ピアニストの登竜門 前編 ~12の練習曲 Op.10より~

みなさまこんにちは、ライター高橋です。今回はショパン作の、練習曲でありながら恐ろしいまでに音楽性を併せ持っている名作、またピアニストの3大最重要レパートリーでもある12の練習曲のうち、Op.10を紹介いたします。

ショパンについて

晩年のフレデリック・ショパン

まずはショパンについて軽く触れておきしょう。フレデリック・ショパンは1810年にポーランドに生まれたロマン派の作曲家です。同時期に生まれたリストやシューマンとともにロマン派音楽、何よりピアノ音楽を語る上での最も重要な作曲家と言えるでしょう。彼は生涯の創作活動のほとんどをピアノ作品に費やしました。彼の生まれ故郷の音楽であるマズルカをはじめ、バラード、ポロネーズ、ソナタなど多岐に渡ってピアノ音楽の真髄を極めていると言っても過言ではありません。その美しい旋律は生後200年たった今でも世界中で愛されています。

12の練習曲 Op.10について

先程も記述した通り、この作品は非常に趣のある叙情性を兼ね備えてはいるものの、主に生徒への教育ツールとして作曲されたものとなっています。ショパンはバッハの平均律クラヴィーア曲集をはじめ、クラーマーやツェルニーなど様々な作曲家が残した練習曲に多大なる影響を受けており、その様相が曲集の随所で見受けられます。また、この作品はフランツ・リストに献呈されていることでも有名です。


Op.10-1


広いアルペジオのための練習曲。ハ長調であることや曲集の頭の曲であるということ、アルペジオであるということなどから、バッハの平均律第1巻 1番のプレリュードに対するオマージュとして見受けられます。右手の広いアルペジオは手の小さい人にとっては難しく、大きかったとしても点々と存在する難所の対策を考える必要があります。また、関節や筋肉の柔軟性をうまく利用しないと途中で疲れが見えて粗が目立つようになってしまうなど、難曲揃いの練習曲集の中でも比較的難易度の高い作品となっています。


Op.10-2


3、4、5の指の半音階と内声のための練習曲。この作品を演奏するに当たって、お付きの外科医を用意しなければならないと言ったようなジョークがあるように、Op.10に置ける最難の作品と言えます。重いタッチをかけずに滑らかに流れていく半音階と、曲の色を表現する左手の跳躍と右手の内声のバランスを細かく定めないと崩壊してしまう可能性があるため、人前で演奏するためにはかなり弾きこむ必要があるでしょう。


Op.10-3 「別れの曲」


カンタービレと内声の処理、和声感のための練習曲。この作品は練習曲集の中でも特に有名な作品の一つです。非常に美しい旋律とともに紡がれる哀愁は思わず練習曲であるということを忘れさせてくれるでしょう。パッセージの難易度だけ見れば他の練習曲に比べれば弾きやすいですが、美しく歌うと言った点に置いては非常に難易度の高い作品です。


Op.10-4


16分音符による両手の細かいパッセージの正確な打鍵のための練習曲。Presto con fuoco(とても速く、火のように)と言った指示があるとおりに、疾走感と緊張感を併せ持つ作品です。細かい区分のパッセージが交互に転調して現れる”紡ぎ出し”と言った技法が用いられていて、目まぐるしく変化していく様相がまさに火の様相です。また、正確な拍節感を持っていないと崩れてしまうため、奏者は冷静でいないといけないため、難易度の高い作品となっています。


Op.10-5 「黒鍵」


素早い黒鍵に置けるパッセージのための練習曲。黒鍵という通称からも見て取れる通り、曲中に置ける右手のパッセージ全てが黒鍵で書かれている作品です(左右の弾き分け方によっては1音だけ白鍵を弾きます)。黒鍵に親指を使用すると言ったことはこれまでなかったのですが、この作品では至る所でその指示があります。そのことから、後の黒鍵の扱いに少なからず影響を与えた作品とも言えるでしょう。


Op.10-6


ポリフォニーと和声構築のための練習曲。この作品は一貫して三声で書かれており、対位法を用いない声部の弾き分けが重要となっています。また、濁りが生じやすい和声の移り変わりが随所に見られるので、ペダルの使い分けに最新の注意を払う必要があります。また、ソプラノの哀愁漂う旋律をうまく歌い上げると言ったことも重要になってくるでしょう。


Op.10-7


3度と6度によるレガートのための練習曲。音程関係を表す3度と6度を組み合わせてレガートを紡いでいくと言った内容になります。レガートでというところがこの作品の難易度をあげている1番のポイントとなります。というのも、重音であるにも関わらず連続で同じ音を弾かなければならない箇所が非常に多く、同じ音を弾きつつ上声部とともにバランスを保ちレガートを弾くというのは、演奏に置いて必要なタスクが多いのです。また、移り変わっていく和声感にて色を細かく表現することも演奏する上で非常に重要となるでしょう。


Op.10-8


右手の16分音符によるパッセージのための練習曲。快活なテンポにて下行と上行を繰り返す右手の旋律に対して、少し戯けた雰囲気の左手の跳躍と言った非常にユニークな組み合わせの作品です。比較的演奏しやすい部類ではありますが、油断すると拍節感が崩れて曲想が流されてしまうため、奏者は気を引き締めて冷静に取り組む必要があるでしょう。


Op.10-9


左手のアルペジオによる伴奏形のための練習曲。オクターブを超えるアルペジオによる伴奏形を崩さずにうまく調和させると言った技法が必要となります。緊張感ある右手の歌につられて左手の拍子が崩れてしまう危険があるため、演奏者は左手の和声の動きに感情の動きを合わせる必要があります。それらをクリアしつつAgitato(興奮した)の様子を落とし込むことがこの作品の表現に置いて重要です。


Op.10-10


6度を用いたレガートのための練習曲。冒頭Legatissimo(非常にレガートで)の指示がある通り、この作品の肝は重音における繊細なレガートと言えるでしょう。この作品の音形は両手共々気を抜けばすぐにレガートに聴こえなくなるというとてもリスクの高いものとなっています。しかし、それらが実現できたときの演奏効果は非常に高く、汎用性のたかい技術ともなっています。


Op.10-11


両手の分散和音のための練習曲。全体を通して分散和音によって音楽が組み立てられています。分散和音を綺麗に分割して演奏し続けるのは思いの外難易度が高く、それでいて右手の最高音による旋律をうまくレガートで歌わせる必要があります。全体を通して和声感を聴き通す力をうまく使うことが必要不可欠でしょう。


Op.10-12 「革命」


左手の16分音符によるパッセージと右手のオクターブの旋律のための練習曲。ショパンの練習曲において最も有名な作品であるこの作品の名称は、リストによる通称である。ロシア軍によるワルシャワ陥落の知らせを受けたことによるショックの元作曲されたと言われているが、実際はもう少し前の段階から創作に取り組まれている。非常に即興的なフレーズをコントロールしながら表現する必要があり、また左手のフレーズをクリアに弾き続けることはとても難易度が高い。非常に演奏機会も多く、名曲として様々な場面で使用されている。


オススメのCD

この作品を聴くに当たって、オススメのCDは何と言ってもポリーニのものです。

ポリーニ”ショパン練習曲集”

ポリーニの鮮やかなテクニックにより、練習曲集の美しい音楽表現がとても繊細に再現されています。ポリーニはテクニカルな側面を持っていますが非常に歌心のあるピアニストでもあり、数々の名盤を出しているので、ご興味持たれましたら他の作品も聴いていただければ幸いです。

おわりに

練習曲 Op.10 いかがでしたでしょうか?練習曲でありながら芸術作品としての完成度も非常に高く、演奏会でもよく取り上げられていますので、ご興味持たれましたら演奏会に足を御運びいただけたら幸いです。後半Op.25も近日中に投稿いたします。また、他の作品も紹介していますので、そちらも是非お願いいたします。

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