Sartoria Piccirillo Linen 100% Jacket(プロフェソーレ・ランバルディ静岡)

季節感のある服というのはお洒落なものである。しかし夏物のリネンのジャケットといえば、冬のカシミアのオーバーコートに比べてもずっと、お洒落である。

それはなぜかといえば、リネンのジャケットは本来必要ないからだ。冬は寒いのでコートを着なければならない。しかし夏は暑いので、ジャケットを着なければ良いだけの話である。

そこを何としてもジャケットで着こなしたいという人だけが、リネンのジャケットを仕立てる。それは不便な2ドアのクーペであり、重いオールレザーのバッグであり、万年筆であり、シルバーのカトラリーである。

季節感の先取りは全く必要ない

問題なのは、日本があまりにもファッショナブルな国であることだ。

すなわちアパレルの販売員ともなれば9月にはフランネルを着て店頭に立っているし、普通の人でも次の季節を先取りすることがお洒落だとされている。

しかし「季節感を先取りする」という考えは不要だ、というのがリナシメント編集部の考えである。

なぜなら季節感は本来誰かが演出するのではなく、その日その時に感じるものであるからだ。

暑い日が続いていた8月の終わりの夜にふと涼しい風が吹き、それに運ばれてくるかのように虫の鳴き声が聞こえてくる。そういうときに人は秋の存在を感じる。それこそが移り変わる季節の醍醐味なのである。

旬の物は旬の時が一番うまいのであり、時期が早ければ早いほど美味しいというわけではない。まだ暑いと感じる日には、もみじのことなど思い出さず海辺でビールを飲むのが自然な感覚なのである。

服装は人の最も近いところにある。人間の自然な感覚に最も近いものであるのが一番馴染む。

だから季節感の先取りは一切不要なのである。

リネンのジャケット(服)は何月まで着て良いのか?

さて、そのことを踏まえたうえで改めてリネンのジャケット(服)は何月まで着て良いのだろうか。

もし一つの目安が欲しいのであれば、10月中旬を目処に秋冬物へと切り替えていくと良いだろう。この時期にもなれば日中の暑さもほとんど気にならなくなり、合物の出番がかなり多くなっているはずだ。

ときどき思い出したように暖かい日が来るはずだから、そういう日は過ぎ去った夏を偲んでリネンのジャケット+薄手のコットンニットなどで着こなすのも洒落ている。

ちなみに秋にリネンを着る場合には、リネンの質感と重さを確かめよう。軽くて霜の降ったような鮮やかな青のリネンは真夏の匂いが強すぎる。秋になったら、アースカラーでやや重量のあるリネンが雰囲気に合う。

リネンの服を諦めるべきタイミングは明確である。それはどこか一点でも起毛素材の服をコーディネートに取り入れたいと思ったときである。

起毛した素材…例えばフランネルやコーデュロイ、メルトンやツイードそしてスエードといったアイテムを着こなしに取り入れる場合には、リネンとしばしお別れを告げよう。紅茶のシフォンをコーヒーで食べるとか、コーヒーゼリーを紅茶で食べるとか、そういう愚かさを避けるためである。

しかしついでに書いておくのであれば、10月は「冬物」にはまだ早い。分厚いメルトンのコートやハリスツイードを早速取り出してきて、それほど寒くもない日に着ているのはもったいない。秋には秋の風物詩である「合物」がある。

中厚のウーステッドウールやウールシルクリネン等の混紡生地は、この季節にぴったりだ。なんとも短い季節にしか着ることのできないこの辺りのジャケットは、真の洒落者の象徴である。そして財布の寒い紳士の味方でもある。一年中いつ着ていてもなんとなく様になるので、金銭的にジャケットが一着しか買えない芸術家や哲学者にもぴったりなのだ。

冬にリネンは絶対にダメなのか?

良い質問である。真冬でもコットンリネンのシャツなど着る人も少なくない。しかしここまで来ると、これはファッションというよりは主張であり、アンチテーゼである。それはそれで楽しいものに違いない。

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後天的イタリア人。 メンズファッション、車、オペラ等について執筆する兼業ライターです。 本業は田舎の洋服店。