日本人でオランダを観光するとなったらみなアムステルダムに行くでしょう。あとめぐるとしたらハーグやロッテルダム、ユトレヒト、北の方へ足を延ばすならフローニンゲン、アムステルダムから近場を狙うなら前にご紹介したことのあるフランス・ハルス美術館のあるハールレムといったところでしょうか。

私の住んでいる町であるライデンを観光するという日本人旅行客も想定されます。ライデンには日本にゆかりのあるシーボルト博物館(Japanmuseum SieboldHuis)がありますし、他にも国立古代博物館(Rijksmuseum van Oudheden)、国立民族学博物館(Museum Volkenkunde)、2019年にEuropean Museum of the Yearに輝いた科学と医学の博物館である国立ブールハーフェ博物館(Rijksmuseum Boerhaave)といった美術館や博物館が充実しているからです。

その他、交通の便が悪いデ・ホーヘ・フェルウェ国立公園にあるクレラ・ミュラー美術館(Kröller-Müller Museum)を、ファン・ゴッホのコレクションを目当てに訪れるという人もいるでしょう。

しかしよほどの変わり者でない限り、オランダのただの田舎町を訪ねてみようという人はいないでしょう。実際、普通は行く価値がないのです。別に何もないのだから。

しかし本当に何もないのだろうか。それに短い旅行の時間をそんな場所に割きたくないと思うようなところだからこそ、どんな場所であるかご報告する価値もあるのではないか。

村上春樹の『1973年のピンボール』じゃありませんが、「見知らぬ土地の話を聞くのが病的に好き」だという読者がいらっしゃるのではないかと思うからです。

別に行きたくはないが、どんなところなのか好奇心が少しは働かないでしょうか。オランダのなんの変哲もない田舎町ではどんな風景が広がっているのか。

そんなことを最初から思っていたわけではありませんが、先日サイクリングがてらライデン近郊にあるVoorschoten(フォールスホーテン)という町を散策してみたので、写真多めでご紹介したいと思います。

いたって変哲のない田舎町の、その中でも繁華街の入り口近くの写真です。同じような色とデザインの建物が並んでいます。街灯にはゼラニウムなどの鉢植えが飾られていますが、こうした鉢植えはオランダではどこでも街灯や橋の欄干などに、統一したスタイルで飾られているのを見ることができます。どこでも同じような鉢植えで、同じような花を飾っているのは統一感があってきれいです。個性がないとはいえますが。

こちらはリンデン並木の下で、カフェやレストランが集まっている場所です。教会の隣にあるこの道は町の中心となる通りの一つで、この写真からはよく分かりませんが、この時は金曜日の夕方だったこともあり、テラス席は賑わっておりました。

教会の姿です。名前はその名も「村の教会 Dorpskerk」。潔くていいと思います。

僕が訪れた時は(中に入ったわけではないですが)、ちょうど隣のガラス張りの近代的な建物の前で集会後に人が集まっているような様子でした。あとでgoogle mapで見ると、プロテスタントの集会所が併設されているようです。

ステッカーが貼られてしまっている教会前の広場の歴史の案内板。9世紀にはここにすでに教会があり、16世紀にスペイン軍に破壊され、そのあと正面だけ修復されたと。今ある教会は19世紀のものだと書かれています。教会の門横にも案内板があり、そこにはその19世紀の建築は新ゴシック様式のものだとありました。

教会の横、カフェやレストランが集まっている通りの反対側の通りです。時間が遅かったので、閑散としていましたが、ここが町(村?)一番の商店街のはず。

商店街を進むと中東系の食料品店が。見えづらいですが、ケバブを扱っていることも分かります。こんな小さな町でも移民の存在感はあるのですね。

これはこの食料品店の店先の果物売り場。マンゴーが二つで1.5ユーロ。トマトがキロ1ユーロ、イチゴが二パックで3.5ユーロ。安いです。でもライデン市の価格より安いというわけではない。

さっきの道を戻って、カフェやレストランが集まっている通りへ。こういったタイルで建物の名前が書かれている建築をオランダではよく見かけます。郵便局だったのでしょうが、今は託児所として使われているようです。

相変わらずいたずらでステッカーが貼られていますが、フォールスホーテンの歴史案内版、このお洒落な農家を紹介してくれています。特徴的なのが日本の建築でいうのであれば懸魚にあたる部分ですね。左右の屋根が合わさる真ん中部分の装飾が可愛いです。もっとも、私はそれがきれいだと思いましたが、案内板が注目しているのはのこぎり状の軒蛇腹。私が勝手に懸魚と呼んだ部分も合わせて、美しいです。案内板は上の窓の形にも注目しています。細かいことは置いておいて、単に全体として見て綺麗です。

これは別の家ですが、「懸魚」(上にも突き出ているのでそう呼ぶのは適切ではない気がしますが)部分が美しい。

 

この建物は19世紀に郵便局として使用されていたそう。1905年に郵便局は上でみた、いま託児所と使われている建物に移されたと書かれています。1935年には個人の所有になったとありますが、私がこの写真を撮っている時には普通に個人の家の様子でした。

 

フォールスホーテンの中心から郊外へ進むと、こんなすてきな茅葺屋根のお家が売りに出されていました。風見鶏(鳩?)のついたこんな田舎の家を所有してみたいものです。

もともと田舎町からさらに外れの方へ自転車をすすめたのは、道路標識に、向こうのほうに城!があると書かれていたためでした。地図で確認してみても、それほど遠くない。ここに来るまでまったくその存在を知りませんでしたが、Kasteel Duivenvoordeなるお城があるらしいのです。

自転車で漕ぐこと、十五分くらい、城の敷地の入り口にやって来ました。

オーク並木の道を進んでいくと、こんな家が。城の前にすでにこんな立派な家が建っています。

ここから先へ進むには自動券売機でチケット(1ユーロ)を買わなければなりません。誰もいないし、門があるわけでもないですが。それほどたくさん人が訪れる場所ではないのでしょう。券売機は多言語対応でした。

これが城です。こんな場所、なんの計画もなしにサイクリングをしていて見つけるとはラッキーでした。ちょうど閉門の時間も近かったためか、交通の便も悪いためか、私の他は一人二人見かけるだけでした。これぞ貴族の館といえるような敷地の広さで、敷地の中は住人の家や農家などが何軒かあります。ここは一般に開放されているとはいえ、個人の所有地なのです。

広い森を自転車で回っていると、さささっという音がして、小動物が逃げる姿を何度か目撃しました。野兎がいるのです。上の写真の中央部には分かりづらいですが、兎が映っています。望遠レンズを持ってこなかったのが失敗でした。ちなみに、この写真の場所はクリスマスツリーに使う木を育てている場所のようでした。

このお城、年中、結婚式などのイベント用に貸すことは行っているのですが、博物館としても開放しており、中に入る手段はそれが一番手っ取り早いようです。博物館として開いているのは一年の初夏から秋であり、すべてガイド付きで、午前11時から午後2時までの間に30分ごとにあるツアーになります。今度機会があれば行ってみて、中の様子を報告してみたいと思います。

Kasteel Duivenvoorde

 

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オランダ在住。オランダの文化や自然、その他ファッションについてなど諸々発信していきます。