イタリアにおいて大々的なイベントといえば、クリスマスと復活祭です。
クリスマスは12月24日の夜から聖ステファノの祝日である26日まで続くのに対し、復活祭は毎年日程が移動します。
イタリアにおけるイベントは食とは無縁では過ごせません。コロナ禍においては一族郎党が集うことは不可能になりましたが、一般的には親戚一同が集ってマンマたちが料理の腕を振るいます。
クリスマスにも復活祭にも登場率が高い食材のひとつに、アーティチョークがあります。イタリアでは冬から春にかけて市場の一角を占めるごく普通の野菜であり、その調理法もさまざま。その姿は、絵画作品にも残されていたり噴水のデザインにも見ることができます。
そんなアーティチョークにはさまざまなエピソードがあります。

アーティチョーク処理に必要なもの、手袋とレモン!

嵩があるアーティチョークですが、実際に食べられる部分はごくわずか。
市場で購入しても、処理していくと半分以上は廃棄することになります。個人的には、アーティチョークの花蕾部分の味わいは日本のフキノトウに似ていると常々思っているのですが、揚げたり炒めたり煮たりと食べ方はさまざまです。茎の部分は、これまたイタリアでは伝統的に食べているカルドンという野菜にそっくり。いずれも、アザミに属す植物であるため当然かもしれませんが。
イタリアでは「カルチョーフィ」という愛嬌ある名前でした親しまれるこの野菜、非常にアクが強く、処理をする際には手袋をはめないと手が真っ黒になります。また、処理して切ったアーティチョークはレモン水に浸けて黒ずみを防ぎます。市場でアーティチョークを購入すると、おまけにレモンをもらえるのはこの理由のためです。

古代ローマのモザイクも、ルネサンス時代の絵画にも

地中海地方においてはアーティチョークは古代から存在していたようで、チュニジアのバルド美術館にはアーティチョークを描いたモザイク画が残されています。
イタリア半島でアーティチョークが本格的に普及するのは15世紀のこと。
16世紀には人文学者のピエトロ・アンドレア・マッティオーリや、ローマ法王パウルス3世につかえた料理人ヴィンチェンツォ・チェルヴィオが、アーティチョークの形状や食べ方についての記述を残しています。
好意的な意見ばかりではなかったのも面白いところで、『狂えるオルランド』の作者ルドヴィーコ・アリオストはアーティチョークについて「固くて苦い」と苦言を呈しています。実際、現代のわれわれも運が悪いと固くて苦いアーティチョークにあたってしまうこともあり。

メディチ家のお姫様がフランスに持参したアーティチョーク栽培の名人

15世紀には特にトスカーナで普及が栽培していたアーティチョーク。フィレンツェの実力者メディチ家のお姫様は、このアーティチョークが大好物でした。
このお姫様、カテリーナ・ディ・メディチがフランス王家に嫁ぐ際に随行させたのがアーティチョークの栽培名人です。彼女によって、フランスの宮廷でもアーティチョークが知られるようになりました。
ちなみに当時の記述によれば、アーティチョークは夜の生活にも有効とされていたのだとか。

調理法もいろいろ!アーティチョーク百珍

現代のイタリア人は、カルチョーフィをパスタ、ラザニア、ピッツァなどに使うほか、揚げたり煮たりとさまざまな調理法で味わいます。
ルネサンス時代にはどんな食べ方をしていたのでしょうか。
スペインに生まれてイタリアで活躍した哲学者ウーゴ・ベンツィは「軽く茹でて塩と胡椒で」食べるのがベストと記述しています。
モデナ生まれの旅行家ジャコモ・カステルヴェントは、粋にも「生」で食べるのがよろしいと書いています。冷蔵保存もなかった当時、生で食べることはまさに究極の贅沢でもあったことでしょう。
現在のアーティチョーク料理は、ローマ風と形容詞がつくとアーティチョークの花の内部にミントの葉やニンニクを詰めてたっぷりの油で調理されて出てきます。
ユダヤ風となると、カリカリに揚げてあるため歯ごたえが特徴的。
天ぷらのように衣をつけても美味で、いくらでも食べることができます。
小学館の日本大百科全書によれば、アーティチョークは江戸時代に渡来したものの、普及にはいたらなかったとのこと。日本の気候がアーティチョークの栽培に向いていないのでは、というのが私の思うところです。
参照元

Il cibo e la tavola  Silvia Malaguzzi著 Electa社刊 P.206-208

・https://www.inherba.it/mito-storia-e-tradizione-del-carciofo/

・https://www.gamberorosso.it/notizie/prodotti-di-stagione-i-carciofi-con-la-ricetta-di-eugenio-boer-di-bur-di-milano/

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歴史・美術・書籍に埋もれてイタリアの片田舎で生きてます。