家庭にワインセラーが要らない理由とは

はっしー

夏でも涼いマンションは憧れ。入居希望者の列が

まだ静岡に住んでいる頃、とあるワインバーに通い詰めていました。
そこには多彩なワイン好きが集まり、初心者から上級者まで毎晩のようにワイワイ仲良くグラスを交わしていたのです。

すっかり私もワインの魅力に取り憑かれてしまい、ブルゴーニュの村名ワインからイタリアワイン、ニュージーランドのような新大陸まで様々な産地で盛り上がりました。中でも山梨県のワインは生産者が店に訪れたり、常連客が集まって中央葡萄酒のツアーに行き、畑の剪定でギヨーとコルドンの違いや土壌を勉強したりと刺激的な日々でした。あの頃は今では希少なキュヴェ三澤をグラス売りしていたのです。

ワインセラー選びは難しい?

いよいよ自室にワインセラーが欲しくなって、毎晩「ここにワインセラーがあったらどんなに幸せだろう」と妄想するようになっていました。そこで、店の常連でありイタリアワインに造詣の深い”K村”さんに相談したところ「いやいや、はっしー君、32本じゃ絶対足りないよ!」と言うのです。

メーカーはできればユーロカーヴ、次点でフォルスターが良いけど値段も高いので、さくら製作所で十分とのこと。
聞くところによると、創設者がフォルスタージャパンでワインセラーの製造に関わっていたらしく、価格が安いのにクオリティは高いというのです。そこで写真にある65本入の、さくら製作所のワインセラーを購入したのです。

どこに正解があるのか

これで一安心、素晴らしいワインライフが待っているに違いないと思ったのも束の間。
電源スイッチを入れて、部屋にあったワインを収納し始めると恐怖の事実が発覚したのです。

「え?初日の時点で半分埋まったんだけど。」

なんと65本収納できるセラーが半分埋まってしまったのです。今まで気に入ったワインは完売してしまう前に6本は買うようにしていました。特に気に入った赤ワインは12本のケースで購入したこともあります。そこで気が付きました。
6本で買った場合は10セット入れたらセラーは終了ということです…。そんな小さなマンションに、各国の素晴らしい赤ワイン、白ワイン、発泡ワインを同居させなければいけないのです。

ワインは蒸留酒と異なり、1回の食事で1~2本飲んでしまいます。そうなると気に入った銘柄のヴィンテージを見つけても、6本では6日分にしかなりません。きっと数年後になって「あの時のアレ美味しかったなぁ〜。今飲んだらどんなだろう?」となるに決まっているので、美味しいワインは12本は欲しいのです。
そうなると、ワインセラーは120本いやはや240本、できれば300本以上の収納力が欲しいのです。しばしシャンパーニュは10年程度でピークを迎えるとワイン入門書で紹介されていますが全然そんな事はなく、つい昨日2010年ヴィンテージのシャンパーニュのブラン・ド・ブランを抜栓して「こりゃ、まだまだ固いな!」と思いました。瓶詰めから15~20年でやっとピークを迎えるシャンパーニュもあるのです。

隠れたワイン通でもあるR氏は、とある同一年数のシャンパーニュを数十本以上ストックしていますが、本当に美味しいワインに出会うと、その近辺の関連した生産者や別のヴィンテージも集めたくなるのが自然なのです。これが家庭にワインセラーが不要な理由です。
本当にワインが好きであれば数百本以上保存できるスペースが必要です。知り合いのワインマニアの中には、気に入ったボトルをケース単位で購入して”受け取らない”なんて人も居るくらいです。ワイン専用の倉庫や業者に預けたままにして手元には1~2本しか置かないという方法を取っているのです。

マニアのマニアたる所以

しがないカップ&ソーサーマニアをしていて紅茶にも少し詳しいのですが、茶界隈の闇は深く”積み茶”という用語があります。これは常飲している以外の保管品という意味で、いつでも好きなタイミングで開けれるように手元に何キロも積んでいるわけです。そして茶葉の保管のために室温と湿度を一定に保つというのです。ワインセラーと同じ概念が存在します。

衝撃的なのが極一部の熱狂的な茶マニアは、茶葉の保管のために一部屋使い、一年中同じ温度でエアコンを付けっぱなしにするというのです。彼らの事だから湿度管理も完璧なのだと思います。茶葉によって水分の含有量が異なるので、真空パックなど活用しているのかもしれませんが、強い信念を感じ取れます。

こうなると本当にワインが好きであれば、僅かな振動が存在して劣化につながるワインセラーよりも通年で一部屋使ってエアコン保管+加湿をした方が効率が良いと言えそうです。日本にも本格的な地下カーヴからセラールーム、ウォークインワインセラーを施工するマニアもいるそうです。施工コストを掛けれない人の中には市販のエアコン流用して工夫するという話も聞いたことがあります。

”まずは”アルゴンヌで乾杯しようというのを引き止めて、格下のオマージュで乾杯した時の図

「家にワインセラーあるよ」と人を呼んではいけない

過去に部屋にR氏が訪れたことがあります。その時まだ20代前半の子供であった私は「家にワインセラーあるよ」と言ってしまったのです。R氏は65本という少なさにも驚いたようですが、数秒後には”今日どれを空けるか”選定をはじめました。
当たり前の結果ですが、ワインセラーの中で最も秘蔵の一本が抜栓されたことは言うまでもありません。

つまり、家にワインセラーがあるよと言うのは、好きな物空けていいよ!という意味なのです。
「うちに遊園地あるよ」と言ったら、その人の家に行って、どの遊具で遊んでも良いということになります。
見るだけで遊ばないでね!なんてのはチャンチャラおかしいわけです。

それに遊園地と自称するためには、ワインであれば300~500本相当ほどは欲しい訳です。静岡のある病院に勤務しているワイン愛好家の知り合いは壁一面にワインセラーを設置していて、それは絶景でした。花火大会の日にお呼ばれしたのですが、〆にオーパスワンが出てきたほどです。これはもう大人の遊園地と呼ぶに相応しい状況でした。

しかし、もしワインセラーが12本や24本であったなら、小さな公園にタイヤが半分埋め込んであるようなものです。”小さな公園”であるならば人を呼ばない方が賢明であるということです。
そして、その一件から私は「家にワインセラーあるよ」と決して人に言うことが無くなったのです。


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