皆様いかがお過ごしでしょうか、ライター高橋です。最近肌寒い日が続いており、いつの間にか冬の訪れを少しずつ感じ始めている頃です。さて、本日は楽器を楽しむ上で便利なiPadのメリットデメリットやおすすめアプリのレビューを行いたいと思います。

ピアニストをはじめ演奏従事者はもちろんご趣味で楽器演奏を楽しまれている方々にとっても楽譜は何より欠かせないアイテムの一つでしょう。最近では楽器店や楽譜専門店はもちろん、大型の書店などにも様々な楽譜が立ち並んでおり、私もよく足を運んでは新しい楽曲との出会いを楽しみにしています。

本を買うなら紙?それとも電子書籍?

私は基本的に本は手触りや読みやすさ重視して紙の物を選ぶことが多いのですが、限りあるスペースの中保管場所に困ることもあり、漫画などイラストの割合が比較的高い物は電子書籍で購入することが増えてきました。私のように紙の本と電子書籍を使い分ける人、あるいは全て電子書籍として購入するという方が年々増えているかと思いますが、デジタル化が進んだ世の中でも依然として楽譜は主に紙媒体として取り扱われることがまだまだ一般的です。

もちろん楽譜には紙媒体として扱われていることによる大きなメリットが存在します。例えば私もそうですが、先生のレッスンを受けた時や自分で練習する際に楽譜に注意点や指示を書き込む、あるいは削除するといったことが練習過程において頻発します。そんな時、紙の楽譜であれば鉛筆で自由自在に書き込み、それを修正することができます。

これは楽曲を演奏する上でとても大きなメリットになりますが、紙媒体であることのデメリットも多く持ち合わせています。

まず何より嵩張るという点です。

例えばかの偉大なるベートーヴェン様の残された全32曲からなるピアノソナタ集などは出版社によって全2巻あるいは全3巻ずつに纏められている事が多いですが、どちらにせよ1冊でブリーフケースの5割ほどを占めるようなサイズと、鉛のごとき重量を持ち合わせています。もちろんベートーヴェンだけでなくバッハの平均律やショパンのエチュード、ドビュッシーの前奏曲集なんかも持ち合わせるとそれだけでカバンの中はギチギチになり、朝出かけ始めた頃にはすでに疲労感に襲われるでしょう。

もちろん楽譜に収録されている全ての作品を一挙に取り扱っているわけではないと思うので(そんな事は世界有数の超人でない限りは不可能)良くある手法が、今取り扱っている作品の部分だけコピーして持ち歩くという手法です。(楽譜に限らず著作物の私的利用以外での複製、また配布は法律で禁じられています。)もちろん身体的な負担を著しく減らす事ができますが、一方で多いときは20~30ページもあるような作品を全てコピーして、なおかつ製本するという苦行は精神衛生上よろしくありません。

この問題をうまく解決しつつ、書き込みをスムーズに行えるデバイスとしてiPadをはじめとした大型のタブレットの躍進が非常に大きな影響を与えました。

iPad Pro Apple公式サイトより

iPadは皆様おなじみApple社から販売されているタブレットPCであり、登場以来世界でもトップシェアを維持するなど凄まじい人気を持っている端末で、発売当初まだ小学生だった私もそのデザインに感動した記憶があります。しかし、楽譜を取り扱う上では書き込みの難しさや画面の大きさなどといった問題もありました。しかし今ではApple Pencilの登場や、iPad Proなど大画面モデルの登場により、数多くの音楽家が楽譜閲覧用にiPadを使用しています。前置きが非常に長ったらしくなりましたが、今回はiPadを音楽用に使った際のメリットやデメリットなどをお伝えできればと思います。

iPad使用によるメリット

まずはじめに大きくメリットとなる点をご紹介いたします。

1. 持ち運びが非常に便利

先ほど校長先生のスピーチかのようにやたらと説明したように、とにかく楽譜は持ち歩く上で荷物になります。もちろんRinascimento読者の皆様の中にはお抱えの運転手や荷物持ちが付いているやんごとなき身分の方もいらっしゃるかもしれませんが、現代社会において一般的には自分の荷物は自分で運んでいる方が大多数だと思います。少しでもカバンの中身は減らして楽に移動したい我々にとって、何よりも大きな利点だと言えるでしょう。

2. 楽譜の管理が楽

楽譜などの書類データは残念ながら本をスキャンするほか入手する術はありませんが(何度も述べますが、著作物の私的利用以外の複製、配布は違法です)、コピーするのとそこまで手間は変わらないので、電子化のデメリットにはなり得ません。それどころか、一度綺麗な状態の楽譜をデータとして保管しておけばおけば、書き込みの種類や日付によって別データとして新しい楽譜を使うこともでき、非常に便利となります。また、大量の作品を一挙にまとめて管理する事ができるので、検索するだけで容易に求めている楽譜にアクセスする事ができます。

3. 譜めくりが便利

楽譜は1曲につき数十ページに及ぶものも多くあります。練習時には楽譜を基本的には見る事が多いかと思いますが、両手が塞がっている中わずかな隙をついて紙の楽譜を綺麗にめくるのは難問です。大概はうまく掴めずしわくちゃにしてしまうか、捲り切る事ができずに元のページに戻ってしまう、もっと酷い場合はビリビリに破いてしまう事もあります。その点iPadなら使用するアプリにもよりますが大概は画面の一部分をタッチするだけで次のページに移行する事ができます。これにより練習中はもちろん、伴奏や室内楽などといった楽譜を見ながらの本番においての不幸な事故の確率がかなり抑えられます。

4. マルチタスクが非常に便利

練習をする際に曲想を掴んだりするために楽譜を見ながら実際の音源を聴いたりすることも多くあります。そんな時にいちいち山のようなCDラックから横文字の楽曲名あるいは演奏者名とにらめっこせずともすぐに音楽アプリにアクセスして手軽に音源を流しながら楽譜を見る作業に戻る事ができます。すごく地味ですが、何度も繰り返し行う行為なので積み重ねると大きなロスになります。

5. 暗いところや舞台上でも見やすい

これは個人差があるかもしれませんが、ステージによっては異様に暗い場合や、逆にやたら光が差し込んできて紙では反射して何も見えないなんて事もあります。そんな時iPadは端末そのものが発光しているのでそういった見えない問題が解消されます(長時間暗い所で画面を見るのは体によくないので、必要に迫られた時以外はなるべくご遠慮ください)。

iPad使用によるデメリット

次に、デメリットとなる点を紹介します。

1. 目が疲れる

こればかりはしょうがない事なのですが、やはり長時間電子機器の画面を見続けると目が非常に疲れます。ただでさえ細かい記述の多い楽譜ですので、ブルーライトカットのメガネをかけたとしてもやはり紙の見やすさとは比べ物になりません。

2. 書き込みに限界がある

Apple Pencilなるデバイスにより飛躍的に書き込みの精度が上昇したものの、まだまだ紙に鉛筆で書くほどの自由度はありません。書いて消してを何度も繰り返せるのは利点でもありますが、細かい記号や指示を多量に書くとなるとやはり紙に軍配が上がるでしょう。

3. 電池の管理が手間

この一言だけを見るとあまりにもひどい面倒臭がりの様に見えますが、実は意外と大きな問題です。趣味で楽しむというぶんにはそこまで使用することはないかもしれませんが、演奏家などは1日に何時間も楽器、楽譜とにらめっこしています。紙であれば何時間開いていようと見る事ができますが、当たり前ですが電子機器だとどうしても電池がなくなると楽譜を見る事ができなくなります。Apple Pencilに関しても同様です。なので、「練習しようと思ったら電池が全然なかった」みたいな事が起こる点については楽譜閲覧用として使用する場合は明確なデメリットと言えるでしょう。

4. 金額が高い

ここまでの3つのデメリットを考慮しても音楽を楽しむ上では非常に便利なデバイスだと確信を持って言えますが、情報量の多い楽譜を見るための大型の画面の端末となるとやはりiPad Proになり、普通のiPadと比べても金額がとても高いです。実際のところ、ここまでに紹介した用途に限るのであれば、iPad Proの性能は些かオーバースペック気味です。極端な言い方をすると電子書籍リーダーの延長線上のようなものにそこまでの金額を支払う事が果たしてどうかと言われると正直なんとも言えないところではあります。私のように頻繁に楽譜を取り扱う方の場合はそれだけでもパフォーマンスとしては十分に満足できるものではありますが、普段家でしか楽譜を見ないといった方にとっては必要かと言われるとそこまででは無いかなと思います。しかし、iPad Proはもちろん楽譜閲覧だけでなく、そのスペックを活かして他のiOS端末では動かせないような動画編集や画像編集といった用途のアプリを軽々と動かす事ができます。私も普段はMacBookを使い演奏会用の簡単なフライヤーや、プログラムノートなどを作っているのですが、それに差し込む画像データなどはiPadで編集することも多くあります。また、そこまで高密度に記述されている楽譜を取り扱わない場合は13インチの物でなくとも良い場合もあります。なので、iPad Proそのものはもちろん適正な価格であると言えますが、最初に述べたとおり”楽譜を見るためだけ”の場合は少し考え直した方が良い場合もあります。

オススメのアプリ等

ここまでメリットデメリットを書いてきましたが、実際に私が普段どのようなアプリをiPadで使用しているかをほんの少しばかりご紹介したいと思います。

まず、楽譜リーダーですが私は主にPiascoreとForscoreというアプリを併用しています。どちらも主に音楽家、愛好家向けに作られた楽譜閲覧用アプリで、Piascoreは基本無料、Forscoreは有料アプリとなっています。

Forscore download

Piascore download

どちらも作曲家や年代、楽曲形式などジャンル分けをする事が出来る為、楽譜の管理に適しています。書き込みに関してもどちらもそこまで問題はありませんが、Forscoreは有料アプリな分Piascoreでは追加課金しないと使用できないような要素(メトロノーム等)がはじめから全て使用できることや、直感的な操作という面では優れていると思います。ただ、Piascoreでは楽譜を管理する際に楽譜の表紙の画像を登録する事ができ、たくさんの楽譜の表紙が並んでいるのを見るのが好きな私はどちらかというとPiascoreを使用する頻度が高いと思います。

Piascore スクリーンショット

また、ノートアプリとして非常に人気のあるGoodnotesには五線譜やTAB譜というテンプレートが備わっているので、音楽の座学などについて勉強する際にも重宝しています。下記の様に簡単な(綺麗ではない)作品などを書き連ねて遊ぶ分にもちょうど良い代物になっています。他にもAffinity photoという画像編集アプリもフライヤー作成のための素材を編集するのに役立てています。

GoodNotes 5 スクリーンショット

GoodNotes 5 download

Affinity Photos download

いかがでしたでしょうか。iPadをはじめとしたタブレットPCは我々のような音楽従事者にとっては最早マストアイテムの一つとも言えるレベルになって来ているかと思います。最近ではHenle社などがiPad向けアプリを出すなど電子書籍として楽譜を販売している会社も増えて来ていますので、スマートに楽譜を管理したいという方は是非ご購入を検討されて見てはいかがでしょうか?

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ピアニスト・音楽家 主にクラシック音楽に関する事柄を執筆いたします。