親愛なる友への手向け 〜展覧会の絵より〜

こんにちは、執筆がしばらく滞ってしまいましたが皆さまいかがお過ごしでしょうか、ライター高橋です。今回はロシア5人組の一角であるムソルグスキー作の展覧会の絵についてご紹介させて頂きます。

ムソルグスキーについて

ムソルグスキー

ムソルグスキーはロシア出身で、風土由来の民族的なモチーフなどを重点的に取り上げた国民楽派に属する作曲家です。また、バラキレフやキュイなどと共にロシア5人組のメンバーとしても知られています。元々農地経営をする地主の一家に生まれたムソルグスキーは士官学校に進みエリート教育を受けましたが、音楽への関心を捨てきれず、19歳ごろに退役し作曲家としてのキャリアを歩みます。

展覧会の絵につい

この作品はムソルグスキーの代表作でありオリジナルのピアノ独奏版をはじめ、ラヴェルやリムスキー=コルサコフなどによるオーケストラ版も広く知られています。

友人であった画家のガルトマン(ハルトマンとも表記される)の遺作展よりインスピレーションを受け創作されたこの作品は、冒頭を始め様々なタイミングで流れるプロムナードという5拍子と6拍子が変則的に混ざり、作曲者本人が展覧会を歩く様子が描かれているテーマと、10枚の絵をそれぞれモチーフにした作品が不規則に現れる事によって、それぞれの断章が非常に印象的な組曲となっています。


プロムナード


先ほども記載した通り、5拍子と6拍子によって作曲者本人が展覧会を歩く様子が描かれています。曲間においても断片的に現れますが、調性によって異なる性質が見られ、特徴的なモチーフも相まってこの組曲の顔とも言えるでしょう。


第1曲 小人(グノーム)


ガルトマンが描いた小人

冒頭のプロムナードからアタッカ(間を空けずに)で低音部のユニゾンで始まります。やや不気味ながらも歯切れが良く道化的なモチーフは、いたずら好きな小人の様子を表しています。


第2曲 古城


古城のモチーフになったと有力視されている絵

プロムナードから尾を引き、低音の5度を皮切りに哀愁漂う歌が漂います。古城という題からも、嘆きの方向性がややノスタルジックな雰囲気を帯びているでしょう。


第3曲 テュイルリー 遊んだ後の子供のけんか


テュイルリーというフランス、パリにある公園にて子供たちが遊び回った後に疲れ果てて揉めている様子が描かれています。冒頭から目まぐるしく騒がしくしている様子が非常に子供らしく愛嬌のある作品です。


第4曲 ブィドロ(牛車)


ブィドロのモチーフとなったとされる絵

ポーランド語にて牛の集団という意味を持っていますが一方で家畜のような人という意味もあり、真意としてはロシアに虐げられたポーランド人を表していると言われています。当時のロシアではこのような表現はタブーであったため、あえてタイトルを牛車という名にされていました。陰惨としたモチーフは、弾圧され苦しみに悶える市民達の嘆きなのでしょうか、それとも怒りなのでしょうか。


第5曲 卵の殻をつけた雛の踊り


バレエの踊り子の衣装のデザイン案

タイトルからして可愛らしい印象を持つこの作品は、雛の様相ではなくそれらの衣装を着たバレエなどの踊り手を表していると言われています。とても軽やかに可愛らしく踊る姿が連想できるでしょう。


第6曲 サムエル・ゴールデンベルクとシュムイレ


この作品が書かれた当時、サムエル・ゴールデンベルクは裕福なユダヤ人の典型的な名前であり、シュムイレは典型的な貧しいユダヤ人の名前とされていました。ふんぞり返って威張っているようなゴールデンベルクと小賢しく卑しいシュムイレの会話における対比がとてもコミカルな作品となっています。


第7曲 リモージュの市場


目まぐるしく動き続けるメロディーは、女性達の止めどなく溢れる会話や慌しく行き交う人々など、市場における喧騒を表しています。メロディーが常に変化し続け、大変歯切れの良い乗りやすいリズムが続く為、聴いていてとても愉快な作品となるでしょう。


第8曲 カタコンベ-ローマ時代の墓


カタコンベのモチーフとなったとされる絵

死者を葬るために掘られた地下洞窟の墓地を探索するガルトマン自身が描かれた絵がモチーフになっています。陰惨とした地下の様相と死のイメージが物悲しげに表現されています。


死せる言葉による死者への話しかけ


カタコンブから引き続き陰鬱な様相が展開されます。プロムナードのモチーフが変化して現れていることからも、絵の中の墓を歩くガルトマンと展覧会を歩く自分を重ね、友人への手向けとして書かれているのではないでしょうか。曲が終わりに近づくと優しいハーモニーになることからも、親しい友人として安らかに葬送したかったのだろうと思います。


第9曲 鶏の足の上に建つ小屋(バーバヤーガの小屋)


バーバヤーガの置き時計のペン画

鶏の足をもつ置き時計のデザイン画をモチーフにしたこの作品は、非常にグロテスクでリズミカルなメロディーを持っています。その置き時計はバーバヤーガというロシアに伝わる魔女を表しているとされ、狂楽的でダイナミックな旋律は聴取を巻き込んでトリップしていくでしょう。


第10曲 キエフの大門


キエフの大門のデザイン画

第9曲目からアタッカで始まるこの作品は、展覧会の絵における最後の作品となります。焼失してしまっていたウクライナ、キエフの大門を再建するためのデザイン画がモチーフになっています。まだ見ぬ荘厳な大門に対する期待や、友人の才能への賛美が惜しみなく表現されていて、曲集を締めるに値する素晴らしい作品となっています。

オススメのCD

比較的オーケストラ版が有名なこの作品ですが、個人的には初めてなら何と言ってもピアノ独奏版を聴いていただきたい所です。演奏者は福間洸太朗さんの物がおススメです。
火の鳥ロシア・ピアノ作品集福間洸太朗

展覧会の絵の他にもロシアの作曲家の様々な作品が収録されています。ヴィルトゥオーソ性の高い火の鳥(アゴスティ編)やイスラメイなどが福間さんの多彩な音色によって美しく表現されていて、非常に聴きごたえのあるアルバムになっています。

おわりに

展覧会の絵はいかがでしたでしょうか?大変有名なプロムナードをはじめ、数多くの名作によって組み上げられた名曲です。ホールで生演奏を聴くとまた一段と感動できると思いますので、ご興味がありましたら是非コンサートに行かれてみてはいかがでしょうか?

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