日本では「イタ飯」と総称されるイタリアの料理は、地方ごとにかなりの相違があります。
世界中で最もよく食べられているパスタ「カルボナーラ」は首都ローマがあるラツィオ州の郷土料理ですし、昨今日本の若い女性に人気の「バーニャカウダ」はピエモンテ州の名物、といった具合です。
いずれにしても、イタリアやスペインを中心とした地中海の食事はユネスコの世界遺産に認定されたイタリア人の誇りです。ナポリのピッツァ職人たちの技術も世界遺産となり、フランスではライバル意識メラメラにバゲットを世界遺産に!という動きもあったのだとか。
イタリア国内でも、ナポリのピッツァが世界遺産になるのならばおらが町の郷土料理やワインもという「立候補者」が後を絶ちません。
シチリア料理代表「パスタ・アッラ・ノルマ」も、この潮流に乗るというニュースがありました。

イタリア人が認めるシチリアの美味
南北に長いイタリアは、経済格差が大きいことでもよく知られています。
経済的に優位を誇る北イタリアの人々でさえ認めざるを得ないのは、南イタリアの食の豊かさです。
「マーニャグレチア」と呼ばれた古代ギリシアの植民地化の時代から、イタリア南部は豊かな土壌を誇り穀倉地帯として有名でした。地中海の太陽をさんさんと浴びるシチリア島には、アーモンドやピスタチオ、レモン、リコッタチーズなどをはじめとにかく数えきれないほどの特産品があります。これらを使った料理やお菓子は、「なにしろあれはシチリアのものだから美味しくて当然だ」という概念がイタリア全土に浸透しています。

パスタ・アッラ・ノルマとは
とはいえ、そのシチリアの郷土料理といわれるパスタ・アッラ・ノルマは日本ではまだそれほど知られた存在ではないかもしれません。
パスタ・アッラ・ノルマは、トマトソースにシチリア名産のリコッタチーズと揚げたナスやバジルを加えて食べるパスタです。それだけ聞いてもインパクトがなさそうな料理ですが、揚げたナスとバジルの芳香、ほどよいまったり感を演出するリコッタチーズがアクセントとなり大変な美味です。

この料理の起源は19世紀の終わり。
シチリアはカターニア出身の詩人ニーノ・マルトニオがこのパスタを食し、「(オペラの)ノルマのごとき荘厳さ!」とつぶやいたことが名前の由来という説があります。また別の説では、「ノルマ」を作曲したヴィンチェンツォ・ベッリーニがミラノに滞在中、シチリア出身の友人シェフとともに考案した料理ともいわれています。そもそもインド原産のナスは、中世初期にアラブ人を介してシチリアに到来して以来の特産物です。くわえて、「シチリアで食べるリコッタは他の地で食べるものとは異なる美味」とイタリア人に評されるチーズを使用するという、根っからシチリア料理であることは衆目の一致するところなのです。

なぜ今「ユネスコの世界遺産」へ?
そのパスタ・アッラ・ノルマがなぜ今、ユネスコの無形文化遺産へとプッシュされているのでしょうか。
過去に世界遺産に認定されたナポリのピッツァやベルギーのビールと比べると、シチリアの一料理にすぎないパスタ・アッラ・ノルマは少しインパクトに欠ける印象は免れません。
新聞によると理由はこうです。Covid-19の感染拡大によるイタリアの観光業界の打撃は計り知れず、シチリアもこの例に漏れません。ツーリズム業界へのテコ入れのためにまず話題が必要であったことがひとつ、さらに作曲家ベッリーニの命日9月23日を「パスタ・アッラ・ノルマ・デイ」と定めて世界的に知名度を上げたいという思いがあるようです。
もちろん、推進しているシチリアの人々にとってもユネスコ世界遺産認定への道が険しいものであることは自認しているのだとか。

南イタリアは質だけではなく量でも定評あり
クリスマスに食べるお菓子であるパネットーネやパンドーロ、これらは北イタリアに起源があります。
にもかかわらず、シチリアで作られるこれらのお菓子が美味しいのは、材料となる小麦粉やナッツ類が無類に美味しいことにつきます。わが家は毎年シチリアの一工房からこれらのお菓子を取り寄せます。内部に挿入されるピスタチオクリームの量ときたら常軌を逸しており、生地よりもクリームの量のほうが多いのではないかと疑いたくなるほど。
イタリア人のバカンス先としてシチリアをはじめとする南部が人気なのは、海の美しさだけではなくこの食も大いに関係があります。
質だけではなく量も第一級の南イタリアの食が人気なのもむべなるかな、といったところです。

 

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歴史・美術・書籍に埋もれてイタリアの片田舎で生きてます。