サンルイのグラスとともに撮影

A爺さん「いやぁ〜ホント、80年代は良かったよ。今の音楽が全て偽物に感じる位に。感動した、俺はさぁ。東京文化会館の普門館、アレ?今は無いんだっけ。カラヤンが目の前で、ドヴォルザーク。もうね新世界よ。」

B爺さん「A君若いなぁ〜80年代なんて最近、最近!あんなの形ばっかりだよ。60年代、僕が二十歳の時はね。なんたってフリッツ・ライナー生きてたからね〜」


クラシックもオペラもそりゃ良かったでしょう。やっぱり当時は良かったんですよ。酒も音楽も。
マッカランについて語りたくない理由がそこです。とにかく今から始めるには財が必要で、ウマいと言われた1950~60年代のボトルを集めるのには1本50万円以上は覚悟しなければいけません。それでいて当時のコンディションが保たれているかは未知数なのです。遮光ガラスにすり合わせ平栓+蝋封しているならまだしも、コルクやスクリューキャップを使っている時点でまともに飲めるか怪しいのです。

そうなるとギリギリ手に入れれるのが1990年代のマッカラン。上記のボトルたちですが、これはマッカラン・マニアから言わせれば「偽物マッカラン」で既に劣化したあとといわれています。モロミに使われる大麦はゴールデンプロミス種(1968-1980)でないとマッカランではない。いや、それより前の大麦の方がうまかったと話すお爺さんもいます。

マッカランは、なぜ不味くなった?

ではなぜ、マッカランの味が変わったのでしょうか。
これには様々な理由がありますが、大きく影響を与えたのは「大麦品種の変更」と「ウイスキー酵母」「保管する樽の変化」があります。

私が北海道で撮影した二条大麦

ゴールデンプロミス種が消え去った理由

CobosocialのThe Golden Promise of Whiskyには、次のように書かれています。

After the year of 1994, The Macallan lower the use of Golden Promise and introduced barley that have a higher alcohol per tonne transfer rate. They launched the “Fine Oak” series back in 2004, which will mark as one of the changing point in the history of The Macallan. Even though the sherry cask stays as a line that continues, but Golden Promise seems to be gone forever.

The result is inevitable as the next generation of barley varieties- like Optic and Chariot , have been proven themselves to be more cost effective. They became more resistant to different infections, survive adverse weathers, higher alcohol per tonne transfer rate, as well as a shorter length of dormancy (Golden Promise would be 2 months compare with Optic’s 6 weeks). All of the above leads to a lower production cost for both the farmers and the distilleries.
https://www.cobosocial.com/dossiers/the-golden-promise-of-whisky/より引用

1994年以前であればマッカランのボトルを手に取って「シェリー樽で熟成されていること」「大麦がゴールデンプロミス種であること」は明確でした。当時この2つの要素こそがマッカランのシンボルとなっていました。それより後になると、大麦のゴールデンプロミス種の比率を下げ、1トン当たりのアルコール度数が高い大麦を導入しました。(※1)

2004年には「ファインオーク」シリーズを発売し、マッカランの歴史に大きな変化をもたらします。シェリーカスクは継続するライナップとして残りますが、ゴールデンプロミス種は以後、永久に使われることはありませんでした。
大麦の次世代品種である「オプティック種」や「チャリオット種」は、以前よりコストパフォーマンスが高いことが既に証明されていて、ゴールデンプロミスから置き換えられることは避けられないことでした。それらの品種は様々な麦の病気への耐性あり、悪天候にも耐えられます。更に1トンあたりのアルコール濃度が高く休眠期間も短くなりました。ゴールデンプロミスは、オプティックの6週間に対して2ヶ月です。上記のすべてが、農家と蒸留所の両方の生産コストを下げることにつながったのです。

使用時期 大麦品種 1トン当たりのおおよそのアルコール収穫量(リットル/1トン)
Pre-1950 Spratt amd Plumage Archer 360-370
1950-1968 Zephyr 370-380
1968-1980 Golden Promise 385-395
1980-1985 Triumph 395-405
1985-1990 Camargue 405-410
1990-2000 Chariot 410-420

(訳注:※1大麦の品種によりデンプンの含有量が多い方が糖化効率が良くアルコールを抽出しやすいためです。)


品種改良によってアルコールの生産効率向上に繋がり、麦の病気に耐性があり生産コストを下げれる新品種に置き換えられることは自然な流れだったのです。しかし、この新品種が仕込みで糖化され蒸留されて樽の中で長い眠りについた後にどのような結果をもたらすかは、長い時間が経たないと分からないことでもありました。

大麦の品種改良によって味が変わるというのは安易に想像ができます。製菓や製パンに興味がある人であればご存知だと思いますが、小麦の品種の違いで焼き上がるパンや菓子の香りや味、食感などが驚くほどに変化します。
ウイスキーの香味の多くは大麦から由来しているので品種改良によって変化が起こるのは想像に難くありません。

大麦品種とウイスキー酵母の関係

もうひとつ驚く事実があります。『ウイスキー起源への旅』(三鍋昌春著、新潮選書、2010年)によると、ウイスキーの香味成分について次のように書かれています。

蒸留はウイスキーの製造では非常に重要な工程だが、元となる香味成分を含む発酵モロミは醸造によってできる。酵母が発酵中に様々な成分をつくり出すのである。もちろん仕込水由来、麦芽由来の成分もあるが酵母の働きがなければ酒にならない。(p66)
酵母では発酵終了期にかけて信じられない変化が体成分に起きる。酵母菌体のタンパク分解による多彩な窒素化合物の生成だけではない。脂質もその組成が大きく変化するのだ。そうしてできた脂質代謝化合物がウイスキーにとって重要な香味成分になっていく。(p70)
大麦品種もウイスキーの香味形成にとって忘れてはならない役割を持つ。具体的には、殻皮の厚さ、粒の大きさ、窒素含量、脂質含量などの要素が重要で、窒素含量、脂質含量とも低いものの方が望ましい。当然ながら、腐敗やカビの繁殖がなく、発芽率が高い健全なものが求められる。(中略)大麦品種は絶えず改良されている。近年使われている代表的な品種はオプティック(Optic)だが、ゴールデン・プロミス(Golden Promise)のように50年以上も前から栽培が続けられているものもある。(p203)

大麦品種は絶えず品種改良されアルコールになる効率が良く、病気に強く発芽率の高いものに置き換えられているということです。それだけでなくウイスキーの香味は酵母による影響が大きく、発酵中のモロミによって形成されるとも書かれています。マッカランというとすぐにシェリー樽、良質なシェリー樽の枯渇に焦点を置きがちですが、このように蒸留したてのニューポット(ニューメイク)の時点で大麦品種や発酵モロミの影響を受けているのです。

発酵槽の中の麦汁 2009年に白州蒸溜所にて撮影

今から20年近く前の、2000年前後のサントリー公式サイトに面白い一文を見つけましたのでスクリーンショットを掲載してみます。

ハイランドで2番目の政府登録蒸溜所として1824年に正式に発足。 しかし蒸溜の歴史はそれよりはるかに古く、 18世紀初めにはすでに名声を博していたハイランドきっての名門。 麦芽用大麦には絶滅寸前の最良品種ゴールデンプロミス種を使用、 創業以来同じ形の小さな蒸溜釜でじっくり蒸溜、 スペイン産のシェリー樽で貯蔵・熟成したその味わいは 「シングルモルトのロールスロイス」とも讃えられる現代シングルモルトの最高峰です。(サントリー公式HPスクリーンショットより)

このように、当時は2004年以前でゴールデンプロミス種が使用されていたのです!
そして、ゴールデンプロミス種のことを絶滅寸前の最良品種とさえ紹介しています。皮肉なことに数年後、名実ともに消滅してしまったのですが……。

マッカラン旧ボトルの当時の価格

当時の価格も興味深く、定価は以下の通りでした。(消費税別、送料込み)

ザ・マッカラン 10年 100プルーフ 11,950円
ザ・マッカラン 12年 8,000円
ザ・マッカラン 18年 12,000円
ザ・マッカラン 18年 グランレゼルバ 17,000円
ザ・マッカラン 25年 67,000円
ザ・マッカラン 30年 99,000円
ザ・マッカラン 50年 700,000円

信じられますでしょうか。
旧ボトルは現在では、12年が5万円、18年が20~30万円、30年が70~90万円、50年が800万円程度で流通しています。
2000年当時、私は10歳でしたがウイスキー飲みの父がなぜ私のためにグランレゼルバを数本買っておいてくれなかったのか責めたい気持ちです。

ジャパニーズウイスキーも近年人気が急上昇して、定価と大きく乖離したプレミアム価格が付けられることがありますが、これは需要に対しての供給量が少ないためです。マッカランはシェリー樽だけで熟成させた現行品の12年が6~7千円で在庫豊富に売られているにも関わらず、旧ボトルは価格高騰の一途を辿っています。
いずれも本数限定ではなく、当時は在庫が潤沢にあり地方の酒屋にさえ並んでいたボトルばかりです。中国を始めとした新大陸での人気上昇という要因もありますが、市場価格こそが昔の美味しさと現行品の味の劣化を象徴しているといえます。

大麦品種の変更と発酵槽(ウォッシュバック)

さて再び大麦と酵母の話に戻ります。エジンバラ大学のOmaha Scotch Watch Newsletter(1998年6月号)でもエステルノートと窒素の含有率、発酵槽について触れられています。

Russell noted that Macallan is very particular about the barley and yeast it uses. Currently about 30 percent of the barley is golden promise and 70% is chariot. Both of these strains of barley are high demand. Golden Promise is quite hard to get. According to Russell it is not as popular with farmers since it produces lower yields that a strain such as Chariot, however, it does produce a superior sugar compound he referred to as ester notes. While Macallan does not have floor maltings, it does provide very clear specifications to its malters about the purchase and malting of the barley. This becomes quite complex but is key to distilleries such as Macallan. For example, they may specify the amount of nitrogen that is used on the fields since nitrogen may increase yield but may lower sugar production for the maltings.

Macallan’s mash tun is 6.8 tons and produces 6 million liters of worts per year. After the last infusion of water at approximately 90 degrees centigrate the worts flow into the washbacks. They have 16 washbacks at Macallan and they use 4 kinds of yeast which they mix in a yeast mixing vessel. The only other distillery we saw with such a mixer was at Glenkinchie. Macallan uses brewers and distillers yeast in a complex mixture that includes 50 percent cultured yeast. In fact, Macallan is in the minority in using brewers yeast which other distillers have stopped using for fear of bacterial growth.

Interestingly, Macallan switched to stainless steel washbacks about 5 or 6 years ago. Much of the debate about wood versus stainless steel has to do with useful life of the wood, bacterial overgrowth that wood washbacks might develop and so forth. We heard many different opinions during our trip but with no clear view as to which approach is the best. That’s what makes the process so interesting.
http://www.dcs.ed.ac.uk/home/jhb/whisky/socs/omaha/5.3.htmlより引用

ラッセル氏は、マッカランは使用する大麦と酵母に非常にこだわっていると述べています。現在、大麦の約30%がゴールデンプロミス種、70%がチャリオット種です。これら大麦はどちらも需要が高く、ゴールデンプロミスは入手がかなり難しい状態です。ゴールデンプロミス種はチャリオット種よりも収量が少ないため農家の間では人気がありませんが、「エステルノート」と呼ばれる優れた糖質を生成します。マッカランにはフロアモルティング(床での発芽)はありませんが、大麦の入手とモルティングについては厳格な基準を麦芽業者に要求しています。これはマッカランのような蒸留所にとっては重要なことです。一例では、畑で使用する窒素の量を指定することがあります。窒素は収穫量を増やすことができますが製麦のための糖度を下げることがあり、その影響を考慮しているためです。

マッカランの糖化槽(マッシュタン)は6.8トンで年間600万リットルの麦汁を生産しています。摂氏約90度で最後に水を注入した後、発酵槽(ウォッシュバック)へと流れ込みます。マッカランには16の発酵槽があり、4種類の酵母を使用し、酵母混合容器で混合していいます。このようなミキサーを使用している蒸留所は他にはグレンキンチーだけです。マッカランでは醸造用酵母と蒸留所のウイスキー酵母を50%含む複雑な混合物を使用しています。実際、他の蒸溜所では細菌の繁殖を恐れて使用を中止しているので、醸造用酵母を使用しているマッカランは少数派といえます。

興味深いことに、マッカランは5〜6年前にステンレス製の発酵槽に切り替えました。木材とステンレスは、耐用年数や発酵槽のバクテリアの繁殖などに関係していることが多いのですが、今回の旅行では様々な意見を聞きました。しかし、どちらがベストなアプローチなのか明確にはなりませんでした。そこが面白いところですね。


上記のことからもマッカランが大麦品種や酵母に強くこだわっていたことがうかがえます。先ほどの『ウイスキー起源への旅』によると、もともとウイスキーの酵母はエールを作る過程で副産物としてできた廃酵母をスラリー(ドロドロの状態)で蒸留所に持ち込み利用していましたが、品質が安定しなくて困っていたそうです。そこに、かのUD(ユナイテッド・ディスティラーズ)が研究、製造した「DCL M」タイプという酵母がもたらされたのです。DCL Mは微生物汚染がなく、発酵力が強くウイスキーの香味のバランスが良く、それ以降も「DCL S」など改良が続けられています。
本書には酵母や発酵について詳しく紹介されているので、興味がある人はぜひ手にとって読んでみてください。

引用ばかりで申し訳ないのですが、上記の話を整理すると1980年代から2000年代にかけて徐々にゴールデンプロミス種の比率が下がったことが分かります。そして酵母も少なくとも1998年の時点では不安定な酵母をあえて使っていたようです。更に決め手になるのが、麦汁を作る発酵槽(ウォッシュバック)を1992~1993年頃に木材から安定性が高いステンレスに変更したそうです。

記念日美味しいお酒」というサイトに発酵槽(ウォッシュバック)について分かりやすく紹介されているページがあります。そこから木製とステンレス製の違いについて、一部を引用してみます。

木製の場合、利点としては保温性に優れ乳酸菌などの微生物が活発に繁殖し、独特の風味も与えてくれます。木製に染み込んだ成分が溶け出し、それが発酵もろみに移り、使い込むほどに深みが増してゆきます。弱点としては、雑菌が繁殖しやすく衛生面での管理に注意が必要となります。

一方のステンレス製は、大規模な蒸留所や近代的な蒸留所で用いられることが多い。木製と比べ温度管理や微生物管理が簡単にでき、外部からの影響を受けにくいため、安定した状態で発酵が行えます。そして清掃が容易なので衛生面でも安心といえます。反面、発酵に好ましくない振動が多少伝わりやすいという弱点も持っています。https://kinenbioisiiosake.jp/whisky004.htmlより引用

一概に木製が良いと言い切れませんが、生産量の増加による安定性の確保や維持費のコストダウン。大麦品種も収穫量を増やして、アルコールを多く製造できる品種に移行しました。それが1990年前後に起こった出来事といえそうです。

マッカラン12年は2004年10月に新ラベルになって発売されましたが、ここから急激に味が劣化したといわれます。仮に2004年までのマッカランが美味しかったと仮定して逆算すると、1992年より前に樽に詰められたものが美味しかったことになります。”何か”が見えてくるのではないでしょうか。

この品質を6千円で売り続けて大丈夫なの?とファンから心配された最後のカスクストレングス

良質なシェリー樽の枯渇?

マッカランといえばシェリー樽をイメージする人も多いはずですが、皆さんはシェリーは飲んだことがありますか?私は早いうちからウイスキーを飲んでいましたが、27歳にしてイタリア料理店の食後に初めてシェリーを飲みました。確かアッピア アルタ西麻布だったと思うのですが、その時飲んだのが「ボデガス・ヒメネス・スピノラ」というペドロヒメネスを専門にしたボデガ(生産者)で大変甘口で濃厚、とろっとしたクリーミーな味わいでした。

スペインバルではシェリーを提供していますが、他の飲食店では一部の高級イタリアンやフレンチでない限りなかなかシェリーを飲む機会がありません。日本では世界各国のワインは飲まれますが、ワインの一種であるシェリー(酒精強化ワイン)はあまり飲まれていないのが実情です。このシェリーの消費量の低迷もシェリー樽不足に影響していますが、それよりも根本的な問題があったようです。その筋20年以上のシェリー専門家であるSherry Museum館長 中瀬航也氏は著書『Sherry – Unfolding the Mystery of Wine Culture』(中瀬航也著、志學社、2017年)で次のように語っています。

この1986年のスペインのEC加盟は、長きにわたるシェリーの空樽とスコッチ・ウイスキーの文化に大きな亀裂をもたらしました。それはシェリーを樽に入ったまま国外に輸出することの禁止という、一つの歴史の終焉を意味するものでした。
それまでは次のようなシェリー樽が良いとされていたからです。
既にバーボンの空樽による熟成がメインで、そこまで樽の種別を重要視していなかった蒸留所は良かったのですが、それまで、どこかシェリー樽熟成による味わいを売りにしてきたマッカランや、ザ・グレンリベット、グレン・ファークラスなどは頭を抱えたことでしょう。
ただマッカラン社などは、英国がECに加盟した1973年には既に対策に動いており、スペイン北部ガリシアなどでスパニッシュ・オーク(コモン・オークQuercus robur)の確保や植林、スペインでの新樽製造、ボデガへ預けて約2年使用後、回収して、スコットランドに運んで使用するようになります。『Sherry – Unfolding the Mystery of Wine Culture』より引用

「1986年スペインのEC加盟」これがキーワードになります。今でこそ当たり前になっている原産地呼称によってシェリー樽が入手できなくなったと本書で語られています。産地呼称制度というのは例えばボルドーワインのAOC、現在は A.O.P.(Appéllation d’Origine Protégée)と呼ばれていて規定に満たないものは産地を名乗ることができません。イタリアオリーブオイルのIGPやDOPも産地呼称制度の一種です。
今までスペインからシェリーの樽のまま英国に輸入して瓶詰めしてシェリーを売っていたのが、それでは名乗ることができなくなり、生産地であるヘレス (Jerez)で瓶詰めしないと認証を受けれなくなったためにシェリー樽が枯渇したというのです。本書は最近読んだ洋酒関係の本の中でも特に面白く、シェリー樽の由来やアメリカンオーク樽とヨーロピアン(スパニッシュ)オーク樽の違いやルーツについて細かく書かれています。

私の手元にあるマッカランの旧ボトルの裏にも次にようにシェリー樽について書かれています。

‘The Mystery of Sherry Oak Maturation” For reasons not even science can wholly explain, whisky has always matured best in oak casks that have contained sherry. Due to increasing expense and scarcity, other distillers no longer insist on sherry casks. The Macallan directors do. Journeying annually to the bodegas of Jerez, Spain, they buy fresh oak casks into which they pour mature , carefully chosen sherries, then keep them for two further years in Spain before having them shipped over to be filled with whisky. The results are shown partly in The Macallan’s rich golden colour, partly in the ‘nose’ and wholly we may venture?,… in the tumbler. 「マッカラン7年」ラベルより引用

「シェリー樽熟成の謎」
科学でも説明がつかない理由から、ウイスキーは常にシェリーオーク樽を使用した熟成が最高とされてきました。しかし希少性が増して入手が難しくなったため、他の蒸溜所ではシェリー樽にこだわらなくなってきました。しかしマッカランの重役たちは毎年スペインのヘレスのボデガを訪れ、新鮮なオーク樽を購入し、そこに厳選したシェリーを注ぎ、スペインでさらに2年間保管した後に英国でウイスキーを貯蔵しています。その結果がマッカランの豊かな黄金色と「香り」を表現しています。ぜひグラス(タンブラー)お楽しみください。


このように1986年以降、安定してシェリー樽が入手できなくなったマッカランは自社で新品のオーク樽を購入し、ヘレスのボテガに樽を預けてシェリーを保管してもらい、それを英国に戻してウイスキーを貯蔵するスタイルに変化しました。香味つけのための一時的なシェリー詰めのことをシーズニングとも呼ばれますが、1960年代~1970年の原酒が素晴らしかったと言われる所以がここにあります。スペインで伐採したオークで組み上げられたスパニッシュオークは、スペインのシェリーを保管されることはありません。1980年年代以前のアメリカンオーク樽のシェリーが詰められていた時代のマッカランと香味が異なるのは感情論ではなく、そもそも貯蔵している樽の木が異なることに由来しています。先ほど紹介したシェリーの本に詳しく書かれています。

転換期はバーボン樽のファインオーク

2004年に「ファインオーク」というシリーズを発表しました。これはシェリー樽の枯渇もあり会社の方針を大きく方向転換して、ヨーロピアンシェリーオーク樽にアメリカンシェリー樽、アメリカンバーボン樽で熟成させた原酒をヴァッティングし最低12年熟成させたものです。これもまた1990年前後には既に多くのバーボン樽を買い付けて保管、熟成していたことを裏付けますし、1986年のスペインのEC加盟とも整合性がとれます。

以前からボトラーズで小ロットでのバーボン樽熟成のマッカランは売られていましたが、レギュラー商品としてバーボン樽をPRして販売しているものはありませんでした。マッカランの転機ともいえるのがファインオークの販売です。事実、海外のウイスキーマガジンを読んでいると当時の決定にはマニアからの否定的な評価がありました。

Giovinetti ジオヴェネッティとは?

ボトルの話に入りたいと思いますが、マッカランにはイタリア経由のGiovinetti & Figli(ジオヴェネッティ&フィグリ)というボトルが存在します。これはミラノにあったボトラーズ会社の名前で、イタリア国内の正規代理店として台頭していたそうです。

7年のラベルの左に樽を転がすオジサンが描かれていて、下にARMANDO GIOVINETTIと書かれています。ニュースItalia a Tavola のhttps://www.italiaatavola.net/articolo.aspx?id=5277によると、創業者のアルマンドがジョビネッティ・インターコンチネンタル・ブランズを設立した1960年代初頭にまでさかのぼり、ゼロからモルトウイスキー市場を創造たそうです。イタリアで「グレン・グラント」ブランドを立ち上げたそうです。更に「グレン・グラント」をシーグラムグループ(現ペルノ・リカール)に売却し、1980年代初頭にジオヴェネッティ・エ・フィグリを設立して「マッカラン」を販売しました。
つまりジオヴェネッティはイタリアのインポーターの一つで、私の手元にある「株式会社やまや」や「リカーズトレーディング株式会社」のような立ち位置であったようです。ただイタリアでの影響力は大きく、オリジナルのラベルを貼り付け、肝心の味の傾向の指定までしていたと推測できます。

実際に2つを飲んで感想をレビューしたいと思います。ストレートで飲み、次に少し氷を入れてみました。

マッカラン7年 Giovinetti & Figliの感想

滑らかでオイリー、アッサムの紅茶のような渋み
マンゴーや南国フルーツのような香り、洋梨のコンポート。
12年と比べると甘みが強く、焦がしたキャラメルのような甘さがある。
氷で穀物の香りが強く出てくる。甘みが抑えられる。焼き菓子のような香り。加水で時間が経つとアラビカ種の焙煎したコーヒー豆を噛んだときの苦味。コロンビアのティピカのような香り。

推定1980年代のボトルです。

マッカラン12年の感想

シェリーの香りは少なく、オーク樽の木材の香りが強く出ている、コクがあり余韻が長い。
少しバニラ、フルーツの香りは余りない。モンテプルチアーノのような赤ワインぶどうの渋さがある。
フランスの葡萄でなくイタリアの品種に似た苦さ。
氷で甘みが出てくる、摘みたてのイチゴのような優しい甘さと酸味が出る。

推定1990年代で12の文字の下にTWELVE YEARS OLDと表記があります。これが無いものは更に昔の80年〜と推測できます。

なぜ旧ボトルは美味しかったのか?

タイトルの「なぜ旧ボトルは美味しかったのか」上記の情報をまとめると、「大麦品種」「酵母」「樽」がマッカランの味の変化に影響を与えたと推測できます。そして1993年前後に一度目の方向性の転換があり、それらが12年ほど経過した2004年に市場に「新ラベル」またファインオークの追加という形で現れました。
私自身ただのウイスキーを飲むのが好きな素人でしかありませんが、書籍や文献を辿ってみると「あの頃は良かった」はただの感情論でしかないとは言い難く、実際に数多くの原因によって変化したのだといえます。それが人によって、不味い、劣化と評価したり、むしろ今の方が飲みやすく感じる人もいるかもしれません。ただはっきり言えることは当時と今のマッカランでは中身が異なるということです。

ただ今から慌てて過去のマッカランを高い値段を出してまで飲む価値があるかは別問題です。
確かにこの2本は美味しいのですが、現在5 ~7万円を出して飲むには少々高すぎます。2~3万円であればまだ理解できますが、当時4~5千円で売られていたものなのでポテンシャルに限界がありますし、価格高騰しすぎていることは否めません。

それよりも後悔しているのが2010年頃のマッカラン カスクストレングス(10年)を買い集めていなかったことです。当時コレを気に入って4本ほどリピート買いして飲んでいたのですが、今回飲んだ7年や12年に匹敵する香りと味わいを持っていました。香味の方向性は異なりますが、リッチでふくよかと表現するのに相応しいボトルであったことは確かです。
カスクストレングスも同じように2010年当時6千円だったのが現在では5~6万円になってしまっていますが、同じ金額を出すならカスクストレングスの方が好みです。ただ、往年のマッカランというよりはグレンファークラスのファミリーカスクのようなニュアンスですが……。他の記事で書いたこともありますが、現在やや手頃に入手できるボトルでお勧めなのは、初代の「レアカスク」です。2万円程度で買えるにも関わらずマッカランの香りや雰囲気を享受できます。
一方で酷いボトルはエディションシリーズです。No.1とNo.2しか飲んでいませんが1本1万円以下ならまだしも、希少性なだけで10万円近くまで高騰しているNo.1は無理して買う必要はありません。

シングルモルトのロールスロイスの行く先は

「シングルモルトのロールスロイス」というフレーズが独り歩きして、いつしか日本でマッカランを宣伝するときに必ず用いられるようになりましたが、元々はハロッズのパンフレット(Tony Lord, Colin Parnell (ed.), Harrods Book of Whiskies, Decanter Magazine, published for Harrods Ltd., 46p., 30cm, 1978)から引用されたものです。
1978年といえばマッカランの黄金期、延いてはロールスロイスの黄金期でもあります。シルヴァーシャドウ(1965年-1977年、ファントムVI(1968年-1991年)、コーニッシュ(1971年-1987年)と往年の名車が揃い、ロールス・ロイスもベントレーもBMWやフォルクスワーゲンの傘下ではなく手作りに近い工程で、エンジンも独自設計だった時代です。時は下りプラットフォームの共通化やオートメーション化が訪れ、今でももちろん二社はプレミアムレンジとしてその地位を確立してはいますが、当時のロールスロイスと今のロールスロイスは、マッカランと同じように違うものとして存在します。

ハロッズの近くピカデリー通りの裏で見かけたコーニッシュ(2019年)

2018年にマッカラン蒸留所は更に生まれ変わりました。建設に関わった業者は25社で、総工費は1億4千万ポンド(約200億円)。蒸溜所の設備を一新することで、生産量を以前の3分の1増にあたる年間1,500万リッターにまで増加させる。時代の流れとしかいいようがありませんが、これによってもたらされる結果はやはり後になってからしか分かりません。
少なくとも私達ができることは、今飲めるマッカランをタンブラーで楽しむことしかなさそうです。


免責事項
上記の内容は平成初期に生まれた私が小遣いの範囲で飲み歩いて知り得た結果であるということです。リアルタイムで黄金期を体験していないので、語れる内容に限りがありますし、25年や30年はもとよりグランレゼルバさえ飲んだことがない初心者です。もし読者の中でマッカランに精通している人、また内容の誤りが気になる方がいましたらフォームよりそっとお知らせ頂ければ幸いです。

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1989年 静岡市出身。主な執筆分野:ライフスタイル、旅行、料理、お酒。