過去の写真フォルダから、海外の高級ホテルの写真を探していて見つけた一枚が上記のサンタ・マリア・デル・フィオーレ(花の聖母)大聖堂です。タイトルとは全くもって関係ないのですが、ウェブマガジンに「リナシメント」という名前が付いているくらいなので、ちょっとした小ネタを。

大聖堂を作ったのは誰?

西洋美術史の入門書はルネサンス建築について簡略化されている部分があり、サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂を建築したのが、ロレンツォ・ギベルティ、フィリッポ・ブルネレスキ、ドナテッロの3人であり、サン・ジョヴァンニ洗礼堂の門扉見本の製作で《イサクの犠牲》を彫らせてロレンツォもドナテッロが競い合ったという部分に焦点を当てることが多いです。ところが『ルネサンス彫刻家建築家列伝』(ジョルジョ・ヴァザーリ著、森田義之監訳、白水社、2009年。)を読んでみると、ドゥオーモ(大聖堂)、サン・ジョヴァンニ洗礼堂、ジョットの鐘楼の構成の中で、主となる設計を行ったのがアルノルフォ・ディ・カンビオであり、全体の設計図と模型を制作して、外壁の大理石からコーニス、角柱、円柱、葉文浮彫、人物像の取り付けの指示まで行ったと書かれています。
大聖堂の花形でもある円蓋(クーポラ)を取り付けたのは先のフィリッポ・ブルネレスキですが、その重量のある工事を無事に遂行できたのは、アルノルフォによる十分な深さの基礎工事や控え壁が取り付けられていたからと紹介されています。
実際には構想だけで、様々な彫刻家や建築家が次々と手を加えていったので、漠然と誰が作ったとは言い切れないというオチなのですが、著者の見方によって紹介の仕方が大きく異なります。

訳注に大事なことが書いてある

ミケランジェロの弟子であり芸術家列伝を残したジョルジョ・ヴァザーリ(マニエリスム期の画家、建築家)は偉大だなァ!と関心して読みすすめると本書の後半の訳注(p335)に、アルノルフォ伝には歴史的記述の誤りが多く、ラーポすなわちアッシジのサン・フランチェスコ大聖堂を建てたドイツ人建築家ヤーコポをアルノルフォの父としているのは間違いである。と書かれているではないですか。もし、しっかりと訳注を見なかったら今頃このウェブマガジンで、アルノルフォの父はサン・フランチェスコ大聖堂を建てたヤーコポだ!と大恥をかいてしまうところでした。

まあこんな話はどうでも良いことかもしれませんが、イタリア旅行でフィレンツェに滞在する人はきっとサンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂やウフィツィ美術館を訪れることでしょう。そんな時に「あ!ガイドブックで見た大聖堂だ!」「もう見た!次はサンタ・マリア・ノヴェッラ薬局、その次はフェラガモ!」では寂しすぎるので、せめて大聖堂の建築について少し齧っていくと楽しめるかもしれません。

更に余談ですが、別に日にローマのコンディッティ通りを歩いていると、宝飾品のブルガリ店舗前を2人の現地爺さんが貼り付いて店内を見ているではないですか。なにか買うのかな?と通りぎわに一瞥すると、驚くことに玄関ガラスを一周囲っている大理石に指差し石材(もしくは化石)について熱く語り合っていたのです。そんな楽しみ方もあるのか!しかしブルガリでなくとも…と驚いたことがあります。海外の高級ブランドやホテルでは天然大理石がふんだんに使われ、時に大理石の象嵌細工や彫刻が施されていることもあるので、石材について学んでから旅行するのも有りかもしれません。

最近ウェブマガジンでネーデルラントネタが多いので、初期フランドル派のヤン・ファン・エイクとファン・デル・ウェイデンについても書きたいのですが本題から逸れすぎるのでまた次回。

夜間にチャイムを鳴らす二人組

初めて海外高級ホテルの洗礼にあったのが7年前、「なつかしき河よ〜モルダウの〜♪」のチェコを訪れた時です。ホテルにチェックインすると「1日300ユーロの追金で素晴らしいスイートルームにアップグレードしてあげるよ!」と通常15万円以上する部屋を格安で提案してくるではありませんか。つい気が大きくなり、憧れのスイートルームに2泊することになりました。

ポーターが部屋まで大きなスーツケースを運んでくれます。入ってみるとさすがに広い!

旧共産圏らしく部屋はスイートルームでも慎ましく質素

夕方に着いてから食事をして部屋に戻り、ダラダラ過ごしているとピンポ~ン!とチャイムがなります。

「Dobrý večer(ドブリー・ヴェチェル)こんばんは!」

と挨拶すると、ドアの向こうには年老いた掃除婦が二人。
60代でしょうか、早口で小声の全く聞き取れないチェコ語でゴニョゴニョ言って、部屋に入って掃除を始めます。

「いや、僕たちさっきチェックインしたばかりで汚れていないよ」

というのをチェコ語で伝えるのが難しく、汚れていない綺麗な部屋を二人の掃除婦が10分ほど丁寧に掃除して帰っていきました。翌日になると、午前中に再び掃除婦の二人組が現れてせっせと掃除やシーツ、リネンの交換をします。
更に午後にも別の掃除のスタッフが入ってきます。1歳児を連れて歩く家族なら助かるでしょうが、大人2人で泊まっているので、せいぜいトイレットペーパーを補充する程度にしかやることがないはずです。

なんと1日のうちに2回も3回もチャイムを鳴らしてくるのです!
部屋のクリーンサービスに慣れないままチェックアウトすることになりました。

ちなみにトイレが二箇所に付いている理由はご存知ですか?

訪れたゲストが利用するのが玄関に近いリビング側のトイレ、宿泊するマスターが主に利用するのが寝室やシャワー室側のトイレです。通常ほとんどのスイートルームに寝室との仕切りがあり、普段は全開にして使い、ビジネスや打ち合わせなどの来客時には仕切りを締めてリビングルームとして利用します。

英国式の”SERVICE”サーヴィス

あるロンドンの高級ホテルに泊まった時のこと。新古典主義の可愛らしい部屋で大満足だったのですが、驚きは後からやってきました。
到着時に5個ほどあったトランクケースをポーターに部屋まで運んでもらいました。数日滞在して、チェックアウトするときもフロントまで運んでもらい、その後にタクシーに乗せてもらうまで頼んだのです。

これだけ重い荷物だからさぞかし大変でしょう。それにロンドンだからサービスというのは往々にして高いものだと、2人の体格の良いポーターの男性に5ポンドずつ手渡しました。つまりチェックインとアウトで合計20ポンド(3,000円相当)もチップをはずんだのです。

ここからが英国式サーヴィスの真髄なのですが、帰国してからやたらクレジットカードの請求書が高いなと明細を確認してみると、間違って日本に持ち帰ってしまった「ハンガー」が50ポンド(約7,000円)、荷物のポーターサービスが150ポンド(約20,000円)で計上されているでは無いですか!

荷物のポーターサービスの150ポンドとはなんぞ…?本人にチップ渡したのに。
しかし、ハンガー代高いな!

と、これまた海外高級ホテルの「慣れない」サービスを受けたのです。

お気に入りのイタリアのホテルで…

あるイタリアのお気に入りのホテルはかれこれ5回ほど滞在していますが、毎回イタリアン・セルヴィツィオを体験しています。こちらもチェコのホテルのように、スイートルームで掃除は一日二回ほど来るのですが、掃除以外にも「庭師」がやってきます。

「Pulireプリーレ?(掃除)」

と聞くと、ノンノン庭師だよ〜!とホウキとゴミ袋を持って爽やかに部屋に参上。
汚れ仕事のツナギを着て、ホンマにホテルの従業員かよ……。と思いつつ入れると、バルコニーの植え込みの枯れ葉やゴミを掃除してすぐに帰るようです。

慌てて、1ユーロ(約124円)を手渡すと、「え?本当に僕にくれるの!?ヤッター!」と言わんばかりに喜び、部屋を去っていきます。5ポンド渡しても「はいどうも」という塩対応の英国人とはとんだ違いだな、と思いつつバルコニーから景色を眺めていました。

それだけでなく、部屋に製氷機があるのですが故障していて使うことができません。
同じ部屋に数ヶ月前にも泊まったのですが、その時も既に壊れていました。氷があったら便利なので、フロントに電話をして来てもらうと、いまいち使い方が分からないようでマネージャーまで来てしまいました。

マネージャー「これねぇ、水を入れてオンを押すんだよ!そうすると数時間後に氷が出る」(イタリア語)

タンクに水を入れてオンを押し、ニコニコ顔で帰っていくマネージャー。

私「壊れてて、それで出ねえから呼んでんだよ!!!」(心の声)

諦めてSenza Ghiaccio(氷なし)な滞在をしたのでした。

最も驚くのが数カ月後の2020年2月、いよいよ日本にも新型コロナウイルスが上陸してイタリア旅行どころの騒ぎではなくなりました。そこで「新型コロナウイルスの影響で、2週間後の予約をキャンセルしたいのですが」とメールをするものの音沙汰なし、Hotels.comのフォームから連絡しても返信なし。
結局、最後まで無視されて宿泊代金の○○万円が虚しくもカードから引き落としされていたというワケです。イタリアでは一泊10万円近い5つ星の高級ホテルでも、電話(イタリア語)でしっかり凸しないとまともな対応は期待できません。

海外高級ホテルの正しい使い方

海外高級ホテルというのは長期滞在を前提にして考えられています。
特にスイートルームなどの宿泊費が1泊10万円、20万円以上するところは数週間以上滞在しても快適に過ごせるようになっています。間違ってハネムーンなど1泊だけスペシャルなホテルに泊まろうとして訪れると、掃除や移動の連続で慌ただしいだけで全然楽しめないこともあるのです。

部屋に入ると木箱のチーズが迎えてくれるフィレンツェのホテル

多くのスイートルームには複数のチェストやクローゼット、シューズの収納があり1ヶ月は滞在できるようになっています。ランドリーの回収に毎日来るところもあります。玄関のクローゼットにはコートなどの外套や傘、寝室側のクローゼットには肌着やシャツ、鞄などを収納して、チェストには本やお土産、買い物した箱など収納します。花やフルーツも電話一本で持ってきてくれるのです。

しかも写真のようなチーズ盛り合わせやワインで迎えてくれるような本当の高級ホテルでは、エントランスホール横のショッピングモールにブリオーニやキートン、ステファノ・ベーメルなど着替えだけで50~100万円近いプライスが付く店が入っているのです。

つまり1泊20万円払えば快適に泊まれるのではなく、何日か宿泊しないと寛ぐことは難しいですし、インクルーシブプランでない限り様々なサービスに相応の費用が掛かるのです。そしてドアマン、ポーター、フロント、掃除人などと信頼関係を築きお互いに寄り添わないと真に快適な滞在は難しいのです。
フォルシーズンは価格も一流ですがサービスも一流で、タクシーにロロピアーナのストールを置き忘れてしまった時に、ドアマンが一台ずつ顧客の部屋番号とタクシーの番号を控えているために、わずか15分で失くしたストールが手元に戻ってきました。「良かったね!」とフロントのお姉さんがにっこり笑いながらストールを手渡してくれたのには痺れました。

他にもテラス席でエスプレッソを注文すると、リチャードジノリのフィエーゾレに似たカップ&ソーサーで出てきましたが何故か絵柄が少し違います。そこで疑問に思い、このリチャードジノリは特別なモデル?と給仕に尋ねると、したり顔で「ジャルディーノ(庭)を見てごらん」。
なんとフォルシーズンの庭がリチャードジノリに描かれているではないですか!

海外のホテルは良くも悪くも、色々な事で驚かされるという貴重な経験でした。

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1989年 静岡市出身。主な執筆分野:ライフスタイル、旅行、料理、お酒。