History and Myth
In the late 18th century, Severo Arango y Ferro arrived in Cartagena de Indias in Nueva Granada (present-day Colombia). He had plans to improve tax collection for Spain in the American Spanish colonies. His strong and powerful nature was quickly recognised and he was soon dubbed DICTADOR.
Then came the moment when he fell in love at first sight (and taste) – he discovered rum. His devotion and affection for the tropical elixir drove him to become a key trader of exotic sugar cane spirits, which at the time were considered a currency in the region.

歴史と神話
18世紀後半、セヴェロ・アランゴ・イフェロは現在のコロンビアである、カリブ海に面したカルタヘナ・デ・インディアス(Cartagena de Indias)に降り立ちました。彼はスペインの植民地であるアメリカの徴税をする目的がありましたが、その強力な性格から独裁者を意味するディクタドール(DICTADOR)と呼ばれました。
彼は現地で通貨とみなされていたラム酒と出会い、その味わいに一瞬で恋に落ちました。献身的な愛情によって、ラムの販売者になったのです。

https://www.dictador.com/story

ディクタドール ラムとの出会い

Dictador(ディクタドール)とはスペイン語で独裁者を意味する単語で、18世紀後半にスペインから徴税吏員としてやってきた末裔が、強烈な性格だったためディクタドール=独裁者と名付けられたというのです。
15世紀~17世紀にスペインが新大陸を征服したラムの悲しい歴史や植民地支配によるサトウキビの大規模プランテーションなどの話は次の機会にすることとして、今回はこのディクタドールとの出会いと、マリアージュについて話してみます。

このラムとの出会いは、ローマ市街地のあるリストランテでした。人通りの少ない路地に隠れた店には、2週間の滞在中に5回ほど訪れて様々な料理を堪能していました。特に海鮮料理やパスタ料理が美味しく、写真のようにロブスターを半分に割ったパスタは格別です。

ローマは海に近いのですが、海鮮の種類はそこまで豊富ではなく、このようなロブスターを用いたパスタやグリル。またタコの足を焼いて、マッシュポテトとローズマリーを添えたものが定番で出てきます。
私と同行者は店名を覚えるのが苦手で、最初に美味しかった店を「ザリガニ軒」、次に美味しい店を「新ザリガニ軒」、その次を「お魚軒」など命名していたので、旅行の後半には「今日は、新ザリガニ軒にしよう」「どこだっけ?」だとか「旧ザリガニ軒だよ」「いやいや元祖ザリガニ軒」と、最後にはグーグルマップに保存した正式な店名を検索して電話予約をしたものです。

そんな「新ザリガニ軒」ですが旅行の最終日には、打ち上げとしてトスカーナの民宿で譲って頂いた、Fattoria Dei Barbi Brunello di Montalcino(ファットリア・ディ・バルビ ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ)という赤ワインを抜栓して、華やかな最後のディナーを楽しみました。
少食な人であればバルなどで食前酒を楽しむ「Aperitivo(アペリティーボ)」は利用せずに、そのままリストランテに向かうのが良いでしょう。ローマのバルでは鮮やかなスライスレモンの浮かんだオレンジ色のアペロール・スプリッツという食前酒を片手に、前菜の小皿を摘まむアペリティーボが一般的ですが、このアペロールが大きなワイングラスになみなみと注がれて、さらにはツマミも25cm以上の大きな皿にフィンガーとは言い難い、日本人の一食分ほどのサンドイッチやチップス、チーズなどが乗っています。
オリーブの実やナッツは、残った場合は他の人にリサイクル(?)するようですが、オレンジの美しい酒を飲みツマミを食べると、とてもじゃなく夕食は十分に食べることができなくなります。逆に言うとバルの軽食で済ませれるほどボリュームがある店も存在しています。
よほど大食いであれば問題はありませんが、そうでなければ直接リストランテに向かうのが良いはずです。

こちらはSECONDO PIATTO(セコンド・ピアット)のラム肉のグリルです。メインディッシュに相当します。
肉とブルネッロの赤ワインを楽しみ、デザートの後に「食後酒は何がいい?」と聞いたところ、この写真のディクタドールを勧めてくれたのです。厳密にはDICTADOR BEST OF 1978 – EXTREMO COLOMBIA RUMという名前です。
なぜリストランテや料理の説明を書いたかというと、このイントロ部分がなければラムの理解は難しいからです。

日本とイタリアの食文化、ラムとの相性

先ほどイタリアのバルでの前菜と食前酒について触れましたが、日本の食文化というのはイタリアよりも多岐に渡り様々です。例えば夕食を一人で外食のラーメン1杯で済ましてしまう人、友人と和食の個人店に行く人、中華やフレンチなど会席料理を楽しむ人。
それだけでなく、日本には「何件目ですか?」という言葉があり、例えば私が静岡に住んでいたときの一例はこうです。

土曜日の夕方5時ころに馴染みのワインバーに行って、グラスシャンパンと一口サイズの小さな前菜を頂き、ワインを飲みながら今日行く店を決めます。ベルギー料理やカジュアルビストロなどで食事をして、行きつけのオーセンティックバーで何杯か飲み、その後に別のバーに顔を出し…。20代前半の若い時は零時を超えてシメのラーメンを食べに行ったこともありました。

とにかく酒の順番がメチャクチャなのです。イタリアのリストランテのように、アペリティーボを除いて1店舗で完結するスタイルでないとラムを飲むタイミングを見失うのです。日本では余りラムをストレートで飲んだりしませんが、私はこの食のスタイルが関係しているのではと思っています。

外食なのに家庭的な雰囲気で楽しむ

写真の肉料理のあとに口に残った重たい油と、心地よい渋みのある赤ワイン。その後に飲んだディクタドールのラムは格別に美味しかったです。このラムは先日りんりんがレビューしてくれましたが、香りは完全に煮詰まった黒砂糖。純黒糖を更に芳醇にした感じです。ウイスキーと異なり揮発する香りは少なく、一度グラスに注げば、しばらく同じ香りが維持します。緩やかに香りは飛びますがウイスキーとはキャラクターが異なります。

新ザリガニ軒は、食事に大満足している私になみなみと注いで出してくれたのです。同行者はリモンチェッロやグラッパなど各自好き好きに食後酒を楽しんでいました。
雑なコップにダブルショットよりも注がれたディクタドールを手に、こんなに飲めないよとチビチビと啜って、食後の雑談を楽しんだ覚えがあります。この家庭的な雰囲気がダークラムを飲むのにぴったりなタイミングなのかもしれません。
今までオーセンティックバーで様々な蒸留酒を飲んできましたが、リストランテでのラムはかつて無い感動的な経験となりました。

帰国して手に入れたディクタドール・ベスト・オブ1987

イタリアでの最高の思い出となり、帰国してディクタドールのラムを買ってみたという訳なのです。
私が買ったのはビンテージが9年若いDICTADOR BEST OF 1987 – EXTREMO COLOMBIA RUMというボトルです。このBEST OF.シリーズは様々な製造年からマスターブレンダーが選び抜き、ブレンドして出荷するものでカスク・リファレンス・ナンバーやバッチ、ロットナンバーなど詳細がひとつずつ手書きで残されています。

カスクナンバーにEX-SH628とあり、生産者がスペイン系ラムですので、もしかしたらシェリーの樽などを使っているのかもと海外サイトを検索してみました。Cask Ref:823-EX SH バッチ:72-232というシリーズでは「スコットランドの3番目のオロロソシェリー樽で7か月間完成した」と解説されているので、このボトルもシェリー樽なのかもしれません。

独裁者の航跡を辿る

今月、無事に31歳を迎えた私ですがこの年にして初めてラムと対峙しました。
今までカジュアルにバカルディでモヒートなどを作ったことはありましたが、長期熟成した”2歳上”のラムと真剣に向き合うのは初めてです。
残念ながらイタリアで飲んだ1978年は満腹で気分も高揚していて、おぼろげにしか記憶がなく、味わいの比較などはできませんが、たっぷりと美味しい食事を楽しんだあとにディクタドールを抜栓してみました。

甘い香りに誘われて、慌てて隠してあったシガーを探し出してきます。キューバ産コイーバ・ロブストという葉巻です。
私はタバコは苦手なのですが、年に数回だけ葉巻を嗜むことがあります。ディクタドールは肉料理の後はもちろんですが、食後に外で一服しながらあてがうのに、これほど最適なパートナーはありません。

ダークラムは、ウイスキーのような刺激やスパイシーさを持ち合わせてないのですが、香り豊かな葉巻を足してあげることで信じられない優美な世界を見せてくれます。さながら独裁者にでもなった気分です。しかしそれも時間は有限で、海辺の砂で作った城のように消えてゆきます。ぼんやりと景色を眺めながら、イタリアの料理や、近世スペインの植民地で作った砂糖や奴隷船、そんな雑多な物思いに耽りつつ迎えた31歳なのでした。(はっしー)

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1989年 静岡市出身。主な執筆分野:ライフスタイル、旅行、料理、お酒。