグラスではなく、こういったロングノーズのグラスがお勧めです。

ストイックな鑑別にも向いています。先日紹介したアランモルト10年の新旧比較、抜栓して1ヶ月以上経ったのですが、このグラスで比較すると極端に香りの傾向の違いが明確になります。その結果についてはアランの記事で紹介したいと思いますが、細かい香りを増強する役割があるのです。

ただし万能という訳ではありません。このグラスに英国CREED(クリード)の香水、ROYAL MAYFAIR(ロイヤルメイフェア)を入れてみましたがトップノートばかり濃く出てしまい、ミドルとラストを感じ取る事が難しくなります。リナシメント読者の方もご自身が使っている香水を実際にスプレーすれば、それがどういう意味か理解できるはずです。ちなみに試した後はアルコールと中性洗剤で洗い流せば簡単にグラスからニオイは消えます。

ウイスキーの香気成分については詳しくないので分かりませんが、後から感じる重厚な部分が感じ取れない、またトップノートに相当する揮発性が高い部分が強調されるということです。きっとパヒューミーなボウモアなど入れたら卒倒することでしょう。

また友達と飲むにも向いていません。話しながらウイスキーを飲むのであればサンルイのデキャンタに移して、ショットグラスで飲むほうが良いです。ヴィクトリア時代のリキュールグラス、ペニー・リック・グラス(アイスクリーム用)のように、一口サイズで何度も注いだ方が趣があります。

私はウェブマガジン編集者という立場上、ああでもないこうでもないと批評を繰り返し毎日好き勝手に言っていますが、仮にウイスキーが好きな男が居たとして、その男の家で家飲みするときにボトルが1本も出ておらず食後にリキュールセットを持ち出し「飲むか」と銘柄を伏せたまま飲めたなら、それほど痺れる事はないと言えます。
大抵、わたしも含め、マニアックな人たちは好きな物を羅列してああだこうだ薀蓄を語り、来客者を困惑して沼に引きずり落とそうとするのです。自分で書いていて、そういうサックリとした大人になりたいなぁと思うのでした。

雑な締めになってしまいましたが、初心者でも中級者〜でも楽しめる素晴らしいグラスですよ!(はっしー)

追伸:リナシメント執筆者、編集者を募集しております。我こそはという方ご応募下さい。面白記事お待ちしております。

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1989年 静岡市出身。主な執筆分野:ライフスタイル、旅行、料理、お酒。